第35話 心配するだけ無駄だった出来事
あれから数分後、明日香と葉月がトレイに飲み物を乗っけて戻ってきた。
「ピザには炭酸かなっと思ってとりあえずファンタにコーラ、ジンジャーエールを持ってきたけどこれでよかった?」
「それでいいよ。明日香もそれでよかった? 炭酸以外も普通にあるけど」
「お兄、どういう意味?」
葉月が不服そうな顔で聞いてくる。僕は、部屋の奥に立てかけてある折り畳みの机を持ってきて準備しながら言う。
「だって、葉月のことだから明日香の意見も碌に聞かないで炭酸ありきで押し切ったかなあと思って」
「私はちゃんと聞いたよ。ねっ! 明日香さん?」
「そうね。それにね、翔琉君。もし不服があったら私はちゃんと言うよ」
そう言えば明日香は芯が通った女性だった。あの時チンピラに絡まれてる子供を助ける時も一歩も引いてなかった。足が震えていて怖かったはずなのに。あの時不謹慎ながら僕の彼女、かっけぇ~と内心乱舞してしまいたいぐらいだった。
「どうかした、翔琉君? 顔紅いよ」
明日香に突っ込まれて思考が現実に戻る。僕は頭を振って「何でもないよ」と机の折りたためている脚を四本伸ばすと部屋の真ん中ぐらいに設置した。
「彼女の言うことを信じて、妹の言うことに疑念の持つなんてショックです」
葉月はいかにも機嫌が悪いですと言った表情でトレイをテーブルに置く。
確かに、身内に信じてもらえないのは冗談でもつらいな。
「ああ、僕が悪かったよ・・・・・・って、コップは?」
僕は謝りながらトレイの飲み物を並べようと手を伸ばしかけて飲み物が入った一・五リットルのペットボトルがあるのにそれを入れるためのコップが見当たらない。まさか、衛生面上、
「「あっ・・・・・・」」
二人ともうっかりしてたって顔をしている。
僕はしょうがないなあと、はぁ~と息を吐いて、「僕が持ってくるよ」と部屋を出た。そして、階段を降りて一回についたところでピンポーン! とチャイムが聞こえたのでそのまま玄関に向かった。インターホンのカメラを確認すると頼んでいたピザが来たようだ。
僕はピザの会計を済ませドアを閉めようとしたとき、「翔琉~!」と声が聞こえたのでその方向を見たら一樹と彩が手を振ってこっちに向かってきていた。
「おっ、それピザか。うまそうだな」
「おなかすいた~」
彩が腹を押さえている。
「一樹、みんなのコップ持っていくからピザ持っててくれ」
「分かった」
僕達は部屋に戻ると、
「あ、一樹君と彩ちゃんいらっしゃい」
「相変わらず可愛いね。葉月は。私が貰いたいんだけど!」
彩は葉月に抱き着いて頬をスリスリしている。
「遠慮します」
葉月は彩を引き剥がした。
「もういけず~」
僕はまじめなトーンで彩に言う。
「・・・・・・葉月はやらんぞ」
「相変わらずシスコンだね。翔琉は」
「昔からそうだから今更驚かないけどな」
一樹がピザをテーブルに置く。
「それにしても今からそれだと葉月に彼氏が出来たらどうするの?」
加奈が爆弾発言を投げかける。
僕の頭の中で加奈が発言した彼氏がリフレインする。
葉月に彼氏・・・・・・カ・レ・シ・・・・・・
僕は想像しただけで頭が真っ白になって手に持っていたコップがお盆事零れ落ちる。
「あぶねっ!」
一樹が落ちるコップをキャッチしてテーブルに置く。その様子を見ていた明日香たちは思わず拍手を送った。
「大丈夫だよ、お兄。私、彼氏作る気ないから」
葉月の言葉で生気が蘇る。
「そ、そうか、そうだよね」
みんなから呆れた視線が送られるが微塵もかゆくない。
「それはそうと、ひよりちゃんどうしたんだ?」
一樹が話題を変えるように言った。ずっとふさぎ込んでるから気になってたんだろう。
「さっき失恋したんだよね」
「失恋!? なにそれ! 詳しく!!」
葉月の言葉に加奈が食い付く。
「ひよりちゃんは翔琉が好きだったもんな。その翔琉に彼女が出来てショックだったんだな。俺には分かる。元気出せ」
一樹がひよりちゃんの肩に手を置いて励ましている。ひよりちゃんが落ち込んでるのは一樹にも彼女がいるせいなのに何も知らない一樹は追い打ちをかけている。さらに落ち込んだらどうするんだ。事情を知らない一樹と加奈を覗いて僕達は固唾をのんで見守っていると、ひよりちゃんの顔が段々と明るくなっていく。どうやら一樹に励ましてもらったことが何よりうれしいらしい。それでいいのか! ひよりちゃん。
その様子を見て本当に僕のことも好きだったのか疑いたくなるありさまだ。
だが、これでようやく本題に入ることができる。
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