第9話 あの頃と今の橘さんが同一人物だと思えない

 橘さんに告白された夜、僕は今、部屋のベッドで仰向けになっている。あの後、橘さんと並んで帰って春日部駅で別れた。時間帯も下校時間ぎりぎりだったから僕たちが一緒に帰ってるのを見られることは無かった。もしみられてたら変な噂が立ってしまうかもしれないからよかった。橘さんは今は越谷市に住んでるようで、ホームで別れてから気分がまるで夢の様にふわっとしている。本当にあの橘さんと付き合うことになったんだ。まるで夢現のようだ。

 そうだ、と僕はベッドから起き上がると机にある本棚から小学の卒業アルバムを探す。


「え~と、どこにやったかな・・・・・・あった。これだ」


 卒業アルバムを収納されてるケースから取り出すとページをめくりそれぞれのクラスのページを見る。


「橘、橘・・・・・・あった」


 僕は指でなぞるとそこには――――


「橘――――明日香。本当だ。学校、一緒だったんだ。今の雰囲気とは違い髪が三つ編みで目が目をかけていておとなしい印象だ。確かに僕の初恋相手だ。フラれたと思ったショックで今まで一度も卒業アルバムを見ようと思わなかった。だけどまさかあの橘さんだったなんて。当時の僕に初恋は実るって教えてやりたい。ただ、白鳥さんの手のひらで踊らされてるようで気に食わないけど」


 トゥルルル・・・・・・トゥットゥル・・・・・・


 机に置いてあるスマホが鳴った。

 アルバムをベッドの上に置くとスマホをとる。画面を見ると着信相手は一樹だ。


「もしもし――――」

『翔琉、今大丈夫か?』

「大丈夫だけど何か急用?」

『いや、あの後どうなったか気になってな。告白されたんだろ?』

「ああ、橘さんと付き合うことになった」

『よかったじゃないか。初恋が叶って』


 電話越しに祝福してくれてるのが分かる。僕にもったいないぐらいの幼馴染で親友だ。


「そういえば、橘さんが僕の初恋の相手って知ってたんだろ。何で教えてくれなかったんだ?」

『ああ、それは実は最近気づいたんだ』

「はぁっ!」


 僕は思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 次の瞬間、部屋のドアが勢いよく開くと、妹が仁王たちで立っていた。


「お兄、勉強してるんだから静かにして!」

「ああ、ごめん・・・・・・」

「・・・・・・全く気をつけてよね」


 そう言うと妹は自分の部屋に戻っていった。


「一樹のせいで妹に怒られたじゃないか」

『今のは翔琉のせいのような気もするけど、葉月はづきちゃんも相変わらずのようだな。今年受験生だっけ?』

「そうだね。しかも僕たちの高校を受けるらしい。受かったら来年からは後輩だね」

『そうか、それは楽しみだ。だけど兄貴からしたら心配かな。葉月ちゃんはそんじゃそこらの女子よりは可愛いからモテるんじゃないか」

「そうなんだよな。変な虫がつかないか心配で・・・・・・」


 僕の妹、星宮葉月《ほしみやはづき》。僕と一歳下の十五歳、中学三年生だ。小、中一貫の女子校に通っていている。ちなみに生徒会長を務めるほど成績はトップクラスだ。いつも長い黒髪をツインテールにしている。贔屓目ひいきめに見ても十分にモテる美しさだ。それにずっと女子校に通ってる弊害か家族以外の男子は一樹ぐらいしか面識がない。それだけに不安なのだ。どこかのチャラい奴の毒牙にかかり、染められないかと――――目に入れても痛くない妹を守れるのは僕しかいないと心しれず決心した。だが、目下の目標は橘さんのことだ。


「葉月のことよりさっきの続きだ。最近気づいたってどういうことだ?」


 僕が一樹に気になったことをぶつけた。一樹は『さっきの・・・・・・』と何のことか分からないような感じだったか、すぐに『あ~あ・・・・・・』と思い出した感じだった。

 こいつ・・・・・・葉月の話題になったことで本筋忘れてやがったな。僕にとっては大事なことなのに。


『最近気づいたってのは、お前、あの時振られたとかわめいてしかも俺が告られてるのを見たとか言ってきてこっちの言うこと碌に聞かなかっただろ』

「・・・・・・そうだっけ?」

『・・・・・・本当に都合悪いこと忘れてるのな。うらやましいよ』

「何か馬鹿にした?」


 僕のツッコミをするように一樹は話を進める。


『その後からこの手の話題になるとお前はすぐに話題を変えようとしていた。だから俺もあまりその話題に触れなくなっったつうよりそんなことも忘れていた。あの時は小学三年生だ。他に興味がある物が出てくればそっちに飛びついてさっきまでしてたことを忘れたりするだろう。そうこうしてるうちにクラス替えで橘さんと別れて完全に忘れてたんだ』

「じゃぁ、いつ思い出したんだ?」


 僕は気になることを聞いた。


『思い出したつうより教えてもらったが正解だな』

「誰に?」

『加奈だよ』

「・・・・・・へっ!?」


 僕は一瞬何言われたか分からなかった。だって加奈は別の学校行ってたから橘さんと面識ないはずだ。それに前に橘さんとは高校の入学式の時に知り合ったって言ってたはずだ。


『覚えてないかもしれないけど、お前、昔にクラスの集合写真で指さして『この人が僕の好きな人』ってさんざん加奈に言ってたんだよ。その時見せてもらった相手の顔を鮮明に覚えてるらしくてな、その時と大分姿が変わってるけど一目でわかったてよ。俺も久々に卒業アルバム見たけど今と全然違うからピンとこないな。あんなに大人しそうな人が今ではギャルっぽいもな。人間時間が経てば変わるもんだ。それを写真で一目見ただけの加奈が見抜くんだからすげえな。女の人は小さなこともすぐに気付くっていうし、お前も付き合うなら気をつけろよ。知らんけど』


 一樹からどこか他人事のようなアドバイスをもらった。


「橘さんは僕のこと覚えているんだろうか?」

『さあな。早速聞いてみればいいじゃないか。電話する口実が出来て掛けやすいだろ?』

「・・・・・・あっ!?」


 僕は一樹に言われてあることを思い出した。何で失念してたんだと思う。電話越しに『どうした』と一樹の戸惑った声が聞こえてくる。このことを言うのはなんか恥ずかしくて笑われそうだが一樹ならいいかと打ち明けることにした。


「・・・・・・実は電話番号聞いてなかった」

『・・・・・・』


 一樹の反応がない。聞こえなかったのかな。


「実は電話番号を――――」

『二度言わなくていい、聞こえてるから! お前ら付き合うことになったんじゃないの。何で聞いてないの!』

「それは告白されて付き合うことになったらテンション上がっちゃてそれどころじゃなかったんだよ! 相手はあの橘さんだよ。普通にいられるわけないじゃないか! どうせ女慣れしてる一樹には分からないだろうね!」


 僕が早口でまくし立てると、


『・・・・・・お、おうなんかすまん』


 一樹が珍しく僕の迫力に圧されてるのが電話越しに分かった。


『まあ明日も学校で会えるんだ。その時に聞けばいいじゃないか。じゃぁ、明日な』


 一樹が逃げるように電話を切った。

 僕は興奮して何か体が熱い。この熱を冷ますためにも風呂に入って、明日に備えることにした。だが、後悔することになる。何で付き合うことになったときに電話番号を好感しなかったんだろうと・・・・・・

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