(3)
「前田さん、すごく良い演技でしたけど、ちょっと役に入り込み過ぎてませんでした?」
通訳が主演俳優にそう告げた。
この現場では、出演者を役名で呼ぶケースと、芸名や本名で呼ぶケースとが有る。
前者は通常の演技中、後者は「演技」「役」を
「あ、すいません」
どうやら、アメリカでは、いわゆるメソッド演技……例えば役に合わせて、ダイエットや筋トレをやったり、逆に、わざと太ったり、内面に関しても「この人物なら、この場合どうするか?」を架空の人物であっても完全に
役と自分が区別が無くなりかけてた当時の俺に比べて、何か
「じゃあ、そろそろ、昼食休憩にします」
そして、食事は弁当ではなくケータリング。「
「なぁ、前田君さぁ……今の撮影現場って、どこも、こんな感じなのか?」
俺は主演俳優の前田喬介に、そう尋ねてみた。
「いや……めずらしいですけど……でも、例の伝染病以降に、日本の映画監督でも実験的に、撮影現場をこんな感じにした人が居ましたね」
「それで、撮影の予定を超過したりはしなかったの?」
「でも、余裕が有る方が、仕事もはかどったし、スタッフさんなんかも、次々と良いアイデアが出たりするみたいでしたね……。結局、予定より早めに撮り終えましたよ」
またしても、かつての嫌な思い出が蘇える。
俺の親友が死んだ事故は……あの地獄のようなスケジュールが原因では無いのか?
TVや映画への出演をやめ、仕事の場を舞台に移し、そして裏方に回り……気付いた時には工場勤めなら安全管理責任者になれるほど、事故防止に役立ちそうな資格を取っていた。
事故を防ぐ基本は……「事故が起きにくい状況・環境を用意する事」。
もし可能ならば……あの日に戻り……あいつの命を救いたい……が……。
可能な筈は無い。
過去は変えられない。
結局、俺は死ぬまで過去を引きずり続けるしか無いのだろう。
せいぜい、残り十年か二十年の人生だろうが……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます