第29話 ちょっとした修羅場と明日香の妹が知り合いだった。

 僕は明日香を追いかけた。結果としてすぐに追いつくことができた。何故なら広場を抜けた先で盛大にこけたからだ。


 うわー、痛そう・・・・・・


 僕は明日香に手を差し出す。


「・・・・・・ほっておいてよ」

「そうはいかないよ」


 明日香を立たして制服についた汚れを払うと近くのベンチに座らせた。膝を見ると少しすりむいて血がにじんでいた。

 僕はハンカチを近くにある水道で濡らして明日香の膝に当てる。


「すこし、しみるかもしれないけど我慢してね」


 僕が手当てをしてると明日香が小さな声で言ってくる。


「私のことはホッといて、さっきの女の人と遊んでればいいじゃない!」


 言いながら明日香の声が涙声になる。


「そうはいかないよ。僕の彼女は明日香だけだからね。それに、僕が女の人に声をかけられるような人に見える?」

「だけど、あんなに親しそうにしてたじゃない」

「あれは、妹だよ。さっきバッタリ会ってしゃっべてたんだよ」

「い・も・う・と?」


 明日香が驚いたように呟いている。


「お兄―!!」


 僕達を心配した妹の葉月が駆けつけてくる。その両手にはクレープを二つ持っている。こいつ、食いじ張ってないか。


「お兄の彼女、盛大にコケてるの見えたけど大丈夫だった?」

「ああ、大したことないよ。それにしてもクレープ、二つも食べるのか。太っても知らないよ」

「そんなわけないじゃん。お兄、デリカシーなさすぎ。これはお兄と彼女さんの分。並んでたんだからクレープ買うつもりだったんでしょ。何が食べたいか分からなかったから味は適当に選んだから好きな方食べてね」


 僕は葉月からクレープを受け取ると一つを明日香に渡す。


「明日香、ほら」

「ありがとう」


 僕は明日香の隣に座ると、


「葉月はクレープ食べないのか?」

「私の分は友達がかってるから、ほら来た」

「葉月ー!」


 葉月を呼びながら葉月と同じ制服を着た女子中学生が近づいてきた。


「買ってきたよ。はいっ」

「ありがとー」


 女子中学生は買ってきたと思われるクレープを一つ葉月に渡すと自分のクレープを一口かじり、僕達の方を見て言う。


「お兄さん! 何うちの姉を泣かしてくれてるんですか!!」

「人聞きの悪いこと言うな。泣かせてない・・・・・・って、姉!?」

「そうですよ。その人は私のお姉ちゃんです」


 女子中学生らしからぬ制服の上からでも分かるぐらいの胸を張って言う。


「お姉ちゃんって本当に?」

「疑ってるんですか。私の名前を言ってみてください」

「ひよりちゃん」

「上の名前は?」

「えーと・・・・・・」

「無駄だよ。ひより。お兄は人の名前覚えるの苦手だから。ひよりのことも胸の大きさで認識してるんじゃない」


 葉月が呆れたように言ってくる。


「ソンナコトナイヨ」


 葉月に図星を刺されたことで返答が片言になってしまう。


「もーう、しょうがないですねぇ。私は橘明日香の妹の橘ひよりです。以後お見知りおきを」

「――翔琉君、ひよりと知り合いだったの?」


 明日香が不安そうに聞いてくる。僕とひよりが何かあると思ってるんだろうか。僕は明日香一筋だというのに。


「知り合いていうか、妹と仲が良くてよく家に遊びに来てたんだよ」

「そういえばちょくちょくどこかに遊びに行ってたわね」

「それは、家に帰るといつもお姉ちゃんが鬼気迫るような勉強してて家に居づらかったんだよね。今にも人を呪い殺しそうな感じで」

「へぇー」


 そうまでして勉強に没頭するなんて嫌なことでもあったのかな。


 当時、明日香がそこまで勉強した理由は翔琉に振られたと思い込んでいつか見返してやると思っていたからである。その結果、高校で再開してカップルにまでなってるのだから人生何があるか分からない。


 *ちなみに翔琉はこのことを知らない。

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