第四章:残酷な神が支配する
(1)
「しつこいな、君も……わざわざ、九州まで……」
韓国での撮影が終り、日本に戻って来た直後も直後、北九州空港で、あの男と
奴は、東京から飛行機の格安便で来たらしいが……よりにもよって、俺も奴も、たまたま、到着時間が近い便で……しかも、北九州空港は、国際線と国内線の到着ロビーが同じだったのだ。
結局、翌日、門司の海が見えるお洒落な感じのカフェで取材を受ける羽目になった。
「お洒落な感じ」とは、七〇過ぎの俺と、中年のチンピラにしか見えないコイツの2人連れでは、周囲から浮きまくっているような場所、と云う意味だ。
「今は、例の伝染病のせいで、下火になってますけど……ここ何年か、外国の古いレコードを集めてるミュージシャンが、相当数、居まして」
「何の話だ?」
「欧米や中国・韓国のミュージシャンが、日本に来て、昔の歌謡曲のレコードを買っていったり、逆に、日本のミュージシャンが東南アジアに、現地の昔の歌のレコードを買いに行く、なんて事が良く有るんですよ」
「だから、何の事だ?」
「で、知り合いのミュージシャンが、タイの昔のレコードを収拾しに、タイの
そう言って、奴が俺に見せたスマホの画面に表示されていたのは……古い白黒写真を取り込んだものらしい画像。
3人の男性と2人の女性。
男の1人は羽織袴だが……日本人離れした魁偉な容貌。……知っている……この男は……伝説の……。
残りの2人の男は背広姿で共に二〇代から三〇代ぐらいの見た目。……内1人はアジア系なのは確かだが、日本人の平均よりも彫りが深い。
女の片方は和服で中年ぐらい、もう1人は……チマチョゴリを着ていて、二〇代ぐらい。
「……牛島辰熊……」
「ええ。タイのある中古レコード屋の店主の祖父か曾祖父の兄弟に、戦前に日本に留学して、伝説の柔道家・牛島辰熊の元で柔道を学んでいた人物が居たらしんですよ。で、これは、その中古レコード屋の親類が日本から送ってきたものらしいんです。サブカル好きの中には格闘技マニアを兼ねてるのも多いんで、たまたま出たその話を根掘り葉掘り訊いたら……この写真を見せてもらったそうです」
「なるほど……で、この写真が俺と何の関係が有るんだ?」
「どうも、このタイ人は……戦後も日本に居て、牛島辰熊と親しかったある空手家の妹と結婚したと……」
そうか……まさか……こいつが俺に取材を申し込んできたのは……「鬼面ソルジャーズ」の撮影初期に起きた事故を調べてた訳じゃないらしい……。
こいつが書いてた本の中には……
俺が主演した番組がTV放送されてた頃の更に前の話なので、今では忘れ去られているが……俺は物心付いていたから覚えている。
「このタイの人は……ひょっとして……タイに居た頃は、ムエタイの選手だったのか?」
「ええ……近代ムエタイ初期の歴史の中で……結構な重要人物です。そして……この写真のもう1人の男性は……」
俺が、その人物に初めて会った時……その人は、かなりの高齢だった。
だが、言われてみれば……面影は有った。
ヤツが口にしたのは……金藤の母方の伯父の名前だった。
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