第37話 高校生にもなって母親が同伴することになるなんて思いもしなかった件について
その日の夜――
母さんと葉月と食卓を囲っていた。
「へ〜、そんなに可愛かったんだ。翔琉の彼女」
「お兄にもったいないくらいの人だった」
「葉月が褒めるなんて珍しいね。お兄ちゃんのこと好きだからその彼女に姑みたいにいびり出してるのかと思ったわ」
「そ、そんなことしないもん」
葉月が不満ですと言わんばかりに頬を膨らます。
僕は二人の女子トークに対して無言で食事をしている。ここは空気に徹するしかない。そうでないと、僕と明日香の話題なんて恥ずかしくて聞いてられない。
そんな時、机に置いてあったスマホが震えた。僕は食事の手を止め、スマホを見る。どうやら明日香からメールが届いたようだ。中身を確認していると、いつの間にか女子トークが終わったのか葉月が聞いてくる。
「明日香さんからメール?」
「別荘に行く話だけど今月の二十七日から三十日の3泊4日でいいかだってさ」
「もう、一週間ないじゃん。早速準備始めないと」
「準備もいいけど、ちゃんと勉強もしろよ」
「うげぇぇぇぇぇっ・・・・・・」
「うげぇぇぇぇぇっじゃない。気持ちは分かるけど」
葉月は別荘に行ける喜びもつかの間、勉強もしなければいけない現実にテンションただ下がりだ。
「何? 何の話?」
ここまで大人しく聞いていた母さんが興味深そうに聞いてきた。
「今度みんなで海に行くことになったんだ」
「へ〜、みんなって一樹君と加奈ちゃんでしょ」
「あとひよりちゃんと明日香さんだよ」
葉月が補足した。
「ひよりちゃんは分かるけど明日香さんってもしかして翔琉の彼女?」
「そうだけど・・・・・・」
「ちなみに明日香さんはひよりのお姉さんだったんだよね。あんなにきれいなお姉さんがひよりにいるなんてビックリしたんだから」
「そうなのね。ちなみに彼女の名字って何?」
「そうなの聞いてどうするんだよ」
「私の知り合いの娘さんにあすかって名前の人がいるから気になってね」
「たまたまだろ」
「そうそう。世間もそんなに狭くないって」
僕と葉月は呆れながら言うのだった。
「まぁ、それならそれでいいんだけど。ところで別荘ってどこにあるの?」
「木更津らしいよ」
「な、何ですって!?」
母さんがテーブルをバンッと叩きながら興奮したように立ち上がる。
「ど、どうしたの?」
葉月が聞いた。僕は何だか嫌な予感がする。
「二人とも、私も行っていい?」
一瞬何を言われたが分からなくなってしまったが母さんの言葉が脳内で何度もリフレインして何とか理解した。
「行くって木更津の別荘に?」
「そう!」
「・・・・・・いや、やだよ」
「・・・・・・」
まさか断られると思ってなかったのか母さんが笑顔のまま固まっている。次の瞬間僕にしがみついて直談判してきた。
「な、何で私だって海行きたいの。泳ぎたいの。それに今日食事した友達との会話でちょうど木更津のアウトレットの話がでて行ってみたいなあと思ってたんだよ」
「知らんがな」
母さんの目じりに涙がたまっている。何か罪悪感が込み上げてくる。この人、四十歳を超える人妻なのに見た目が女子大生ぐらいにしか見えないからそんな目で見られたら・・・・・・
「母さんが何と言おうが、高校生になって友達と遊ぶのに母親同伴でお出かけなんてヤダよ」
「それなら大丈夫よ。私見た目が若く見られて葉月と歩いてたら姉妹によく間違われるもの」
この人自覚あったのか。
「最悪母さんのことを知らない人なら百歩譲っていいとしても今回は明日香以外知り合いなんだから俺だけ母親連れて行ったら何か気まずいだろ」
「あら~、もう彼女のことは名前で呼び捨てなのね。あの奥手だった翔琉がね~」
「・・・・・・話の腰を折るならこの件は終わりだ」
僕が席を立とうとすると、
「ごめんなさい!」
僕の服の裾を掴んで平謝りしてきた。
「はぁ~、それに僕だけじゃなくて葉月だって嫌だろ」
「えっ! 私は別にいいけど」
「葉月、今月のお小遣いUPするね」
「本当? やったー」
母さんは葉月の言葉が嬉しかったのかお小遣いをUPさせた。そして、僕のことを見てくる。僕はそんな誘惑には屈しない。そんな態度を見て取ったのか母さんは提案してくる。
「葉月がいいならいいでしょ。もちろん翔琉のお小遣いもUPするし、何なら私がみんなを車に乗っけて木更津に行くから。そうすれば交通費、丸々浮いていいことずくめでしょう」
「お兄、諦めた方がいいよ」
葉月が忠告してくる。確かにこのままじゃらちが明かない。
「はぁ~、みんなに聞いてみるけどダメだったら潔く諦めろよ」
「は~い」
よし言質は取った。当然みんな断ってくれるはずとメールで聞いてみたところ、なんとみんなOKだった。何で!? 僕がおかしいのか?
「母さんが来ることみんないいてさ。それと当日明日香の家が車出して迎えに来てくれるって」
「じゃぁ、さっそく準備しなくちゃね。せっかくだから水着も新調しようかしら。葉月、明日買い物つき合ってくれない?」
「いいよ」
葉月と母さんはそれぞれ自分の部屋に向かっていった。僕は一人、ダイニングの扉が閉まる音を聞きながら、「何でこうなった」と頭を抱えるのだった。
それから数日――
海に行く日がやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます