第6話 僕の青春ラブコメは始まらない

 どれぐらい立ちすくしていたか辺りはすっかり夕方になり部活動も後片付けしている。僕は教室にカバンを置き忘れたままなのを思い出し取りに戻った。そして、どこかやるせない思いを抱えたまま教室のドアを開けようと指をかけた時、何やら教室の中から話し声が聞こえる。そ~とドアをちょびっと開け、中の様子を見る。


「ど、どうしよう! 加奈かなちゃん!」

「ちょっと落ち着いて!!」


 橘さんが切羽詰まったように相手に詰め寄っている。話してる相手は橘さんの机に腰を下ろして足を組んでいる。あれは、白鳥さんだ。本名、白鳥加奈しらとりかな。橘さんと仲が良くいつも一緒にいるのを見る。見た目はブレザーのボタンを大胆に開け、胸元が見えている。そして、両手には橘さんとお揃いのシュシュをつけて長い髪をポニーテールでまとめている。だが、見た目に反して、身長が百五十センチメートルもなく、街中ではよく小学生に間違われるらしい。でも本人は気にしてないようで我がクラスでは愛玩動物のように扱われていて男女ともに人気がある。そんな二人が何やらもめているのだ。

 なんか教室に入るタイミングを逃したようだ。これは、時間をおいてから来た方が良さそうだ。

 そう思って僕は教室を後にしようとすると聞き捨てならないことが聞こえた。


「・・・・・・私、勇気を振り絞ってラブレターを出したんだけど・・・・・・」

「お、どうだった?」

「・・・・・・それが、間違えたの」


 今にも声が消えそうな感じで橘さんが言ってるのが理解できてないのか、白鳥さんがポカンとした顔をしている。


「間違えたって何を?」

「・・・・・・笑わないでよ」

「分かった。分かった」

「勇気を振り絞ってラブレターを桜井君の下駄箱に入れたはずなんだけど間違えて星宮君の下駄箱に入れちゃったみたいなの!」


 橘さんの独白に一瞬、辺りが静寂に包まれたようになる。暫くしてどこともなく笑い声が・・・・・・白鳥さんだ。


「アッハハハッ・・・・・・今時そんなミスする。相変わらず明日香は抜けてるんだから。こういうところが男子にモテる要因なのかもね。それにしても、あ~おかしいっ!」


 白鳥さんはツボに入ったらしく笑いこけて涙をぬぐっている。


「笑わないでって言ったのに・・・・・・」

「ごめん、ごめん。じゃあ、呼び出した場所には星宮君が来たんだ」

「・・・・・・うん」


 橘さんが苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


「なんか、歯切れ悪いな~。ちゃんと星宮君に間違えたって正直に言ったの?」

「・・・・・・言ってない。気が動転して思わず逃げちゃった」


 白鳥さんはあちゃ~という感じで頭を抱えている。


「こういうのは早く言った方がいいよ。あとになればなるほど言いずらいし、クラス一緒だから嫌でも顔会わすよ。それに星宮君の立場になって見るとショックだと思うよ」

「えっ!?」

「だってさ、ラブレターをもらって呼び出しの場所に言ったらそこにいたのは学年で一番と噂される明日香がいるんだもの。それは内心喜んだでしょうね。もし喜ばない奴がいればそいつはゲイね」

「そうとは限らないんじゃぁ。彼女がいたら喜ばないでしょう」

「あまい!! あまいよ、明日香! 男子という生き物はね、彼女がいようがきれいな女性がいれば目移りするし、告白なんてされれば喜ぶものよ。幼馴染の男子もそう言ってたし、間違いないわ」

「加奈ちゃん、幼馴染がいたんだ。私の知ってる人?」


 白鳥さんは口が滑ったて顔をして口元を押さえる。


「私のことはいいの。それより星宮君のことよ。早く言った方がいいよ。きっと本人は振られたと思って意気消沈してるはずだから」

「明日じゃダメ。私にも心の準備が・・・・・・それに、星宮君、もう帰ったかもしれないし・・・・・・」

「それはないと思う。まだカバンがあるから校舎の中に入るはず。ショックを受けてそんなことにも気づかなくて帰ったなら別だけどね」


 一通り聞いた僕は教室に入るタイミングは今しかないと見た。二人には聞かれてたことがばれるだろうが、幸い他に人がいない。僕達の中でなかったことにすれば明日からいつも通りだ。

 それにしても、やはり一樹のことが好きだったんだな。やたら目が合ったのも一樹を見てた直線状に僕がいたに過ぎないんだろう。視線を感じた時はいつも横に一樹がいたからな。それにしても、橘さんは告白相手を間違えるほどのドジっ子のようだぞ、一樹よ。僕は陰ながら橘さんの恋が叶うことを願おう。

 僕の青春ラブコメは始まらない。

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