第18話 彼女と初めてのプリクラ
「ちょっと寄りたいところがあるんだけどいい?」
「いいけど、どこ行くの?」
「それはついてのお楽しみってことで。だけどあまり期待しないでね」
僕は明日香に連れられ電車で大宮駅に移動した。どこに行くのかと付いていくと東武アーバンパークラインに乗り換えることもなく東口から外に出る。そのままロータリーを回るように歩いて行き、大宮南銀座商店街(通称ナンギンとも呼ばれている)に入ってちょっと言ったところで明日香が立ち止まった。
「ここよ」
明日香に言われた場所を見ると有名なカラオケ店が。なるほど。デートのど定番だ。歌は自信ないし、アニソンしかわからないけど彼女が所望しているのだ。断るという選択肢はない。覚悟を決めていざ――とカラオケ店に行こうとしたら制服の袖を明日香に捕まれる。
「そっちじゃないわ。こっちよ」
明日香に引っ張られていくとカラオケ店の向かい側にあるゲームセンターだった。
「もしかしてカラオケが良かった?」
明日香がしょんぼりしている。
「そんなことないよ。僕、ゲームセンター好きだよ」
「本当!」
明日香の表情が明るくなる。
やっぱり明日香は笑ってて明るい方が可愛い。暗い表情なんて似合わない。
「じゃ、行こう」
明日香が僕の手を握る。突然の行動に驚きながらも念願の手繋ぎが叶ったことに感動する。だが、その感動の余韻に浸れぬまま明日香に引っ張られる形で店内に入る。
店内は入口付近にUFOキャッチャー、プリクラがあり、奥にアーケードゲームがあるようだ。そして、人だかりがあるところを見ると太鼓をたたくゲームが鎮座していた。
僕たちはそれを横目で見ながら奥に入っていく。
「あー!!!」
明日香は目当ての物を見つけたのかつないでた手を放してその場所に一目散に向かっていった。僕は意味もなくさっきまで明日香とつないでた右手をニギニギしていた。
もっと繋いでいたかったな――
明日香の場所に向かうと、一つのUFOキャッチャーの台を食い入るように見ていた。
中には今話題の馬を題材にしたアニメの美少女フィギュアがあった。
早速百円玉を投入し、アームを動かしている。どうやらフィギュアが入っている箱の先についている平べったいプラスチックに穴が開いている。そこを狙ってるようだ。右のアームが見事に穴に入った。だけどちょっとしか動かない。次は左側のアームが入る。またちょっとだけ動く。それを交互に繰り返している。箱が歩いてる感じで近づいてくる。
「フィギュア、好きなの?」
「それもあるんだけど、目に入ると助けたくなるんだよね」
「どういうこと!?」
「何かUFOキャッチャーの台が牢屋に見えるのよね。景品が中でとらえられてるっていうか・・・・・・お菓子だとそんなこと思ったことないけどフィギュアだと三次元だからこの狭い箱から救い出す! という言ってみれば使命感で動いてるような気がする」
「哲学的だね」
そんなこと言われたら僕も救い出さなくてはと思えてくる。僕もなんか取ろうかな。そんなことを思ってるうちにあとちょっとで取れそうなところまで来ている。
「翔琉君、悪いけど両替してきてくれない」
明日香が千円札を渡してくる。確かに今、台を離れると別の人にとられる可能性がある。金をかけてあそこまで動かしたのに別の人にかっさられたんじゃいい気しないもんな。僕にも経験があるからわかる。
両替を済ますと、明日香の邪魔にならない様にそっと台の上に百円玉を十枚置く。明日香はラストスパートとばかりに百円玉五枚を五百円の投入口に入れる。その方が一回やれる回数が増えるからお得だ。だが、あとちょっとというとこで狙いが逸れてきて思ったようにいかない。箱の右側が台からはみ出てあとちょっとで落ちそうなだけに焦りが出てきているのかもしれない。ここまでくるとやめるにやめられないのか金がどんどん減っていく。遂に千円札も三枚目を両替する。これ以上やると金が底つくんじゃないのかと、見かねた僕は明日香に声をかける。
