(2)

 スタッフ・ルームではヴァーチャル・リアリティ用の機器を身に付けた複数の「カメラマン」がドローンを操作していた。

 何台もの大型モニターにはドローンのカメラが撮影した光景が映し出されている。

 撮影が終わり次第、複数のカメラによって撮影された映像を繋ぎ合せて仮編集が行なわれる。

 言葉で説明すれば、戦場のような忙しさに聞こえるが……ほとんどのスタッフ・出演者は残業は週1回有れば多い方だ。

 そして、日本の映画では……例えば仕事が終って飲みに行くにしても、俳優部・撮影部・照明部・美術部などの各チームごとになる事が多いが、ここでは、違う仕事をやっているスタッフの間でも、積極的に意見交換が行なわれているようだった。

 「ようだった」と云うのは……俺が英語がよく判らないので、違う仕事を担当している人達の間でも、何かを話し合っているようだが、言っている内容までは理解出来ないので、推測混りになってしまうせいだ。

 廃墟の町はセット。

 背景は巨大なLEDモニター。

 その中で……何人もの異形の戦士が戦いを繰り広げる。

 着ぐるみを着ているようには見えない動きだ。

 それは、そうだ。

 着ぐるみを着ている人間ではなく、半自動式のロボットなのだから。

 十人以上の敵を斬り伏せた軍刀は刃毀れし……ついに折れ曲る。

「言い残す事は有るか?」

 「鬼面ソルジャーズ」と並ぶ、小野寺正一郎先生の代表作「サイバノイド13サーティーン」の十三人のサイバノイド戦士達をモチーフにした、この場面でのかたき役達のリーダー格であり、最後の1人である「烈火龍鬼」が、そう言った。

 だが、鬼面ソルジャー1号鬼は、答える事なく軍刀を捨て、「来い」と云うゼスチャーを行なう。

「そうか……」

 烈火龍鬼は予備動作なしに急加速し……。

 しかし……鬼面ソルジャー1号鬼のセンサーは、その姿と音を捕捉とらえていた……と言っても、編集後に、ここで、「センサーが感知した高速移動する烈火龍鬼」をイメージする映像を入れるのだが……。

 鬼面ソルジャー1号鬼は、烈火龍鬼の攻撃をギリギリで見切り……カウンターで胸にパンチを入れる。

「ぐはッ⁉」

「人類の守護者を詐称する悪鬼どもよ……思い知るがいい、貴様らが怒りの鬼神に変えし者の恨みを……」

 蹌踉よろめく烈火龍鬼に投げ掛ける言葉は……異様に冷静だった。

「思い出すがいい……お前達が踏みにじってきた人々の尊厳を……」

 そして……とどめのの廻し蹴りが叩き込まれる。

「我が名は……」

 鬼面ソルジャー1号鬼の構えが変る。

 日本の武道で「残心」と呼ばれる……攻撃を終えた後に、もし敵が次の攻撃を行なった時に備える構えだ。

「鬼面ソルジャー

 リメイク版の撮影を見ていると……五〇年前の光景と思いが胸に蘇る……。

 俺が演じた鬼面ソルジャー1号鬼は……いつか倒れ伏すその時まで、自分は……自分を組織から逃す為に命を落した名も知らぬ男と一心同体の2人で1人の戦士だ、と云う意味で……。

 演じていた俺自身は……目の前で事故死し……そして、居なかった事にされた親友と共に有ると云う思いを込めて……。

 だが……。

 俺は……。

 俺の今日までの人生は……。

 本当に、あの日の俺自身を裏切らなかったと言えるのだろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る