第25話 明日香の焦り
私は自分の部屋でテスト勉強をしているが身が入らない。それには理由がある。それは、桜井君と加奈ちゃんが手を繋いでいる仲睦まじい姿を見たからだ。状況から察して桜井君の告白が実って加奈ちゃんもやっと自分の気持ちに正直になったんだろう。それは友人として喜ばしい限りだ。
だが、しかし! 付き合い始めて早々手をすぐ繋ぐとは、何と羨まし・・・・・・いや破廉恥な。自分達でもその段階に到達するのに苦労したのに。
完全にやっかみである。しかも二人ともなんか照れてたような・・・・・・
二人とも学校で目立つような陽キャラだ。今更手をつないだぐらいで照れるとは思えない。まさか、それ以上のことをしてるんじゃ・・・・・・
私の妄想はエスカレートする。
♬~♬
ビックッ
突然の音に驚いたがスマホが鳴ったようだ。手に取ると加奈ちゃんからメールが届いていた。噂をすれば何とやらというやつだ。
『今、電話していい』
ときていた。返信して折り返すのが面倒だったので加奈ちゃんのアドレスを出し直接電話をかける。加奈ちゃんはワンコールですぐに出た。
「もしもし、加奈ちゃん。どうしたの?」
『あのね、私、一樹と付き合うことになったの』
「え、うん、知ってるけど・・・・・・」
『だ、だよねー。ハハハ・・・・・・』
どうしたんだろう。いつもの加奈ちゃんらしくないような・・・・・・それに変に緊張してるような気がする。
「何か、今日の加奈ちゃんおかしくない? 桜井君と何かあった?」
『ギクッ!』
ギクッて声に出す人初めて聞いた。
『ななななんのことかな』
「動揺しすぎ。それにギクッて声に出てたよ」
『・・・・・・』
加奈ちゃんは観念したのか深いため息を吐くと意を決して聞いてきた。
『恋愛がらみで相談があるんだけど』
「私、あんまり答えられないと思うよ。付き合ったことがある人も翔琉君が初めてだし」
『それを言うなら私も一樹が初めてだから。それに付き合った年月は明日香の方が長いんだから先輩として聞いて。お願い?』
「加奈ちゃんがそこまで言うなら聞くだけ聞くけどあんまり期待しないでね」
加奈ちゃんがスマホ越しに深呼吸してるのが聞こえてくる。それにしても加奈ちゃんとこうして恋愛トークできる日が来るとは夢にも思わなかったな。
『じゃぁ、話すけど・・・・・・私は図書室を飛び出した後、一樹から逃げるためにあちこち行ったの。そして、逃げてるうちに気付いたら科学室に逃げ込んで気配を殺してたんだけど、一樹が近づいてきてるのが目に入ってそれに動揺したのがいけなかったのか足を椅子にぶつけてガタって音がしてしまって、そーと廊下の方を見ると一樹がこっちに近づいてきてるのが見えて私は気が動転してドアのところにちょうど科学室にあった人体模型を置いてドアが開いたのと同時に一樹に覆いかぶさるように押したわ』
「ちょ、ちょっと何してるの!! そうまでして桜井君から逃げたかったの! それに、もし科学室を開けたのが別の人だったらどうするの」
『それもそうだね。そこまで考えてなかった』
私は開いた口が塞がらなかった。恋は盲目というかなんというか・・・・・・それにしても人体模型を動かすなんて女子一人では無理なはずなのに、何気に男子に負けない運動神経の加奈ちゃんだから出来たのかそれとも変な方向に火事場のくそ力を発揮したのか分からないがそうまでして桜井君から逃げたかったのか。
私は想像してみる。もし、私が桜井君の立場で翔琉君にここまでされて逃げられたら凹むどころではない。立ち直れないほどのショックで学校に行けなくなりそうだ。それなのに桜井君は諦めずに加奈ちゃんを追いかけるなんて称賛を送りたいぐらいだ。この二人になんかあったら桜井君の肩を持とうとちょっと思ったりした。
『それでね、倒した人体模型を一樹が受け止めたすきに科学室の後ろのドアから廊下に出て一樹に見られたけど人体模型を持ってるからどうすることもできない。その隙に逃げてその先の階段を降りたんだけど・・・・・・』
私は科学室の先の階段を降りると音楽室しかなく行き止まりなのを思い出した。策士、策に溺れるというやつだ。
「その先は袋小路で行き止まりだね。ご愁傷様」
『他人事だと思って』
「だって、他人事だもん」
いつもは頼もしい加奈ちゃんが恋愛ごとになるとこんなにもしおらしくなるなんて、普段私をいじってきた加奈ちゃんの気持ちわかるわ。私も加奈ちゃんをこれ見よがしにいじり倒したくなってくるもん。今にも私の中の悪魔が
「それでどうしたの。逃げるところが無くなって観念した?」
『私はトイレの中に身を隠したわ』
「トイレ・・・・・・ああ、そういえば女子トイレだけなぜかあの場所にあったね。それにしてもみんなから頼りにされてる加奈ちゃんがたった一人の男子からこうも逃げ戻っているって知られたら幻滅されるんじゃない?」
『・・・・・・それも今更ね。明日にはどうせ知られてるんじゃない』
「どういうこと?」
私の言葉にしまったと息をのんだ加奈ちゃんの気配が伝わってくる。ここまで言うつもりはなかったのかもしれない。それから長い沈黙があった。それは数秒かもしれないし一分以上あったかもしれない。私にはそれぐらい長く感じられた。
そして、加奈ちゃんは長い沈黙を破り観念したように言った。
『実はね・・・・・・私はほとぼりが冷めるまでトイレにこもってたんだけど恐る恐る外を確認しながら出て、どこにも一樹の姿がないから諦めたのかとホッと一息ついた瞬間、音楽室の扉が開いて勢いよく一樹が私目掛けて突進してきたわ。私は咄嗟のことで動けずあっさりと一樹に捕まってしまった』
「ちょっと待って。音楽室開いてたの。今はテスト期間中でどこも部活は休みのはずじゃないの?」
今は一週間後の期末テストに向けてどこも部活が休みのはずだ。誰かが音楽室の鍵をかけ忘れたのだろうか。
私の疑問は加奈ちゃんがあっさりと答えて解決する。
『どうやら吹奏楽部の人たちが音楽室でテスト勉強をしてたみたいなの。それで一樹を匿ってたみたいだわ』
「あー、吹奏楽部には清住さんが所属してるもんね。だけど桜井君と親しかったけ?
クラスが一緒なだけで話してるところを見かけたことないけど」
『どーだかね。学校のどこかにファンクラブがあるって噂があるぐらいだし、親しい女子の一人や二人いてもおかしくないんじゃない』
加奈ちゃんが
「加奈ちゃん拗ねて可愛い」
『別に拗ねてない!』
「大丈夫だよ。桜井君は加奈ちゃん一筋だから。私が保証する」
『だから別に気にしてないって。・・・・・・ハァー、話の続きなんだけど一樹が私に壁ドンしてきてしかも両手で逃げ場をふさぐ形で、それで告白されてその場でキ、キキキキ、キスされたの』
「・・・・・・えっ!?」
今なんて言った。キスって言わなかった。聞き間違いじゃないよね?
「今キスって言った?」
『言ったわよ』
「魚のキスじゃなくて」
『そんなボケいらないわよ。キスされたの! 口と口で! おまけにその瞬間を吹奏楽部の人たちに見られるし明日からどんな顔をして学校に行けばいいの!!』
何か加奈ちゃんが叫んでるけど私の耳には入らない。それほどさっきのキスって言葉は衝撃だった。私だってまだ手をつなぐのがやっとでキスなんてしたことないのに、えっ、何? 加奈ちゃんはもうキスまでしたの。なんて羨ましい! 私だって翔琉君としたいのに!!
『――明日香、聞いてる? もしもし――』
「加奈ちゃんの
私は負け犬の遠吠えみたいなセリフを吐き、スマホの通話を切るとベッドの上にダイビングして自分も翔琉君とキスしたいと想像しては悶えて足をバタバタさせる。その繰り返しで今日はテスト勉強できそうになかった。
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