第11話 僕たちが付き合ってるのがバレてるんだけど!?

 あれから交番で一時間ほど事情を聴かれて解放された。交番を出るときに警察官から「もう、こんな危ないことに首ツッコむなよ」とお𠮟りを受けてしまった。女子小学生達は親が迎えに来て家に帰るそうだ。あんな目に遭ったら学校に行きたくないもんな。心に傷抱えてなければいいけど。だけど後は親たちがどうにかしていくだろう。これ以上僕達に出来ることは無い。そんなわけで橘さんと並んで学校に向かっている。

 それにしてもどうしたんだろう。ずっと無言で俯いている。もしかして遅刻したことを気にしてるのかな。成績は常にトップクラスだし、先生たちの信用度も高い。内申点に響くのかな。だけど事情が事情だから大丈夫だと思うけど。もしダメだったら僕が先生を説得しよう。


「ごめんなさい」


 僕が一人決心を固めていると突然謝れた。えっ!? 何で、まさか別れてほしいとか。頭の中でどんどんマイナス思考が膨れ上がっていき、気づいたら叫んでいた。


「何か至らない点があるなら直すから別れないで!」

「えっ!? 別れないけど」


 どうやら僕の早合点だった。穴があったら入りたい。それにしても違うなら何について誤ったんだろう。


「そうじゃなくて、私のせいで巻き込んでしまって。もうちょっとうまく立ち回れたらどうにかできたかもしれないのに」


 何だ、気にしてたのはそんなことか。僕は橘さんに言った。


「そんなのは結果論だよ。橘さんはあの小学生たちを助けたかった。多くの人たちの様に見て向ぬ振りもできたのにそれをしなかった。それは橘さんの勇気でそこを否定したらダメだよ」

「・・・・・・だけど――――」


 僕は橘さんの言葉に被せるようにして言う。


「もう終わったことだからいいじゃない。僕も橘さんも怪我しなかったんだから。それに僕が橘さんと同じ立場でもきっと同じことしたと思うよ」


 僕が明るく言うと、橘さんは顔を逸らす。


「ず、ずるい。私の――――だったのに、逆に私が――――されるなんて」


 橘さんがなんかボソボソと言ってるがよく聞き取れない。


「何か言った」

「何でもない。ありがとうって言ったのよ!」

「ど、どうも致しまして」


 橘さんが叫ぶように言ったのに驚いて返事してしまった。

 橘さんは耳を真っ赤にして速足で学校に向かう。僕は慌ててその後を追う。

 僕、何か気を触ること言ったかな。


 僕たちが学校に着いたのは二時間目の数学の時間だった。教室のドアを開けるとクラス中の視線が。この注目される空気に耐えられない。だから今まで遅刻なんてしたことなかったのに。今回なんて橘さんが一緒だったからいいけど僕一人だったらなかなか学校に行けなかったかもしれない。それほど悪目立ちしたくないのだ。


「お前ら、事情は聴いている。さっさと席に着け」


 数学の担当教諭がそう言ったので僕たちは大人しく席に着いた。それにしても事情は聴いているって警察から連絡でもあったのかな。そうだとするとなんか恥ずかしいな。だけどこの疑問はすぐに解消されることになる。

 数学の授業が終わった休み時間、一樹が僕のところに来ると開口一番に言った。


「お前、颯爽現れ、チンピラを倒して橘さんを助けたらしいな」

「な、何で知って――――!?」

「お前、今じゃちょっとした有名人だぞ。あんだけ目撃者がいるところで大立ち回りすればな。しかもその場所が俺たちが通う高校の最寄り駅じゃな」


 だからか、さっきからチラチラこっちを見ている複数の視線があると思ってたら好奇心からか。

 橘さんの方を見ると何人かの女子が席を囲み、「大丈夫だった?」とか「怪我してない?」とか心配そうに声をかけている。その中には加奈の姿もある。一瞬こっちを見たかと思ったら橘さんの耳元で何かささやいている。

 次の瞬間、ボッと橘さんの顔が紅くなり茹蛸ゆでだこみたいになっている。

 橘さんのあんな顔、今まで見たことない。加奈の奴、何言ったんだ?


