(12)

「お姉さん達も、コンビニで買ってきたヤツじゃなくて、こっちの食事にすればいいのに……」

 ヒロイン役の眞木まきほのかが、近くの席で、あの「出資者の1人」と……もう1人、二十代後半ぐらいの眼鏡に男もののスーツの女性に、そう言っていた。

「気が進まん。頑張っているスタッフや出演者の為のモノを横取りするような真似は……」

 「台湾のベンチャー企業の創業者」なのに、何故か綺麗な日本語だった。

「でも、ベジタリアンじゃなかった? いいの、肉が入ったサンドイッチ食べて? こっちならベジタリアン用のメニューも有るよ」

「健康目的でのベジタリアンだ。肉を少しでも食べた奴らは残らず地獄に堕とすような心の狭い神様を信仰してる訳じゃない。少しぐらい肉を食っても、後で他に何か健康にいい事をすればいいだけだ」

 その時、3人の女性が居るテーブルの上に有る変なモノが目に入った。

「それは……何……ですか?」

 俺が指差したモノ……それは……2本のケーブル。

 1つは暗い青。もう1つはピンクと赤の中間ぐらいの明るい色。

 長さは……共に十数㎝。

「この現場で『アニマトロニクス・ドロイド』と呼ばれている撮影用のロボットに使われている人工筋肉だ。今、彼女に説明していた」

 そう言って「出資者」は、まず赤っぽい色の方を手にした。

「御存知だと思うが……人間の筋肉は力を入れると縮む性質が有る。それを再現したのが、この赤い方だ。通電すると縮む性質を持つ新素材で出来ている」

「では、青い方は?」

「ウチの会社の技術者達は……筋肉が基本的に『縮む』事しか出来ないのを非効率だと考えた。例えば……体の使い方が巧く無い者が『力を入れているつもり』で誰かを殴っても……遅くて威力の無いパンチになってしまう事は良く有る」

 たしかに……そうだ。

 だからこそ……。

「私も多少は武術やスポーツをやっているが……例えば、多くの武術やスポーツで謂う『脱力』は人間の筋肉が持つ制約から生まれたノウハウだろう。『筋肉に力を入れようとすればするほど、関節を延ばす動きの効率が落ちてしまう』と云う人体の制約を回避するには『体から力を抜く事をイメージする』と云うのは、中々、効率的・合理的な発想だと思う」

 言っている言葉の意味は判る……だが……。

 何故、その「人工筋肉」とやらが2種類有るのだ?

「この青いのは……人間の筋肉とは逆の動きをするもの……。通電により延びる性質を持っている」

 なるほど……発想は理解出来る……が……。

 話は、そんな単純なモノなのか?

 人間のモノより効率が良い人工筋肉を作っても……それから構成されるモノは「人体より効率的かも知れないが、あくまで人体とは別のシステム」「人間とは別の何か」であって、「人間の動きを模倣する事に長けた何か」に、本当に成るのだろうか?

「だが、当然、問題が生じた。人間の筋肉より効率的かも知れないが、性質が違うモノで、人間を模倣しようとしても、巧くいくとは限らない」

「じゃあ、どうしたの?」

 眞木洸は、そう訊き返した。

「そこにウチの会社の収益の秘密が有る」

「へっ? 今まで技術の話だったのに、急にお金の話?」

「ウチの会社が取ってる特許は……この人工筋肉だけじゃない。人間の動きを……この人工筋肉を使って作られたロボット用の動きに巧く変換する為の……計算式やアルゴリズムだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る