第24話 一樹達の恋路を祝福す。
俺は翔琉に言われ、加奈を追いかけるべく図書室を飛び出した。その際に図書委員の女子が何やら叫んでるような気がするが知ったことじゃない。それより加奈だ。辺りを見渡すがすでに加奈の姿がない。加奈は決して運動神経は悪くない。本気で逃げられたら時期サッカー部のエース(自称)である俺でも捕まえるのは至難の業だ。
まず、昇降口にある加奈の下駄箱を確認する。中には革靴が入っていた。まだ学校指定の革靴がるということは校内にいるはずだ。加奈はあれで綺麗好きなところがあるから上履きを履いたまま外に出るとは考えずらい。たぶん・・・・・・
俺は、まず自分のクラスから探すことにした。中を覗くと数人がまだいた。その中に加奈と仲のいい女子が雑談してるのを見つけ声をかける。
「ちょっといいか?」
「ど、どうしたの。桜井君?」
息を切らせながらきた俺を見て女子たちがキョトンとしている。俺は息を整えると聞いた。
「加奈、見なかったか?」
「え、加奈ちゃん。見てないけど」
「私も見てない。何、喧嘩でもしたの?」
「そんなんじゃないよ」
「一樹、俺、見たぞ」
「何、本当か?」
一樹にそう言ったのは出入り口のドアにもたれ掛かってる男子だ。
「つい一、二分ぐらい前かな。真っ赤な顔をして教室の前を走り抜けてどっかいったぞ」
「どっちに行った?」
「左側に駆けてったから部室棟の方かな」
「サンキュー!」
俺は教室を出ると部室棟がある方に駆けていった。
部室棟に繋がる連絡橋には扉がある。取っ手をガチャガチャやるが開かない。鍵がかかってるようだ。そういえば今日からテスト期間で部活が休みなのを失念していた。部室棟には行きようがない。だとすると加奈は何処にいるんだ。因みに俺たちの教室は二階にある。部室棟の連絡通路も二階だ。そして、連絡通路の入り口を挟むようにして階段がある。加奈は上の階か下の階に行った可能性がある。だが、俺は真っ先にげた箱を調べた。靴があったということは下の階に行ったとは考えづらい。俺は階段を駆け上がっていった。俺たちの学校は五階建てだ。しかも、敷地内に学生用のジムや食堂だけの建物に寮もある。学生にとって至りつくせりだ。そのため、毎年受験生が多く倍率が高い。でも、入試をパスすれば、自由な校風でテストも赤点を取らなければ普通に卒業できる。学校のテストより入試の方が難しいくらいだ。それ以外にもいろんな施設がこの学校にはあるがここは割愛する。とにかくそんだけ広い敷地だということだ。本気で逃げられたらやばいが校舎から出てないならしらみつぶしに探すだけだ。
俺はまず屋上に向かった。屋上のドアを開けて外に出ると、太陽の日差しが入り込んでくる。一瞬目が眩んだが辺りを見渡すと加奈の姿はおろか人っ子一人見つからない。どうやら当てが外れたようだ。
そして、俺は上の階からしらみつぶしに調べて三階に来た時だった。廊下を歩いてるとガタッという物音が聞こえてその場所に行くと、そこは科学室だった。扉に手を置いてガタッとやると鍵がかかってなさそうだ。もしかして、科学室に隠れてるかもと思い、そっと開ける。
次の瞬間――
「うおっ!?」
と、声を上げてしまった。
なぜなら、扉を開けて中に入ろうとしたら人の形をした物体が倒れてきたのだ。そう、人体模型が。俺は倒れてきたそれを咄嗟に受け止めた。これをどうしようかと思い悩んでいると、科学室の後ろの扉が開いて人が飛び出してきた。加奈だ。一瞬目が合ったかと思うと一目散に走り去っていく。
「待て! 加奈! クソッ! 重いんだよ!!」
俺は人体模型を元あった場所に戻すと、急いで加奈が走ってた方向に行く。その先には下に降りる階段がある。だけどこの階段から下に降りると音楽室があるだけで行き止まりだ。他のところと行ききするには三階に戻り、別の階段を使うしかない。こんなミスをするなんて加奈らしくない。そんだけ気が動転してるってことだろう。
