第20話 僕は一樹の恋を後押しする

 外が程よく暖かくなってきた七月のある日の放課後、僕達は迫りつつある期末テストに向けての準備をしなければならない。直、テストが終わるまでは部活が一切なく、みんなテスト勉強に打ち込む。しかも、進学校だからか赤点を一つでも取ったら、夏休みは毎日勉強である。だから、テスト期間中は普段やる気のない生徒も本気でやってくることから油断できない。しかも上位五十位まで掲示板で張られることから今の時点でのこの学校の中での実力が分かる。


「橘さん、ここ教えて」

「私も教えてもらっていい?」

「おれもいいかな?」


 明日香の机の周りには教えを乞うクラスメート達で溢れている。それも当然だろう。何を隠そう、明日香は主席合格で入学し、新入生代表の挨拶もした秀才だ。しかも、この前あった中間テストも学年一位だった。実力は折り紙付きだ。そんな明日香に教えを乞うのは同じクラスになった人の特権と言える。しかも、明日香は勉強できることを鼻にかけることなく、誰とも分けへだてなく接することからみんなからの信頼度も熱い。

 しばらく明日香のところに行けそうにないと僕は自分の席で勉強することにした。本当は明日香と一緒に図書室で勉強したかったんだけど仕方ない。だけど、僕の心はちょっと嫉妬している。


「翔琉~! 一緒にテスト勉強しようぜ」

「翔琉~! 私とテスト対策しない」


 一樹と加奈が僕の机に集まる。お互い目線があったままぎこちなく固まっている。傍から見てるとにらめっこのようだ。加奈の顔がみるみる赤くなっていく。


「・・・・・・と、思ったけど明日香に教えてもらおーと」


 その場から逃げるように加奈は明日香の元に言った。


「・・・・・・な、何だったんだ? 俺、何かやったか?」


 明らかに一樹を避けるように逃げていった加奈の態度に凹んでいる。


「あー、ごめん。この前、加奈にからわれて一樹が教室を飛び出した後に言っちゃった。一樹が加奈のこと好きだって」


 僕が言ったことが理解できなかったのか、一樹はきょとんとしてたが、理解できるにつれ口を開くと、


「ハァァァァァァァッ!!!」


と、絶叫し、クラスメート達が何事かとこっちを見ている。あんだけ騒がしかったクラスもシーンとしている。明日香と加奈も驚いた顔をして何事かと見ている。

 何でもないというとみんな興味を失ったようにそれぞれの話題に戻った。

 その様子を見てほっとした僕に動揺しながらも一樹は聞いてきた。


「な、何で俺が加奈を好きだってことになってるんだよ」

「何でって、一樹、昔から好きだったでしょ。加奈のこと」

「それは好きか嫌いかで言ったら嫌いじゃないけど加奈は俺のこと幼馴染としか見てないよ」


 普段の一樹は、自信に満ち溢れてすぐに行動するのに、どうしてこういうときだけ奥手なんだ。ここは僕が人肌脱ぐしかない。


「それはないんじゃないかな。さっき見たでしょ。真っ赤になった加奈の顔。あれは一樹を意識してるって。あんな顔見るの初めてだから。自分でもよくわからない感情でてんぱって逃げちゃうんじゃないかな」

「加奈のことよく見てるな。俺よりお前の方がいいんじゃないか」

「僕は、目に入れても痛くないほどの美少女と付き合ってるんだよ。僕は明日香しか眼中にない。このままじゃ加奈、誰かにとられるかもよ。結構狙ってる男子多いから(知らんけど)。それに僕に彼女が出来たら自分も作るって言ってたじゃないか。付き合うならお互いのことよく知ってる相手がいいと思うよ」

「・・・・・・そうだな。それにしても翔琉も言うようになったじゃないか。俺も告白するよ。俺は加奈が好きだ!」

「その意気だ!」


 その時、僕の方を後ろからトントンされた。


「あのー、翔琉君」


 振り向くと明日香が申し訳なさそうに立っていた。遠巻きにはクラスメート達が顔を赤らめてこっちを見ている。一体どうしたんだろう?

 その疑問の答えは明日香がすぐに教えてくれた。


「もうちょっと声を押さえた方がいいと思うの。さっきから二人の喋ってることが聞こえて」


 どうやら、僕達はヒートアップして段々声が大きくなっていたようだ。注意しよう。だけどうるさかったぐらいでみんな顔を赤らめるだろうか。んっ、待てよ。僕達の会話が聞こえたってことはまさか・・・・・・

 僕の思考は追いついてきたと同時にある人物を見る。加奈を。

 案の定顔がゆでた子みたいに真っ赤だ。間違いなく聞かれた。僕は頭を抱えた。そんの時、一樹が何かを言おうと一歩近づいたところで、


「わ、私、急用があるんだった。もう帰るからまた明日ね! それじゃ!!」


 加奈は教科書が入っているカバンを持つと一目散に去っていった。教室に残された僕達に気まずい雰囲気が・・・・・・

 気落ちしてる一樹の肩をポンとやって「ドンマイ」と慰めた。若干自分の所為のような気もするが、自分のことは完全に棚上げした翔琉だった。

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