第22話 加奈の戸惑いと恋の自覚と恋愛相談

 時間は少し遡って、翔琉達が学食に移動したころ、学校の中庭にあるベンチで明日香もまた加奈から相談を受けていた。


「加奈ちゃんから相談なんて珍しいね。どうしたの?」


 私の問いにすぐには答えてくれない。自分でどういったらいいのかよくわかってないのかもしれない。私にも経験があるからわかる。私は、弁当をつまみながら加奈ちゃんが言葉にするのを待つ。


 それにしても、ここは空気が流れて気持ちいいな。目の前の花壇に咲いてる花を見るだけで癒される。

 私は、遠くでバトミントンをしているグループが目に入る。


(こんな場所でやると気持ちいだろうなー。今度、翔琉君を誘ってみようかな。断られるかな。翔琉君、あんまり目立つことしたくなさそうだし・・・・・・それでも私に何かあると自分のことを顧みず助けてくれるんだけどね)


 あの時のことを思い出すだけで顔が火照る。おっといけない。今は加奈ちゃんから相談受けてるんだった。


「・・・・・・あのね」

「は、はい!」


 私は加奈ちゃんの声に動揺してやましいことを誤魔化すように背筋を伸ばして返事してしまう。だけど、私の動揺に気付かない様に加奈ちゃんは話し出す。

 私はホッとして、加奈ちゃんから相談受けてる最中に他のことを考えてしまったことに懺悔ざんげして、ちゃんと相談に乗ろうと耳をませて話を聞く。


「一樹が私のこと好きだと知ってからどうもおかしいの。今まで何ともなかったのに一樹の顔を見ると恥ずかしくなってまともに顔を見られなくて逃げちゃうの。そのせいでさっき、一樹が話がありそうな顔でトイレまで付いてきて、恥ずかしさのあまり心にないことを言ってしまったんだよね」


「うん、うん、・・・・・・えっ!? トイレ!?」


 私はまさかの単語に動揺した。聞き間違いだろうか? 私は恐る恐る加奈ちゃんに聞いた。


「今、トイレって言った?」

「えっ、言ったけど・・・・・・」

「桜井君、変態じゃん!」


 これはアウトな奴だ。まさか、好きな相手にストーキングするあまりトイレにまで押し掛けるとは。イケメンなら何やっても許されるわけないんだよ。翔琉君は知ってるのかな。親友が変態だと知ったらショックだろうなー。これは黙ってた方がいいのかな。でも知っちゃったしなー。うんー・・・・・・


 加奈ちゃんは初め、何を言われたのか分からずキョトンとしていたが、私の言った子を理解すると直ぐに修正する。


「違うからね! 一樹はトイレの前まで来たけどそこで別れたから――っていうより私が逃げるように女子トイレに入ったんだけどね」

「・・・・・・一つ聞いていい。女子トイレに行ったのは一樹君をくためだったのか、それとも用を足しに行ったとか・・・・・・」

「・・・・・・それはおしっこだけど」

「やっぱり変態じゃん。漏らすのを我慢して内股で堪えてる加奈ちゃんの顔を見て興奮する鬼畜プレーだよ。イケメンの裏の顔がそんな鬼畜ヤローだったとは」

「そんなことを思いつく明日香の方が変態だよ!!」

「わ、私、変態じゃないよ!!」


 桜井君のせいで私まで変態扱いされてしまった。これもBL本を愛する弊害へいがいか。それにしても加奈ちゃんから相談を受けていたら、気づいたら私が変態ってことになってるじゃないか。この恨み、晴らさずべきか。


 この時、一樹はいわれのない恨みを買うのだった。


「とりあえず一樹は変態じゃないからね。これ以上言うようなら翔琉に明日香はむっつりスケベだって言うからね!」

「・・・・・・はい」


 私はそう言われたら大人しく引き下がるしかなかった。もし、翔琉君に私が腐女子だとバレたら生きていけない。この秘密だけは墓まで持っていく覚悟だ。



「ゴホンッ! 一樹の顔がまともに見られないの。こんな事初めてなんだけどどうすればいい?」


 加奈ちゃんが話題が逸れたのを軌道修正した。私はしばらく考えた末に間違いないと一つの結論に達する。


「加奈ちゃん、桜井君に恋してるんだね」

「こ・い!? 魚の?」


 加奈ちゃんが典型的なボケをかましてくる。認めたくないんだね。でも認めないと先に進めない。私は捲し立てる。


「こんな時にそんなボケいらないよ! 恋、つまり加奈ちゃんは桜井君のことが好きなんだよ。意識するとまともに顔見られないんでしょ! 動悸も激しいでしょ! 間違いないって!」

「ないないないないないって! 昔から一緒に遊んでたんだよ。それも物心ついた時から。親友の腐れ縁みたいなもので今更恋愛観ないって!」

「だけどその時から一緒にいた翔琉君には普通に接せるでしょ」

「それはまあ・・・・・・」


 私は内心ほっとした。自分から聞いておいて翔琉君にもドギマギするようなことを言われたら立ち直れなかった。


「なら間違いないよ。桜井君のことが気になる証拠だよ」

「そうかなー」


 この期に及んで認めないとは。まさか――

 私は気になることを聞いた。


「ちなみに加奈ちゃんの初恋っていつ?」

「ないよ」

「今まで一度も?」

「そう。初恋って甘ったるいって聞くけどどんな感じだろうね」


 今、桜井君に感じてるそれだよ!!!

 私は心の中で叫んだ。何か疲れた。


「何で高校生にもなって初恋も知らない加奈ちゃんにあの時相談したんだろ」

「何か私のことディスろうとしてない?」


 何か加奈ちゃんが言ってるが無視して、ハァーと息を吐くと、


「桜井君のことは何とも思ってないんだね?」

「だから最初からそう言ってるじゃん」

「加奈ちゃん、放課後予定ある」

「特にないけど・・・・・・」


 加奈ちゃんがいぶかしんでいる。


「ちょうどテスト期間中だし、放課後テスト勉強しない。もちろん翔琉君と桜井君を誘ってね」

「えーと、今日は予定が――」

「さっきないって言ったよね」

「今思い出したというか・・・・・・」

「加奈ちゃん!!」

「・・・・・・はい」


 加奈ちゃんの顔が引き攣ってる。そんなに私の顔が怖いのか。失礼しちゃうな。


「翔琉君達に言っておくから、逃げないでよ。本当に桜井君のこと何とも思ってないなら問題ないでしょ?」

「わ、分かったわよ。やってやろうじゃない!」


 こうして、加奈ちゃんの恋の行方は放課後に持ち越されたのだった。

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