第28話 僕の彼女と妹が修羅場の予感!?

 僕達はスポーツ用品店に入ると、もう夏だからかスペースの一角に水着コーナーが展開されていた。

 明日香は早速水着を手に取り吟味している。


「翔琉君はビキニとワンピースならどっちがいい?」

「うーん・・・・・・ビキニかな。やっぱ」

「理由を聞いても?」

「えっ!?」


 まさか理由まで聞かれるとは思わなかった。なんて答えるのが正解なんだ。・・・・・・分からない。正直に言った方がいいかな。これでもし明日香に引かれたらと思うと言い出しずらい。だけど軽い気持ちで聞いてた場合、あまり考えないで答えた方がいいか。よし、決めた。自分の気持ちに正直に答えよう。その方が明日香も喜ぶだろう。


「明日香はスタイルがいいからワンピースで体を隠すよりビキニで出るところ出した方がいいと思うんだ。それにハッキリ言うとビキニを見た明日香を見てみたい」

「要はビキニの方が胸が見えるからいいんでしょ?」

「否定はしない」


 明日香は一言、僕の耳元でささやいた。「翔琉君のスケベ」


「ヒドイ。正直に答えたのに」


 さっき僕が思ったことが的中してしまったのか。明日香に引かれてしまったか。ここは土下座でもかませばなかったことになるのだろうか。


 僕が落ち込んでるのを見るのが耐えられなくなったのか明日香がクスッと笑っている。


「冗談よ。翔琉君にそういう目で見られてると思うと嬉しいわ。ちょっと恥ずかしいけどね。もし私の水着姿を想像しても何とも思われてなかったら女として自信無くすもの。ここは翔琉君の望み通りビキニにするわ」

「そう。よかった。だけど明日香の水着姿を他の人に見られるの、何かやだな」

「大丈夫よ。私の水着姿は翔琉君にだけ見せるから。それ以外は上から何か羽織っておくから」


 明日香がビキニをどんどん見ている。気に入った柄を探しているようだ。こういう時って今までは女の買い物って長くて暇だなっと思ってたけどそれが彼女になるとこの時間も全く気にならないから不思議なものだ。

 まだ時間がかかりそうなので断りを入れて僕は水着売り場を離れてスポーツ用品を見に行った。あれ以上あそこにいたら僕の身が持たない。当たり前だが周りには女性しかいなく、明日香と一緒じゃなかったらただの変態って目で見られてしまうかもしれない。



 それからしばらくして僕は意味のなく金属バットの重さを確かめてるとメールで明日香に呼ばれたので水着売り場に戻った。


「この二つで迷ってるんだけどどっちがいい?」


 明日香が右手に持ってる水着は水玉模様にフリルがあしらわれていてフェミニンな印象を与えてくれる印象だ。

 次に左手に持ってる水着は、前から見るとトップスとボトムスを真ん中で繋がっていて後ろは離れているデザインだ。こんな水着もあるんだと見ていると明日香が説明してくれる。


「これはモノキニビキニといって、後ろからはビキニ、前からはワンピースに見えるレディース水着なんだよね。前から見た姿と後ろから見た姿のギャップが魅力的であまり露出したくはないけど、大人っぽい色気もほしい人に人気なんだよね」


 確かにこれは大人っぽいだろうし明日香に似合いそうだ。それに露出は引かい目らしいけど僕からしたら魅力的だ。僕の中ではモノキニビキニに傾きつつある。だが、素直に言っていいのだろうか。聞いたことがある。女性の『どっちがいい?』は自分の中では決めてるのに異性に共感してもらいたくて聞いているのだと。これが原因で別れたカップルが多いと聞いたことがある。男の僕の立場からしたら、決まってるなら聞くなよ。と言いたくなるがそんなことを言ったら反感を買うに決まっている。究極の二択だ。どっちが正解なんだ。うーん・・・・・・


「分かったわ。翔琉君が気に入ったのはモノキニビキニね」

「何で!?」


 僕はまだ何も言ってないのに気に入ったのが分かるなんてエスパーなのか。


「何で分かったのかって言いたそうな顔ね。それは彼女だから――って言いたいところだけど翔琉君、さっきからモノキニビキニから視線が逸れないもの。水玉模様の方は眼中にないぐらいにね。私もこっちの方がいいかなあって思ってたからよかったわ」


