第4話 僕は人生初めてのラブレターに動揺する

 僕は上履きに履き替えるべく下駄箱から上履きをとったときだ。視界の端に何かがヒラヒラと落ちるのを捉えた。


「何か落ちたぞ、ほれ」


 一樹が渡してきたのを受け取ると、どうやら手紙のようだ。表に宛先のようなものは書かれていない。裏側を見ると❤のシールで封がされており、目線を下にずらすと我が目を疑った。何と『橘 明日香』と書かれているのだ。一樹が手元をのぞいてくる。


「やったじゃないか。それ、ラブレターだろ。このご時世でも手紙にしたためるんだから、そんだけ彼女は本気なのかもな」


 僕はあまりの出来事で一瞬固まってしまったが直ぐに我に返ってそんなはずないと一樹に言う。


「いやいやいや、僕がラブレター貰うわけないよ。それに宛名だって書いてないし、もしかしたら入れる下駄箱を間違えてるかもしれないじゃないか! 僕の隣は一樹の下駄箱なんだしその可能性があると思うんだ!」


 僕が早口でまくし立てると呆れた顔で一樹が言う。


「どんだけ自分に自信ないんだよ。心配しなくても俺から見ても翔琉はモテるよ。俺が保証してやる。それに、ラブレターを下駄箱に入れるのに違うところに入れるドジかますと思うか。そんなこと起きるのはフィクションの中だけだって。普通入れる前に名前ぐらい確認して慎重に入れるだろ。それでも間違えて入れてたら俺だったら恥ずかしすぎて一か月は学校休むね」

「で、でも、まだラブレターと決まったわけじゃ・・・・・・」

「なら中見てみろって」


 僕はとりあえず手紙を上に掲げて蛍光灯に照らしてすかして手紙が入ってるか確認した。


「おい、さっさと開けろって!」

「・・・・・・分かったよ」


 僕は諦めて一樹に言われるままに封を切った。中には一枚の紙が入っていて、一言書かれていた。


『今日の放課後、体育館裏の桜の木の下に来てください。お伝えしたいことがあります』


「やっぱり、ラブレターじゃないか。しかも桜の木の下って。たしか、体育館裏の桜の木の下で告白したカップルは結ばれるって噂があったな」


 僕は今までラブレターを貰ったり告白されたことなんて一度もなくあまりの出来事に一樹が何か言ってるか耳に入ってこない。


「でも、これでしっくりしたな」

「な、何が?」

「いや、橘さん、大宮に着くなりすぐに走り出していなくなっただろう。あれはこのラブレターを入れるためだったんだな。同じ車両に翔琉がいて焦ってたんじゃないか。どうしても今日、告白したかったんだな」

「そ、そうだね」


 僕は今日告白されるかもしれないという緊張感で手と足が同時に出てぎこちなくなる。


「おいおい、ロボットみたいな動きになってるぞ。今から緊張してたってしょうがないぞ。それにお前は告白するんじゃなくてされる方なんだからどっしり構えてたらいいんだよ」

「そういわれても緊張しちゃうんだからしょうがないじゃないか」

「ま、恋愛を楽しめ! 俺から言えることはこれぐらいだな。それにしても翔琉に彼女が出来たら遊ぶ時間なくなるな。ああいってしまった手前、俺も彼女作るとするかな」


 そう言いながら一樹は教室に向かう。僕は慌てて手紙をバックに入れると一樹の後を追うのだった。


 ちなみに、偶然通りかかった一樹のファンクラブが一樹の『彼女作ろうとするかな』という声を聞き、ファンクラブ内で骨肉の争いが勃発しようとしていた。

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