「ここは僕にやらせてくれないかな」
「翔琉君、こういうの得意なの?」
「まあ、見ててよ」
僕は、百円玉を投入するとアームを動かす。
「えっ、そこでいいの!?」
明日香が驚く。そりゃそうだ。僕が狙った場所は彼女と全然違う場所なんだから。
アームが見事に箱の右角に命中するとそこを支点にしてクルリと回るように落ちた。
「はい、これ」
「あ、ありがとう」
明日香がフィギュアの入った箱をじっくり見ている。こんだけ喜んでくれると取った買いがあるってもんだ。
「翔琉君ってもしかしてこういうの得意?」
「得意っていうか、暇なときにはよくゲーセン行くから。何回もやってるうちに自然と身についたスキルみたいなものだよ。それでも取れない時はあるから、ダメだと思ったら早いうちに諦めることを進めるよ」
「だけど、取れそうだったら分かっててもやめられないのよね」
明日香がどうしたものかとため息をつく。
「そういえば昔の偉い人が言ってたんだけど、UFOキャッチャーは金のなる貯金箱って聞いたことがあるよ」
「私も聞いたことがあるかも。それ言ってた人って誰だっけ?」
「それがよく覚えてないんだよね。十年ぐらい前に聞いたような気がするんだけど・・・・・・」
僕たちの会話が聞こえたのか、近くでUFOキャッチャーをやってた人たちがその場を離れていった。その場には僕達だけ。視線の先には店員の姿が。余計なこと言うなって目でこっちを見ている。気まずい。ここはちょっとでも金を落とすか。ここに来れないのは嫌だもんな。
「他にもほしいものある。僕がとってあげるよ」
「本当? じゃぁこれ!」
それから、僕はフィギュアを五箱とることに成功した。出費は二千円ぐらいで済んだから上場だろう。明日香もホクホク顔で喜んでいる。こんな顔が見られただけでも男冥利に尽きるというものだ。
柱にかかってる時計を見るともうすぐ午後五時になるところだ。
「もうそろそろ帰ろうか」
「そうね、私も満足したし。だけど最後にあれやっていい?」
「あれって?」
明日香の後についていくと、プリクラがずらりと並んでいた。
「プリクラってやったことないんだけど」
「大丈夫よ。私も初めてだから」
明日香はそそくさと最新のプリクラ機に入っていく。僕は周りにいるのは女子高生だらけっていう特殊な空間に耐えられそうになく明日香の後に続いた。
中は薄暗く、画面の光だけが漏れてる状態だ。
「使い方は、最初にお金を入れるようね」
使い方は、初めての人でも分かるように画面の横に書いてある。
お金を入れて画面をタッチすると、選択画面が出た。撮影コースを選べるようだ。コースは、全身撮影やアップ撮影のみなどが選べるようだ。
「どれがいいんだろう?」
「そうね。せっかく二人で取るんだからアップ撮影がいいと思うんだけどこれでいい?」
「明日香に任せるよ」
「じゃぁ、決まりね」
次に背景を選ぶようだ。この機種は写真六枚に対して、一枚ずつに背景を変えることもできるようだ。
「これ、背景も六種類だし全部試してみない?」
「私も同じこと思ってたからそうしようか♪」
明日香の声が弾んでいる。僕と同じ意見だったことが嬉しかったのかもしれないと思うのは買いかぶりだろうか。
コースを選び終わると画面に表示される指示に従って、撮影ブースに移動する。
音声の指示に従って撮影する。途中、顔を近づけたり、抱き着いたりした。僕は思わず固まってしまって何もできなかったが、明日香が指示通りに抱き着いてきた時は驚いた。恥ずかしくなかったのだろうか。チラッと見ると耳がうっすらと紅い。恥ずかしかったんだな。
そして、落書きブースで写真をでこると印刷ブースへ。携帯に送ることもできるらしいので僕達も指示にしたがいスマホに送った。
お互いに早速スマホの待ち受けに設定した。
何か、プリクラが一番疲れた。よく巷の女子高生たちは毎日やれるなって感心するのだった。
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