第21話 一樹から恋愛相談を受ける
あれから、二日、一樹は加奈と話そうとするが、未だ話せてない。休み時間になると直ぐに加奈がどこかへ消えてしまうからだ。一樹もただ黙ってるわけではなく、その都度探してるらしいが見つけてもすぐに見失ってるらしい。しかも、加奈の席は廊下に近いドア側、一樹は窓側なのが致命的だ。今では、一樹の追いかけっこが学校の風物詩となっている。学校中にファンクラブが暗躍している一樹と学校内で三本の指に入ると言われている美少女の加奈だ。噂になるのも時間の問題だったんだろう。
そんなある日の休み時間、
「加奈、ちょっといいか?」
「ごめん! ちょっと急ぐから!」
加奈が勢いよく教室を出ていくのを一樹が追いかけていく。
「おい、待てって!」
「追いかけてこないでよ!」
「お前が逃げるからじゃないか!」
廊下に出ている生徒たちが何事かと一樹達を見ている。だけどそんなことをお構いなしに一樹は走り続ける。今の一樹の目には加奈の姿しか捉えていない。
そしてどれぐらい走っただろうか。サッカー部の一樹に分があったのか距離が縮まってきて、どうにか加奈の腕をつかむことに成功した。
「ハァ、ハァ・・・・・・捕まえた。逃げるなって」
「放して!」
加奈が腕を振りほどこうと暴れる。
「放したら逃げるだろ!」
「・・・・・・もう限界なの!」
加奈の突き放すような言い方にショックを受ける一樹。そんなに俺と一緒にいたくないのか。もしそうなら立ち直れそうにない。それほどまでに加奈のことが好きだったことに今更気付いた。もしそうなら、嫌だなと思いつつ恐る恐る聞いた。
「・・・・・・限界って何が」
「漏れそうなの!!お願いだからトイレ行かせて!」
その言葉で一樹は自分たちが立っている場所が女子トイレの前だということに今更気付いた。
「ご、ごめん!」
一樹が手を放すと加奈は急いでトイレに入った。ドアが閉まる直前、加奈が涙目で一樹を睨むと、
「デリカシーの欠片もない一樹なんて馬にでも蹴られればいいんだから! バカ―!!!」
女子トイレの前に残された一樹は、加奈に嫌われたと足をふらつきながら教室に戻っていった。
昼休み、学食にて――
「一樹、元気出せって」
「・・・・・・加奈に嫌われた。好きな人から嫌われるってこんな気持ちだったんだな」
モテない奴の気持ちわかったか! と言ってやりたいがここまで落ち込まれるとツッコみづらい。一樹から負のオーラが漂ってるせいで、いつもは混雑してるはずの学食も僕達の周りの席だけポッカリ空いている。
それにしても、落ち込んでるイケメンも中々・・・・・・おっと!! 僕にはそっちの趣味はない。これ以上落ち込んでる一樹を見ると僕の目覚めてはいけない何かが目覚めそうな気がする。僕の禁断のパンドラの箱が開かれる前に一樹を元気づけなければ。
「加奈が嫌いって言ったのか?」
「ああ、言われた。話をしようと追いかけたら女子トイレの前で捕まえたんだ。それでいを消して言おうとしたら嫌いって言われたんだ。あまりのショックでその後のことはよく覚えてなくて気づいたら翔琉と学食にいて現在に至る」
ちょっと待て。今女子トイレって言ったか。まさか・・・・・・
「一つ聞くけど、加奈はトイレに行きたいって言ってなかったか?」
「確かそんなこと言ってたな」
「そりゃ、トイレに行くところを邪魔されたら誰だって嫌いって言うだろ!」
「何でだ。女子トイレの前で話しただけだ。覗いたわけじゃない」
「当たり前だ。それは犯罪だ。話すなら後でもよかったじゃないか。一樹、デリカシーがないだろ」
「加奈にも同じこと言われた」
イケメンなら何してもいいわけじゃないからな。だけど、一樹は目の前のことに手いっぱいで他に気が回らないんだろうな。僕も明日香と付き合いだしたから分かる。恋は盲目とはよく言ったものだ。僕は、ハァーと溜息をつくと、
「加奈は一樹のこと嫌いじゃないよ。今まで幼馴染だと思ってた一樹が自分のこと好きなのが分かって気が動転しちゃって思わず逃げたんじゃないかな。それにどうでもいい相手なら、きっぱり断ると思うよ。加奈がサバサバした正確なのは知ってるでしょ。今は、気持ちの整理が必要なのかもしれないよ。明日にでも話しかければいいんじゃないかな。何だったら僕も一緒に行くから」
「それもそうだな。うじうじするのも俺の性分じゃないし、また明日からトライだ。ありがとうな、翔琉。そうと決まれば腹ごしらえでもするか」
「そう来るだろうと思って、一樹の分も買ってきたよ。好きでしょ。かつ丼」
僕はかつ丼が乗っているトレイを一樹の前に置く。
「今の俺にはぴったりな食べ物だ。かつ丼を食べて、必ず俺の恋を
「その意気だ」
僕達は昼休みが終わるまでに食事を終わらせて教室に戻った。
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