 普通の理由だった。それにしても僕はそんなにガン見してたか。自分で自覚なかったけど、それにしても事なきえてよかった。心の底からそう思った。


「それじゃあ買ってくるから当日の楽しみにいててね」


 明日香がウインクして言った。見た目ギャルだからあざとい印象を与えそうだが、僕の心はあまりの可愛さにやられてしまう。今の明日香の光景を僕の脳内ホルダーに深く刻み込んだ。


「じゃ、じゃあ、僕はさっきのクレープ屋さんに並んどくよ。まだいっぱい並んでるかもしれないし早い方がいいでしょ」

「気が利くじゃない。さすがは私の彼氏って言ったところね。それじゃあよろしくー」


 僕は急ぎ足でクレープ屋があった広場に向かう。外は涼しい風が吹いていて今の僕の火照ほてった身体にはちょうどいい。


「さてと、クレープは・・・・・・まだ結構並んでるな。人が増える前に並んどくか」


 女子しか並んでないところに並ぶのはなんか恥ずかしいけど、よく前を見ると男の人がチラホラといる。自分だけではないのかとホッとした瞬間、横にいる女性と楽しそうに喋っている。カップルだらけだった。寂しい奴だと思われたくない。早く明日香来てくれないかなと思っていると前に並んでる中学生ぐらいの女の子がこっちに振り向いた。あれ、この子なんか見覚えある気が・・・・・・


「おにい!? 何でここにいるの?」

「何でって学校から近いからだけど――ってそれより何でお前がここにいるんだ。中学校から離れてるだろ」


 僕の前に並んでたのは妹の葉月だった。中学校は地元の春日部の学校に通っているはずだ。今日は平日だし時間もまだ午後二時を回ったところだ。僕は今日まで期末テストだったから午前中で終わったが葉月の学校はどう考えても授業が終わってないはずだ。まさかサボりでは。お父さん、お母さん。僕の妹はとうとうグレてしまったようです。


「お兄、何か勘違いしてるようだけど私たちの学校、今日は午前中に終わって三年生は第一志望の高校の説明会に参加してたんだよね」

「へぇー、葉月が受けたい高校ってどこだ?」

「ここにいる地点でわからない。お兄と同じところ」


 何となくそんな気がしたけどやっぱりそうだったか。そういえば帰るときに見慣れない制服を着た人がチラホラいたけど説明会があったのか。あの時は明日香に手を引っ張られてそれどころじゃなかったから全く気にならなかった。


「何お前、僕と同じ高校に行きたいなんて可愛い妹だな」

「何勘違いしてるか知らないけど設備が充実してて進学校なわりに自由な校風があるところを気に入ったの。そこがたまたまお兄が通ってただけ」


 葉月の耳が少し赤い。それを僕に言われる前に話題を変える発言をした。


「それにしてもお兄、クレープ屋に一人で並ぶなんて一緒に来てくれる友達いないの?」

「葉月だって一人じゃないか」

「私は友達と来てて友達がトイレに行ってるだけだから」

「僕だって彼女待ちだ」

「えっ!? お兄、彼女いたの!」

「この前に言ったじゃないか」

「あれ、本当だったの! 全然会わしてくれないから妄想上の彼女か好きな漫画のヒロインを捕まえて俺の嫁とか言い出したのかと思ってた」


妹に信じてもらえない兄っていったい・・・・・・こうなったら明日香を紹介してあまりの美少女に腰を抜かすがいい。僕はその時の葉月の反応を楽しむことにした。


「安心しろ。彼女はもうすぐここに来るからそしたら紹介してやる」


 ドサッ!


 物音に振り返ると明日香が立ち止まって唖然としている。


「ちょうどよかった。明日香、こっちにいるのが――」

「――私が買い物してるのをいいことに翔琉君が別の女の人と親しそうにしてるなんて・・・・・・」


 明日香がショックを受けたようにブツブツ言っている。


「あ、あのー明日香さん?」

「――翔琉君の浮気者!!」


 身をひるがえして明日香は走り出してしまった。唖然とする僕に葉月は言った。


「何か盛大に勘違いしてそうだけど、とりあえずお兄、追いかけた方がいいんじゃない」

「そ、そうだね」


 僕は明日香が落としていった水着が入った買い物袋を持つと、急いで明日香の後を追いかけていった。

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