第36話 僕の彼女の実家はお金持ちなのでは・・・・・・?

「それで、俺たちを呼んだ要件は何だ? まさか、ピザを食べるために呼んだわけじゃないだろ」


 一樹はピザを一枚とりながら聞いてくる。

 僕はピザを一枚平らげて指に着いたトマトソースを舐めながら答える。


「実は夏休み中にプールに行く話になっていて二人にもどうかなあって聞きたかったんだよ」

「俺はいいぜ。加奈は?」

「私も大丈夫だけど、いつ頃行く予定なの?」

「それはこれから決めようと思うんだけどいつ頃なら大丈夫そう?」


 みんなを見渡すとは葉月が手を上げて発言した。


「お兄、私たちはお盆前から夏期講習が始まるからできれば今月中がいい」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!! 勉強したくない~!!」


 ひよりちゃんが頭を抱えて今度は別の意味で落ち込んでいる。


「ああー、私も一年前の今頃勉強漬けだったなー、思い出すな―」

「勉強教えてたの俺と翔琉だからな」

「あの時は助かったわ。二人ともありがとね」


 加奈はピザをくわえながら本当に感謝してるのか分からない口調で言った。


「たくっ・・・・・・受かるかどうかギリギリだったのに今では学年順位が俺たちより上なのが納得いかないよな、翔琉」

「まったくだ」


 気分的には敵に塩を送った気分だ。僕達も合格したからいいもの、教えたせいで加奈だけ受かって僕達が不合格ならとてもじゃないが笑い話では済まなかっただろう。


「確かによくお兄と一樹君にしごかれたね、加奈ちゃん。それで順位何位だったの? お兄たちより上だったならけっこう高いと思うけど」


 加奈はよくぞ聞いてくれましたって顔をしている。


「気になる~? やっぱ気になるよね~! 今回は何と学年で十二位だったんだよね~!!!」

「へぇー、すごい」


 葉月とひよりちゃんが加奈に称賛の拍手を送る。加奈は満更でもなさそうだ。

 その様子を遠めに見てた僕は一樹に言った。


「何か調子に乗ってる加奈、久々に見たけどうざくない?」

「ああ、俺も久々にイラッときたわ。順位だって俺たちより少し高いだけでたいしてかわらないのにな」


 ちなみに僕と一樹は学年で三十位内だった。一年全校生徒は一クラス四十人の八クラス三百二十人いるから上々だろう。


「私だってやればできるんだから! 見直したでしょ、一樹?」

「・・・・・・ちょっとウザイ」

「何で!?」


 一樹が加奈からちょっと距離をとる。それを見てショックを受ける加奈。この二人は冗談を言い合って楽しんでるからどこまでがフリか分からない。


「順位がいいからって自慢なんかならないよ。ほら見て見なよ。明日香は学年一位なのにそれを鼻に着せないで――」


 ほら見てよと言うように僕は明日香の方に手を向けると明日香の様子を見て僕は動きを止めてしまった。何と、明日香はピザをリスの様にちょびちょび食べている。僕達に見られてることに気付いた明日香は食いかけのピザを背に隠し、恥ずかしさから顔がどんどん硬直していく。

 何、この可愛い生き物は! 僕の彼女なんです! と叫びたい衝動に駆られる。


「お姉ちゃん、実はファーストフード初めてなんだよね」


 ひよりちゃんから補足が入る。


「今まで食べたことないの? 親が禁止してるとか?」


 加奈が興味深そうに聞いている。


 あれ? さっき一緒にクレープ食べたような・・・・・・あれも初めてだったのか。


「そんなことないんですけどお姉ちゃん、八方美人で近寄りがたいみたいでまともに友達がいなかったから。だからさっきお兄さんとクレープを食べてるのを見た時、とてもうれしかったんです」


 当の本人の明日香はばらされた恥ずかしさを誤魔化すようにひよりちゃんの頭をパコパコ叩いている。

 その様子を見た僕達は目から涙が・・・・・・


 僕達は残りのピザを明日香に貢ぐのだった。


「・・・・・・ありがとう」


 明日香は恥ずかしそうにボソッとお礼を言って残りのピザを受け取る。そして残りのピザを頬張る明日香を見て心が安らぐのはなぜだろうか。みんなも心がほっこりしている様子だ。