「星宮、橘と付き合ってるんだって」

「!? な、何で知ってるの!」


 あんまり話したことないクラスメートの男子に話しかけられたばかりが橘さんと付き合ってることがバレてる。何でバレたんだ。バレたら学校中の男子から袋たたきにあったり嫌がらせ受けそうだから学校では接点作らないように気をつけようとした矢先に。だけど昨日の今日で広がるか。一樹は言いふらすような奴じゃないし、もしかして昨日橘さんに告白されたところでも見られたか。

 僕の脳内は高速回転で情報処理をしてここまでたったの0.2秒。どうすればいいんだと頭を抱え、もしかして知ってるやつを消せばいいんじゃね。と考えが危ない方向に傾きかけたところでクラスの男子が教えてくれた。


「実は俺もあの場所にいてな」

「なら助けてくれてもいいじゃないか」


 僕は開口一番に叫んだ。

 男子は申し訳なさそうに弁明した。


「あの時は橘さんが絡まれてると分かった時、助けようと思ったんだ。だけどチンピラがナイフを取り出した時、恐怖で足がすくんで動けなかった。だけどお前はすげえよ。恐怖で引きずるどころか真っ向から立ち向かって返り討ちにしてしまうんだから。なあ教えてくれ。どうやったらお前みたいに強くなれるんだ」

「それは――」

「こいつのは参考にならないぞ」


 僕の言葉に被せるように一樹が言った。


「こいつはある時を境に漫画にどっぷり嵌っていろんな格闘技に手を出してるんだよ。男だったら誰でも経験ないか。意味もなく必殺技の真似しただろ」

「確かにしたね。俺の場合はサッカー漫画の影響で必殺シュートの真似なんかしたね。現実的にできないのにいつかはできるんじゃないかと夢中になってね」

「たいていの奴はそこで諦めるんだがこいつはあることが原因なんだがここでは言うことじゃない。とにかく諦めることをしなかったら全部極めてしまって実力はそこら辺の不良では勝てないほど力をつけてしまったんだ」

「そんなことで・・・・・・天才とバカは紙一重っていうけど、これほどとはね」

「僕、バカにされてない?」

「してないしてない」


 なんか納得いかないけどまあいいや。それよりも忘れないうちに聞いておこう。


「ねえ、一つ聞いていい?」

「どうして僕が橘さんと付き合ってるの知ってるの? 付き合いだしてからたったの一日しか経ってないし情報が出回るにしても早いと思うんだけど」


 僕はチラッと一樹を見た。

 一樹は察したように「俺じゃないぞ」と言う。


「そうなの!? そんだけの月日であの立ち回りを。男の中の男だ。翔琉、いや師匠と呼ばせてくれ」

「いや、それはちょっと」


 丁重に断ると男子は気分を害することなく「じゃあ翔琉で」と、言ってそれならと納得した。


「何で付き合ってるのを知ってるのかって言うと翔琉が自分で言ってたじゃないか」

「ボ、僕が!?」

「チンピラに絡まれた時を思い出してみな」


 言われたようにあの時の情景を思い出す。あの時は橘さんが女子小学生をかばってチンピラと言い合ってるのが目に入ったんだ。様子を窺ってたらチンピラが橘さんに手を出そうとするのを見た瞬間頭が真っ白になって気づいたら殴りかかってきた拳を受け止めて僕は言ったんだ。『僕は彼女の彼氏だ! これ以上彼女を傷つけるなら僕が相手だ!』と。ああああああ、自分で言ってるよ。僕のバカ。この先まだ高校生活二年以上あるんだ。どんな嫌がらせを受けるか。

 僕が頭を抱えてると、一樹が言った。


「大丈夫じゃないか。あんな大立ち回りしたんだ。よっぽどのバカじゃない限り翔琉には手を出さないよ。・・・・・・たぶん」


たぶんて何? そこははっきり断言してよ。


「私も見たよ。あの時の星宮君、カッコ良かったわ。私も彼氏にあんなセリフ言ってもらいたいわ」


 僕達の話が聞こえていたのかクラスの女子がそんなことを言った。そして、別の女子が「私、携帯で録画したよ」と言うのでみんなが見せてと集まり教室の一角で動画鑑賞会が始まった。


『僕は彼女の彼氏だ! これ以上彼女を傷つけるなら僕が相手だ!』というセリフが聞こえてきた。

 これ、なんていう拷問。恥ずかしすぎて死にたいんだけど。ほら、橘さんも両手で顔を覆てるじゃないか。隙間から見える耳が紅いことから橘さんも恥ずかしいんだろうなと窺うことができる。一樹も加奈もこの状況を楽しんで止める素振りがない。結局この状況が次のじょ業が始まるチャイムが鳴るまで終わることは無かった

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