第三章:自由と平和の護り手

(1)

「奴らは……確かに人類の護り手だ。しかし……百人を救う為ならば……平気で九十九人を見捨てる」

 鬼面ソルジャーゼロ号鬼の体は爆風で傷付き……そして、町は廃墟と化していた。

 古来より神とも魔とも鬼とも呼ばれてきた規格外の超能力者の1人は、自分を危険視する「人類の護り手」より逃れる最も効率的な方法を選んだ。

 それは、大都市に住み、平凡な普通の人間として暮していく事。

 たった1人で一瞬にして町1つを破壊出来るほどの規格外の超能力者であっても、そいつが人里離れた所に入れば……対抗手段はいくらでも有る。

 だが、一瞬にして町1つを破壊出来る者が……町中に潜んでいたならば、どうやって倒すか?

 ほんのわずかなミスやアクシデントで数万の命が奪われる。

 だが……「人類の護り手」を称する「護国攘神団」は、簡単過ぎる解決方法を見出した。

 これから数十万・数百万の人間を殺す者を葬る為の犠牲が数万で済むなら……安いものだ……と。

 この「テロ」の罪を被せられて死刑になる不幸な過激派や政治活動家まで含めても……あの化物が、これから殺す人数に比べれば、死者数の桁は1つ以上小さい。

 自分を冷酷だが現実主義者だと思い込んでいる者は……往々にして単純で安易な手を選ぶ。

 自分が理性的だと思い上がっている者こそが……考える事をやめ、後々に禍根を残す手段を合理的だと勘違いする。

「しっかりしろ」

「俺は……もう駄目だ。だから……お前がやってくれ……。奴らを倒せなくともいい。奴らが『人類守護』の名の元に踏み躙る人々を……1人でも多く救え……」

 その時……1つの亡骸なきがらを抱きしめている1人の戦士の周囲を異形の者達が取り囲む。

 鬼攻兵士……「護国攘神団」が生み出した改造兵士達だ。

 鬼とは神に似て非なる神の敵対者。

 神と呼ばれた人類の脅威に立向う戦士達は、いつしか「鬼」を名乗るようになっていった。

「戻れ。安っぽい感傷に囚われるな」

「奴は……所詮は不適合者。お前の試作品に過ぎん」

「我が組織は、お前に神にも立ち向かえる力を与えた。人類の守護者として、我々と共に人類に対する脅威と戦うのだ」

「神は天に居て人間を見守っていればいい。神を名乗る者が、人間の世界を我が物顔で歩き回った結果が……これだ」

「お前の運命に従え。お前の義務を受け入れろ。護国攘神団に戻り、人類守護の刃となれ」

 鬼面ソルジャー1号鬼は、ゆっくりと立ち上がる……。

 そして……。

 軍刀の鯉口が切られたのを見て、鬼攻兵士達に緊張が走る。

「笑わせるな」

「何⁉」

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