第14話 橘さんの想い。 その2

 私は母親に言われて風呂に入りに行った。頭、体を洗い、湯船に浸かる。


「うんーぅっ・・・・・・ふぅー」


 体を伸ばすとタオルで長い髪を纏める。その姿が鏡で移るのを見るとある漫画に出てくる宇宙人みたいだなと思ってしまう。そんなことを思いながらふと昔のことを思い出す。


 あれは小学三年生の時、私には好きな人がいた。初恋だ。何で好きになったのか分からない。一目見た時からビビビッと来るものがあって、気が付いたら常に目で追っていた。誰もが経験するであろう一目ぼれとはこんな感じだろうか。だけど当時の私は自分で言うのもなんだが地味で目立つ存在じゃない。常に前髪で目元を隠し読書ばかりしていた。おまけに人見知りだ。そんなある時、他の人にはちっぽけに思えても私にとっては大事件が起こる。

 私は勇気を振り絞って、バレンタインデーに告白しようとチョコレートを手作りした。

 そして当日、チョコレートを渡そうと声をかけようとしたが、なかなか話しかけることができなかった。今まで人見知りで他人とうまくコミュニケーションとれたことがない弊害がここに。

 私は別の手段としてこっそり下駄箱に入れることを思いついた。それならうまくしゃべれなくても問題ないはず。そう思って入れようとすると誰かだ通りかかって思わず近くの柱に隠れてしまう。そしていなくなったら今度こそと入れようとするとまた誰かが通りかかる。そして隠れる。この繰り返しで渡せずじまいだ。

 そして、気づいたら放課後になっていた。焦った私はまだ教室に残っていた好きな人の親友が一人でいるのが目に入った。しかも教室には私と二人きり。チャンスは今しかないと思い、勇気を振り絞って声をかける。チョコレートを渡すのを頼むためだ。

 つたない言葉で何とか説明して快く快諾してくれた。ホッとした私はチョコレートを渡す瞬間教室のドアが勢いよく開いた。そこに立っていた人物に驚いて私は思考停止してしまう。まさか、好きな人が来るとわ思ってもみなかった。そして、好きな人は段々と泣き出しそうな顔になり廊下を走り去ってしまった。

 私は見られた。誤解された。どうしようと立ち尽くすしかなかった。

 この日はどうやって家に帰ったのか覚えていない。

 次の日、何とか説明しようと彼のところに行くが明らかに避けられる日が続いた。私が渡したチョコレートもあれからどうなったか分からない。

 そしてある日、私は嫌われたんだと思ったら緊張の糸が切れたのか元々体力があまりなかったせいか熱を出して三日間寝込んだ。寝込んでいる間、あの光景が何度もフラッシュバッグする。それを繰り返してるうちに何で私がこんな思いしないといけないんだと怒りがわいてくる。直接言えなかった私が悪いとはいえ、話ぐらい聞いてくれてもいいじゃないかと。こうなったら見返してやる。私を振ったことを後悔するがいい。実際フラれたわけじゃないけど似たようなものだろう。

 私はまず怒りをぶつけるように勉強した。そのおかげか中学は私立の学校に入った。そこでは見た目から変えていこうと前髪をバッサリ切りファッションセンスを磨いた。その頃には友達も何人かでき、性格も明るくなった。人は見かけが良くなると性格も明るくなるようだ。中学三年になるころには男子から告白されるようになる。

 その頃には当初の目的は忘れかけていた。だが、高校に入学したときに再会してしまったのだ。私の初恋相手、星宮翔琉に。向こうは私に気付いてないようだ。無理もない。あの頃の私とは見た目が全然違うし、下手したら私の名前も覚えてないかもしれない。それほど存在感がなかったと自負している。だけど、私は一目でわかったと同時に当初の目的が再燃する。

 そして、高校生活に慣れてきたころには、私は成績もトップクラスで見た目も可愛いとスクールカーストのトップに君臨していた。遂に私の目的を果たす時が来たと私は動いた。大きな魚を逃したと思った時にはもう遅いのだ。私は、男子で人気が高い桜井君に告白することにした。何を隠そう、翔琉君の親友であの時、チョコレートを私ように頼んだ相手だ。そして、折を見て翔琉君にあの時の私だというつもりだった。(自分が振られるとは微塵も思ってない)

 私はラブレターを書いてこっそり桜井君の下駄箱に入れた。ちょっと古典的かなと思ったが、よく考えたら自分磨きに力を入れすぎて告白の仕方まで頭が回らなかった。こんなことなら中学の友人に聞いとくんだったと後悔した。だけどやるしかないと放課後になると指定した場所で桜井君が来るのを待った。待ってる間、人生初めての告白だと思うと緊張した。

 だが、そこに現れたのは桜井君ではなく翔琉君だった。私は頭が真っ白になり思わずその場から逃げてしまった。そして、教室にまだ残っていた加奈ちゃんに相談したのだ。そうしたらいっそうのこと翔琉君と付き合えばと言われてしまった。どうしようと考えた時、とりあえず付き合ってみて一番いい時に振ってやろうと計画を変更した。それぐらいあの時の私は傷ついたんだと。

 結果から言うと失敗だ。私の方が骨抜きにされてしまった。誰だってあんな風に助けられてはときめかないはずがない。


「・・・・・・カッコよかったなー」


 体が火照ってくる。どうやらのぼせたかもしれない。長く湯船に浸かって思いにふけっていたようだ。

 私は風呂を出ると、パジャマに着替えてバスタオルで髪の毛を拭きながら部屋に戻ると、机に置いてあるスマホが震えた。

 画面を見ると翔琉君からのメールのお知らせだ。


「翔琉君からメールっ!?」


 私はどんなことが書かれているのかと緊張しながらメールを開く。


『明日、一緒に学校に行きませんか?』


「・・・・・・こ、これってデートの誘いなんじゃ!」


 一緒に学校行くだけでもデートって言えるのか分からないが、私にとっては一大イベントなのだ。何しろ人生初といっても過言ではない。

 私は何て返事すればとメールを打ち込むも悩んでは消すのを繰り返した結果、『はい』と一言返すことしかできなかった。

 もっとうまい言葉があったんじゃ・・・・・・と後になればなるほど悩んで悶々してしまう。

 そんな私の葛藤もお構いなしに夜が更けていく。

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