第23話 一樹の想いと翔琉の思惑
僕と一樹はテスト勉強するべく図書室に向かった。中に入ると、テスト勉強している学生がチラホラいる。これからもどんどん生徒が増えてくるに違いない。僕達は奥に進むと六人掛けの机を確保した。僕と一樹は対面に座り横の座席に荷物を置く。机の上に勉強道具を置くと一樹を見た。一樹は心ここにあらずと言った感じでボーとしている。これはまだ加奈のこと引きずってるな。
「ほら、一樹。勉強するよ。テストは待ってくれないからな。それにもやもやすることがあっても別のことに集中すれば気もまぎれるだろ」
「・・・・・・それもそうだな」
一樹が教科書を広げるのを確認すると、僕もテスト勉強に取り掛かる。
それからしばらく、シャッ、シャッ・・・・・・とシャーペンを滑らす音だけが聞こえる。どうやら一樹の気もまぎれて勉強してるようだな。
それからほどなくすると、
「おまたせ」
声をかけてきたのは明日香だ。掃除当番で少し遅れてきたのだ。
「もう勉強始めてるよ」
「じゃぁ、私たちも始めましょうか。加奈ちゃん」
「う、うん」
明日香の背中に隠れるようにして恐る恐る顔をのぞかせる加奈。こんな加奈の姿を見るのは初めてだ。それほどまでに一樹のことを意識してるってことか。嫌われたって言ってたのは一樹の勘違いでこれはいけるんじゃないか。大体本当に嫌だったら断ってるはずだ。昔からハッキリ言うやつだったからな。
「か、加奈」
一樹が目を丸くしている。何を驚いてるんだ。放課後、みんなで勉強するって言ったじゃないか・・・・・・あれ・・・・・・そういえば勉強しようって言っただけで明日香と加奈が一緒なの言ってないような・・・・・・まあいいか。大人しく見守ってよ。
一樹に呼ばれた加奈はビクッとなって震えている。一樹も呼んで見たもの、二の次が踏めないようだ。ここは助け船を出した方がいいかと明日香を見ると頷いてくれる。アイコンタクトで通じたようだ。心が通ったような気がして気分がいい。僕は意気揚々と二人に話しかけようとしたが、加奈の次の行動が速かった。しかも、僕達が想像だにしなかった方法で――
「む、無理―!!!」
加奈は叫びながら一目散に駆けて行き、「お静かに!」と言う図書委員の女性の注意も
加奈の駆けていく足音が遠ざかるにつれ、我に返った僕と明日香は、
「「に、逃げたー!!」」
と、思わず叫んでしまった。そのせいで図書委員の女性に睨まれる。僕達は口をつぐんだ。それはそうと一樹を見ると加奈に逃げられたのがショックだったのか天井を見上げる形で呆けている。その様子はまるで今にも真っ白の灰になって風に吹き飛ばされてしまいそうだ。
「一樹! 今すぐ追いかけろ!」
僕の言葉でハッとしたような顔をしたが、嫌われてると思い込んでいる一樹は二の足を踏んで直ぐに動こうとしない。
「だけど、俺が言ったところで・・・・・・」
いつもの自信満々な一樹らしくない。僕は発破をかけることにする。その方が面白そうだから。
「今行かないと後悔するぞ。加奈のこと諦めたくないだろ。このままじゃどこの馬の骨ともわからない奴にとられるぞ。それでもいいのか! それに、加奈に嫌われてるわけないだろ。いくら幼馴染でも本当に嫌いなら十年以上も一緒にいるわけないじゃないか。少なくても僕だったら無理だ。加奈は、初めての感情に戸惑って自分でもよくわからず逃げちゃうんじゃないかな。とりあえず当たって砕けろだ。もしダメだったら・・・・・・どうしよう、明日香?」
「私にそこで聞く!?」
「ハハッ・・・・・・ハハハ・・・・・・」
僕達を見て一樹が笑いだす。まじめに言ったつもりなのに酷い。
「そこまで言っといて最後は締まらないな。だけどその通りだな。やるだけやってやる。その後のことはその時考えればいいか」
「その意気だ。一樹」
「それにしてもあの普段はのほほんとしてるくせにいうときは言うやつだよな。翔琉は。それとも彼女が出来て性格が前向きになったのかな。俺も覚悟を決めて加奈に思いを伝える! そうと決まれば善は急げだ!」
一樹は図書室のドアを開けると勢いよく飛び出して加奈の後を追いかけていった。
「お静かに!」
という図書委員の注意が虚しく響いた。
「あの二人うまくいくといいね」
「そうだね」
僕は明日香に相槌を打つとテスト勉強の続きに取り掛かる。明日香とならはかどりそうだ。実は明日香と二人っきりになりたかった僕の想いも多少あったりするのだった。
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