 そんな明日香を尻目に本題に入ることにする。


「それで夏休みに泳ぎに行くって話だけど、どこがいいか案ある?」

「この近くだと大沼公園か。あそこってまだやってる?」

「いいや、あそこは何年もやってるのを見たことない。


 一樹が答える。


「ちなみにしらこばともやってないんじゃないか?」

「そうなの? でもこの前、音楽番組でしらこばとから中継してたわよ」


 加奈が指摘する。


「ちょっと待って。調べてみるから」


 加奈がスマホを操作して調べている。


「ダメだった。去年で夏季の営業終わってるって」


 他の候補を考えるしかない。


「他はちょっと遠いけどとしまえんは・・・・・・ってあそこもなくなったんだった。後は動物公園か、上尾とか加須にもあったけ」


 みんなでう~んと唸っていると、


「何かプールにこだわってるけど海じゃいけないわけ」


 加奈が至極当然のような顔をして言った。


「いけないわけじゃないけど埼玉には海がないし・・・・・・」

「おいおい、それ言いだしたら群馬や栃木などの海なし県にいる人は誰も海に行けなくなるじゃないか」

「それもそうだな」


 一樹に至極まっとうなことを言われて考える。海水浴場ってどこだ? 今まで市民プールしか言ったことがないから知識がない。それも小学校以来だし、どうしたものか。


「やっぱ海っていえば湘南か茅ヶ崎辺りか? 千葉で海水浴場ってどこだ?」

「熱海はどう?」

「熱海は温泉街だろ。それに遠いし高校生の俺たちじゃ金がかかりすぎる」


 僕は一樹と加奈のやり取りを聞きながら近くの海水浴場を調べてみる。


「千葉の海水浴場は九十九里浜か銚子にある銚子マリーナ海水浴場ぐらいかな。後はちょっと遠い」


 僕の言葉を聞いて考え込んだ結果、自分たちの予算内で行けそうなところを絞り出すことにした。

 場合によっては日雇いのバイトでも探した方がいいか?

 そんなことを思ってた時、ひよりちゃんが何かを思い出したように「あっ!!」と声を上げた。

 みんなの注目を浴びて恥ずかしいのを誤魔化すように咳ばらいを一つするとひよりちゃんは語りだした。


「あ、あのですね。実は私の親、木更津に別荘を持っていて、近くには海もあるし君津市や富津市には海水浴場もあるからうってつけだと思うんですけど、木更津には有名な道の駅もありますし、どうでしょうか」

「それって泊りがけって事?」


 加奈が身を乗り出してひよりちゃんに聞いた。


「はい。確か今年の夏は別荘を使う予定がなかったと思います」

「僕達が行ってもいいのかな」

「大丈夫だと思いますよ。ね、お姉ちゃん?」

「え!?」


 明日香は一人でピザをたいらげていた。結構量あったはずなのに、結構大食いなんだなと明日香の新たな一面を知ることができた。加奈は「何で太らないの。脂肪は全部胸に行くってわけ」とブツブツ言いながら明日香を見た後、ひよりちゃんの胸を恨めしそうに睨んでいる。その視線に気づいて両手で隠そうとするが逆に巨乳を強調してることになる。

 明日香はスタイルよく、出るところは出てるしひよりちゃんの胸は爆乳と言っていいほど大きい。制服の上からも分かるぐらいだし。それに比べて加奈の胸は貧乳とまではいわないが二人に比べると小さいのだろうっていかんいかん。これはセクハラだ。他のことを考えよう。素数でも数えようかな。2、3、5、7、11、13、17、19・・・・・・


 僕の心の葛藤を知らず、明日香が答える。


「多分大丈夫だと思うけど一応お母さんに聞いてみる」


 明日香がスマホを取り出して電話をかける。


「出ないから何処かに言ってるのかな」

「お姉ちゃん、そういえばお母さん、今日友達と外で食べるって言ってなかったけ?」

「そういえばそんなこと言ってたような気がする。翔琉君、家に帰ったら聞いてみるからそれでいい?」

「うん、それでいいよ」


「それにしても明日香さんたちのお母さんも外で外食なんてうちのお母さんと同じですね。まさか一緒に食事してたりして」


 今まで勉強していた葉月がシャーペンを置くとそんなことを言ってくる。


「そんな偶然あるわけないって」

「それもそうだね」


 葉月とひよりちゃんが言ってたことがそのまさかだということをこの時の僕達に走るすべがなかった。


「とりあえず今日のところはお開きかな」

「じゃあ、私これから水着でも買いに行こうかな。つき合ってよ、一樹」

「ったく・・・・・・しょうがないな」

「じゃあ私たち行くね」


 一樹と加奈は出て行った。後に残された僕と明日香は葉月とひよりちゃんの勉強を少し見てあげたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る