第12話 僕は男気を見せる

 そして、放課後。


 僕は自分の机で帰り支度していると、


「いや、お前を見直したよ。いつも桜井の影に隠れて目立たない奴だと思ったがやるときはやるんだな」

「人は見かけによらないってほんとだな」

「星宮君、カッコよかったよ」

「ほんとにねー。私も彼氏にあんなセリフ言われてみたいなー」


 クラスの男女問わずみんなが僕のことを囲んでぐちぐちに言う。今までこんなことされたことないからどんな対応したらいいか分からない。困っていると、流石は幼馴染ということか、一樹が助け船を出してくれた。


「こいつはやるときはやるんだよ。ここだけの話、運動だって本気出したらこいつの方が実力は上だ。なっ!」

「それはどうだろ・・・・・・」

「謙遜するなって」


 一樹は僕の肩に手をまわしてそんなことを言ってくる。だが、僕はそれどころではない。この学校にも非公認ながら一樹のファンクラブが存在するはずだ。実態は見たことないからどれぐらいが所属してるか分からないけどこのクラスにもいておかしくない。この前、こっそり一樹にプレゼントを上げた他校の女子生徒が消されたという話を聞いたことがある。都市伝説的な眉唾物だけど・・・・・・

 だから、僕は周りをつぶさに観察する。だけどこちらを睨むような視線は皆無で友好的だ。考えすぎかな。


 そんなことを考えていると、一人の男子生徒が聞いてきた。


「星宮、そんなに運動神経があるんだったらなんか部活に入らないのか? お前なら即戦力になるんじゃないか。何もやらないのはもったいないって。何なら俺が所属している野球部なんかは――――」

「部活はやらない。それに部活に時間を取られたら橘さんと過ごす時間が無くなるじゃないか」


 僕は被せるように言った。周りがシーンとする。僕、なんかまずいことを言っただろうか?


「こいつ開き直りやがった。ちょっと前までは橘さんと付き合ってるのがバレたらなにされるかみたいなこと言って怯えてやがったのに」


 一樹が言った。確かにちょっと前までそんなこと言った覚えはある。だが、もうバレてしまったのだ。もう状況が違うのだ。僕は過去にはとわわれないのだ。


「もう、そんなことは言わないよ。今回のことで分かった。橘さんを危ない目にはもう遭わせない! 僕が守る!」


「「「ひゅー!!!」」」


 僕の宣言にみんなコイツ男だとたたえてくれる。


「取り込み中ちょっといい」


 そう言って現れたのは加奈だ。


「何?」


「いや、これ以上は居たたまれないというか・・・・・・」


 加奈の奴、様子おかしくないか。いつもははっきり言うのに、なんか歯切れが悪い。それに顔も少し赤いような・・・・・・体調でも悪いのかな。


「あっちを見てくれる」

「あっち?」


 加奈に言われるがまま見ると、そこには茹蛸みたいに赤くなってる橘さんの姿が。今にも頭から湯気が出そうな感じだ。

 どうやら僕が言ってた言葉を一部始終聞こえてたらしい。ここが教室で周りにはまだ残っている人がいることを失念していた。橘さんと付き合えるのが嬉しくて舞い上がってしまった結果、ちょっと調子に乗ってたかもしれない。反省。

 僕はカバンを持つと橘さんの元へ。


「橘さん」

「・・・・・・」


 返答がない。聞こえないのかな。


「橘さん。橘さん!」

「な、何!?」


 僕が再三呼びかけるとビックと驚いたように反応した。


「一緒に帰ろうか」

「はい♡」


 その様子を見てたクラスメート達は、「あれはもう俺たちの入る余地はなさそうだ」「星宮になら任せられるな」「あんな顔もするんだ、明日香」とそれぞれの感想を言いつつ、みんなが俺たちを応援してくれた。一時はどうなるかと思ったがクラスメート達が言い人達でよかった。

 そうして、僕達は学校を後にするのだった。帰宅中は橘さんが終始無言でたまに顔が合うと直ぐに背けて恥ずかしそうにしている。特に会話が出来そうな状態じゃなかったが僕は意外にもこの時間が幸せだ。そうこうしているうちにあっという間に最寄り駅の春日部駅に着いた。いつもはもうちょっと長い感覚なのに楽しい時はあっという間と言うのは本当のようだ。特に好きな人と一緒にいるときは。ちなみに春日部駅に着くころには落ち着いたのか会話ができるようになった。

 橘さんは越谷なので送っていくと言ったら「そこまでしてもらうまでは」と言われたので僕は何回も送っていくと言った。せっかく付き合うんだから彼氏みたいなことをしてみたい。だけど橘さんは「は、恥ずかしいから!」と全力で断られてしまった。そこまで言われたら無理強いは良くないかと今回は引いた。

 僕は忘れないうちにスマホを取り出すと「アドレス交換しない?」と提案した。


「そういえばまだしてなかったね」


 橘さんがスマホを取り出した。


「一応言っとくけど僕、ラインとかしてないけどいい?」

「奇遇ね。私もしてないわ。何か既読がつくし、すぐに返さなければいけないし、気になってしょうがなくなっちゃうの」

「そうそう、分かる。僕もそれで貴重な時間がとられるのが嫌で。でも登録してるの、一樹と加奈ぐらいだけどね」

「・・・・・・」


 橘さんの元気がみるみるなくなっていく。


「ど、どうかした?」

「・・・・・・名前」

「えっ!?」

「桜井君は分かるけど加奈ちゃんもどうして名前で呼んでるの? そんなに親しくなかったよね」


 どういったものかと思ったが正直に言うことにした。僕にやましいことは無いのだ。


「あーあ、実は僕と一樹と加奈、昔からの幼馴染なんだよね。最近まで僕と言うより一樹と親しいのがバレるとどこで恨み買うか分からないから他人のふりすることを頼まれて。女子の妬みはしつこいとか何とか言ってね。だけど最近になって何で私が我慢しなきゃいけないんだと思って昔みたいに仲良くやろうってつい最近言われたんだよね。だから名前で呼ぶのも深い意味があるわけじゃなくて――」

「――名前」


 橘さんが僕の説明に被せるように言ってきた。


「私のことも名前で呼んで。せっかく付き合いだしたのに苗字で呼ぶのってどこか他人行儀みたいだし、ダメ?」


 上目づかいで見られたら断れるわけないじゃないか。


「わ、分かったよ。明、明日香」


 橘さん、いや明日香は今日一番の笑みを浮かべて「これからもよろしくね。翔琉君」と満面の笑みを浮かべた。

 僕はその笑顔に思わず・・・・・・


 パシャッ!


「えっ!?」


 気づいたらスマホで橘さんの写真を撮っていた。

良くとれている。これ待ち受け画面にしよう。


「な、何でとるの。消して! お願い!」


 明日香が恥ずかしそうに飛び跳ねて僕のスマホを奪おうとする。僕は電車が来るまで何とか死守する。やがて、明日香は諦めたように息を吐くと僕たちは改めてアドレス交換をした。

 急行がホームに入ってくると明日香は恥ずかしそうに手を振って乗り込む。僕も手を振って「また明日」と言うと明日香も「また明日」と言うのと同時にドアが閉まり走り出していった。

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