俺はあんまり足音を立てないように階段を降りていく。向こうも息を殺して様子を探ってるはずだ。階段を降りると壁づたいに移動し、手鏡で廊下を映し出す。まるでスパイだなと思いながら様子を窺うと音楽室とトイレしかない。隠れたかと思いそっと音楽室の前に行くと中から人の気配がする。それも一人や二人じゃない。大勢いるような・・・・・・今は、テスト期間中で部活動はないはずだ。
扉を開けると中には女子生徒が机を並べて勉強していた。みんな突然の来訪者に驚いてるようだ。
「どうしたの? 桜井君」
そう声をかけてきたのは同じクラスの清住さんだ。あまり接点がなくただクラスが一緒差という認識だ。
「えーと、清住さんこそここで何を?」
「私は吹奏楽部のみんなでテスト勉強してるところだけど、桜井君は音楽室に何か用事?」
「そういう訳ではないけど、ここに加奈来なかったか?」
「加奈って白鳥さん? ここには誰も来てないけど」
周りを見ても加奈の姿がなく清住さんが嘘をついてるとも思えない。だとすると後隠れられる場所はあそこだけだ。前科もあるし。
「勉強の邪魔しないから、ちょっとここにいていいか?」
「いいですか、部長!」
奥の席で眼鏡をかけてこっちを見てるあの人が部長か。何かお淑やかそうな人だ。
「ん、いいわよ。イケメンがいるだけで目の保養にもなるし、テスト勉強もはかどるってもんよ。みんなもそれでいい?」
「「「賛成!!!」」」
吹奏楽部は変なところで連帯感あるな。
俺はお言葉に甘えて、音楽室の扉についてる窓越しにある場所を監視する。考えが正しければ加奈が現れるはずだ。
それから五分くらいたった時だ。ある場所から加奈が出てきて辺りを警戒している。そして俺がいないと思ったのかホッとしている。行くなら今しかないと音楽室の分厚い扉を蹴破る勢いで開けると加奈の前に躍り出た。
「ど、どうして!?」
加奈が目を見開いている。
「油断したな」
「わ、私、ちょっと急用が」
加奈が行こうとするので左手で加奈の後ろにある壁に勢い良く突いた。いわゆる壁ドンだ。だけど加奈は諦めず右側から行こうとするので右手で進行方向をふさぐ。両手で壁ドンした形だ。
「ちょ、ちょっと、トイレに行きたいの」
「今トイレから出てきただろ。見てたぞ」
「また行きたくなったの」
「本当か?」
加奈はコクンとうなずく。
「なら仕方ない」
加奈はホッとした様子だ。だが、次の瞬間、絶望に叩き落される。
「ちょうどいいのがあるぞ」
俺はある物を渡す。
「これってまさか、ここにしろって言うの」
加奈は俺が渡したものを見ながらプルプルと震えている。
俺が渡したのは空のペットボトルだ。
「その通り」
「一樹の変態! 鬼畜!」
「いまさら何を言われようが俺は堪えない。本当にトイレに行きたいなら俺の話を聞け。その後ならいくらでも行っていいから」
「分かったわよ」
加奈は観念して逃げるのを辞めた。
俺はさっき、あー言ったが加奈の罵詈雑言が堪えなかったわけじゃない。内心はショックで今にも泣きそうだ。それに、本当に加奈がトイレに行きたいなら行かせるしかなかった。あれは、話を聞いてもらうために言っただけだ。俺は単刀直入に話をきりだす。
「加奈」
「何よ」
加奈は不貞腐れたような態度で返事をする。頬がぷくーと膨らんでいる。その様子を見て可愛いなーと気が緩みそうになったがいかんいかんと首を振り、これから告白するんだと気を取り直す。
「加奈。好きだ!」
「・・・・・・えっ!?」
加奈の顔がみるみる
「えっと・・・・・・あの・・・・・・その・・・・・・」
加奈はてんぱってしどろもどろになる。
「これが俺の正直な気持ちだ。加奈の気持ちを聞かせてくれ。ダメだったらはっきり言ってくれて構わない。きっぱり諦めるから」
