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 俺がTVに出ていた頃は、フィルム撮影が当り前だったせいで、撮影した映像を見るには、まずはフィルムを現像しなければならない。

 そのせいで、編集前の映像チェックさえ撮影の翌日になる事は良く有った。

 しかし、現像と云う手間が要らない今の時代は全てが変っている。

 ……朝撮った映像が、昼過ぎには仮編集まで終っていた。

 撮影監督やカメラマンは、ノートPCを現場に持ち込むのが当り前になっていた。それも映像編集向けの高性能なものらしく、喫茶店などでビジネスマンが使っているような薄型の機種ではなく、ノートPCにしては、かなりゴツい外見の代物だ。

 そして、仮編集済みの映像を観ながら、例の「出資者」と監督が何かを話している。

 英語のようだが……。

「何を話してるんだ?」

 英語と日本語の両方が出来るスタッフに訊いてみた。

「作品コンセプトに関する質問みたいですね」

「と言うと……?」

「監督の前作の『チタニウム・ブレイブ』のテーマが『正義とは、悪を倒す事ではなく、助けを求めている人に手を差し延べる事』ってテーマでしたので……」

 アメコミ映画は、ほとんど観ないので、「鬼面ソルジャーズ」リメイク版の撮影が決ってから、監督の前作を観に慌てて映画館に行った。

 どうやら、かなりの作品数が有るシリーズものの1つで……自作の強化服で「正義の味方」となった天才科学者の跡を継いだ女性の話だった。

 前の主人公である「チタニウム・ナイト」が大きな戦いで命を落した後、その「チタニウム・ナイト」に変身する天才科学者が創業した会社に研修生インターンとして入った大学院生のインド系の女性が、人命救助用強化服の試作型を開発し、新しいヒーローとなるまでの物語だった。

 変身ヒーローを演じた事が有るのに、その後、その手のTV番組や映画をほとんど観ていないので、俺にとっては斬新でも、今では当り前かも知れない。

 でも、今にして思えば……俺の時代に、何故、この発想が浮かばなかったのか? と云う疑問が出るのも仕方ない。

 町1つ滅ぼせるほどの「悪」「怪人」が居るなら……その「悪」「怪人」を倒すのと同じ位重要な事は……「悪」「怪人」がもたらす被害から人々を救助し逃がす事。

 もし、俺が主演した「鬼面ソルジャーズ」に出て来たような「悪」が本当に存在するとしたら……「悪を倒すヒーロー」と「人命救助を行なうヒーロー」は2つ1組でなければ意味が無い。

 監督の前作の主人公は「悪を倒すヒーロー」ではなく、「人命救助を行なうヒーロー」だった。

「それで……出資者は、今回の映画と前作のコンセプトの違いについて訊いてるようです」

「どう云う事だ?」

「前作は『正義とは人の命を護る事』。今作は『正義とは人の自由を護る事』。で、出資者は……『自由と安全を天秤はかりにかけねばならないなら、貴方は、どちらをより優先すべきと考えているのか?』と訊いてるようです」

 そうか……言われてみれば、そうだ……。

 「鬼面ソルジャーズ」の「悪」である「護国攘神団」は……数十万人の安全を確保出来るなら、数万の命を犠牲する事もやむなし、全世界の安全が保証出来るなら、たった1つの国ぐらい滅ぼそうと問題無し、と考える者達。そして、主人公は、その考えに異を唱える者だった。

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