第5話 えっ! 僕のこと好きじゃなかったの!?
僕達のクラス、一年四組は一回昇降口の右側の突き当りにある。前の扉を開けて中に入ると、「おはよう!」とあいさつを交わす一樹の後に続くと、窓側の一番前の席にいる橘さんと目が合う。次の瞬間、顔が真っ赤になったと思ったら顔を背ける感じで手元にある本の読書を再開する。よく見ると表紙のタイトルが上下逆さまだ。周りにいるクラスメートにも突っ込まれて恥ずかしそうに本の位置を戻している。
橘さんって意外とおっちょこちょいなのかな?
「ほら、目が合うなりあの慌てぶり。やっぱり、翔琉に気があるじゃないか。よかったな」
「何の話?」
近くにいたクラスメートが聞いてくる。
「いや、こっちの話」
橘さんのあの態度、脈ありなの。えっ、期待していいんだろうか? 考えたら心臓の鼓動が速くなってくる。静まれ! 僕の心臓の鼓動よ!!! このままじゃ放課後まで身が持たない。
それから授業に身が入らなかったのは言うまでもない。何回か目が合った気がするが、そのたびに後ろの席の一樹からツッコまれる。
そして、昼食の時間になって僕と一樹は学食に向かった。
空いてるテーブルに向かい側に座ると、一樹が肉うどん、僕は購買で買ったおにぎり二つだ。
「おにぎりだけじゃ少なくないか?」
僕は、おにぎりをチマチマ食べながら答える。
「放課後、告白されるかと思ったら緊張のあまり、そんなに食欲がわかなくて」
「お前は乙女か!!!!」
一樹に思いきりツッコまれてしまった。
「気楽にいけって。告白するんじゃなくてされるんだからどっしり構えてればいいんだって。考えておいた方がいいのは告白の返事ぐらいか。当然OKするんだろ?」
「・・・・・・そりゃ、相手はあの橘さんだし、付き合えるなら付き合いたいけど、もしそれであらぬ噂が立ったら迷惑をかけるかもしれないと思うと・・・・・・」
一樹はうどんを食べている箸を止め、呆れたような顔をする。
「そんなの気にしたってしょうがないって。惚れた方が負けなの。それにもしいちゃもんをつけてくるような奴がいたら俺がそいつに文句言ってやるよ。だから、放課後楽しめ! 今しか青春出来ないんだからな!!」
一樹はまたうどんを食べ始める。僕もおにぎりにかぶりつぐ。
「ちょっと気が楽になったよ。そうだね。今を楽しむよ」
「それでいいんだよ。そんな悩み他の奴が聞いたら贅沢な悩みだからな」
「それにしても、一樹がモテる理由が分かったよ」
「ゴホッ、ゴホッ・・・・・・」
一樹は
「急に変なこと言うな。俺にそっちのけはないぞ」
「安心していいよ。僕も異性にしか興味ないから」
それから、午後の授業も終わり放課後になった。
「いよいよだな」
一樹に声をかけられると緊張で息切れと動悸が激しくなった。
「おい、大丈夫か?」
「僕は自慢じゃないが今まで告白されたことがないんだ。どうしたらいいか分からないんだ。一樹は今まで経験したことあるだろう。何かアドバイスほしいんだけど」
「特に言うことは無いよ。一言いうならがんばれ! じゃ、俺は部活に行くから。結果は明日でも聞くわ」
「ちょ、ちょっと」
こっちの制止も聞かず一樹は部活に行ってしまった。取り残された僕は橘さんの席を見るが姿が見えない。もう行ってしまったのかもしれない。僕は、勇気を振り縛って体育館裏に向かうことにした。
それからグラウンドで部活してるのを横目に歩いてるとサッカーの練習している一樹と目が合う。僕に気付いてピースサインしている。それを見学してた数人の女子が睨んでくる。
何あれ!? 怖い。あれが一樹の言ってたファンクラブの人たちかな。見なかったことにしよう。
僕は気を取り直して歩いて行くと体育館が見えてくる。近づくにつれ緊張してくる。今にも心臓が飛び出しそうだ。こころなしか体育館から聞こえるバスケットボールのドリブルの音が自分の鼓動の様に思えてくる。
僕は体育館裏に回るところで桜の木の方を見る。その場所に一人立っている人影が。間違いない。後ろ姿だが、風になびく長い茶髪に両手首には黄色のシュシュ。そしてスカートから長く伸びる足。まるで、モデルのような体系だ。橘さんだ。
僕は
とうとうこの時が来た。今か今かと持っているが、橘さんがなかなか声をかけてこない。緊張してるのかな?
「な、何で星宮君がここに?」
「な、何でって僕の下駄箱に入ってた手紙に書いてあったから」
僕は自分でラブレターと言うのが恥ずかしくなって思わず手紙といってしまった。
「えっ!? それって見せてもらうことできる」
「別にいいけど・・・・・・」
僕はポケットにしまってあった手紙を取り出す。
「これだけど」
橘さんに見せると顔がどんどん青白くなっていく。
どうしたんだろう。今になって恥ずかしさが込み上げてきたのかな。見た目がギャルぽっくても心がピュアなのかな。何か橘さんを見てると落ち着いてきた。これなら告白に返事できそうだ。いつでもこいっと持っているが橘さんは俯いたままなかなか声を発さない。
「・・・・・・どうしよう、間違えた」
橘さんがなんかブツブツ言っているが声が小さくて聞き取れない。
「どうかしたの。橘さん?」
僕の声にハッとしたように顔を上げると手紙を強く握りしめて、今にも泣きそうな顔で、
「ご、ごめんなさい!」
橘さんは僕の横を走り抜けて校舎の方に消えてしまう。取り残された僕は訳がわからなくしばらく立ちすくしていた。この場面を見る人が見たら僕が告白して振られたとみるだろう。そう思ったらさっきの『ごめんなさい!』はやっぱ告白するのをやめるという意味だったのでは。そう思うと悲しくなってきた。
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