加奈は俯いてボソッと言った。
「私は***」
「すまん。良く聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「だから!! 分からないの。こんな事初めてだから。この前、翔琉から一樹が私のこと好きだと聞かされてからどうしたらいいか分からないの。ずっと、一樹のことは幼馴染で腐れ縁の親友だと思ってて異性だと意識してなかったのに一樹が私のことを好きなんだと思うと胸のあたりがチクッとして、おまけに一樹の顔を見るとドキドキしてきて思わず逃げ出してしまうの。私らしくないと思うんだけど自分でもどうにもならないの。――――ねぇ、これが恋なの」
加奈は胸のあたりに手を置いて自分の気持ちを言った。
これを恋と言って固唾蹴るのは簡単だ。だけど、一樹はそうしなかった。
「それは、自分で気づくしかないんじゃないの。いくら俺が言ったところで納得しないでしょ」
「それもそうね」
「だからさ、その気持ちが分かるまででもいいからさ、付き合ってみようよ。気持ちが分かったら返事聞かせてくれればいいからさ」
「・・・・・・分かったわよ。とりあえずよろしく」
「よっしゃー!」
「そんなにうれしいの」
俺は、ガッツポーズした。内心ビビッて今も足がガクガクしている。ホッとしたら今まで追いかけてた疲れが一気に引き寄せてくる。足元がもつれて加奈に寄りかかる。
「ちょっと大丈夫?」
「いやー誰かさんが逃げ回ったせいで疲れただけだから」
「それって、私の所為ってことじゃない。しょうがないわね。何か一つ言うこと聞いてあげるわ。何かしてもらいたいことある。言っておくけど私ができる範囲でね。それとお金がかかる物も今ちょっと手持ちがなくてできればそれ以外のにしてもらいたいなーなんて」
原因が自分にあるからかあんまり強気に出れないようだ。
「それは大丈夫だ。金はかからない。俺の欲しいものは最初から決まってる。加奈、ジッとしててくれ」
「へっ・・・・・・あの・・・・・・」
加奈が見つめ合ってることに耐えられないのか視線を逸らす。
俺は加奈の顎を右手でつかむと自分に引き寄せる。加奈が驚いた表情をしている。
そして、次の瞬間――
俺は加奈の唇に自分の唇を当て、キスをした。
「これで加奈は俺のものだ」
加奈はトロンとした表情で「・・・・・・はい」と返事した。
「キャァァァァァァァァァッ!!!」
急に聞こえた甲高い声に振り向くとそこには複数人の女子生徒が。
そういえばこの場所は音楽室の前だった。中には吹奏楽部がテスト勉強していた。加奈に告白することで頭がいっぱいになって失念していた。
「何・・・・・・どういうこと。何でこんなに人がいるの?」
加奈は状況が飲み込めてないようだ。
「いやーいい物を見させてもらったよ。青春してるねー仲人よ」
声をかけてきたのは眼鏡をかけた吹奏楽部の部長だ。
他にも「おめでとう」や「お幸せに!」など次々に声がかかる。
その状況に居たたまれなくなったり恥ずかしさで加奈を連れてその場から退散した。
「ここまでくれば大丈夫か」
「一樹。あの・・・・・・手」
「手?」
加奈に言われて手元を見ると手をつないでいた。咄嗟のことで加奈の手を掴んだらしい。
「あ、ごめん。もしかして嫌だったか?」
俺が手を放そうとすると、
「待って! このままでいいから」
「そ、そうか」
俺たちはちょっと落ち着いたタイミングで図書室に向かった。俺達に気付いた翔琉達は俺と加奈が手を繋いでいるのを見て一瞬驚いたような表情を浮かべたが、直ぐに祝福するように微笑んでくれた。
俺は、いい幼馴染件親友に恵まれたものだと神に感謝したのだった。
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