(4)

「まさかさ……これを映画の撮影に使ったの?」

 吉村はロボットを見てそう訊いた。

「はい、空を飛ぶシーンなどはCGですが、それ以外のアクションシーンは、基本的に、大型のLEDモニターに背景を写して、この『アニマトロニクス・ドロイド』と呼ばれるロボットを使って撮影しています」

「1つのレンタル料はどれ位だ?」

「おい、どうしたんだよ、タケちゃん?」

「いや、舞台で使えないかと思ってさ……」

「それでしたら……」

 返ってきた答は……ウチの劇団では到底支払えないような金額だった。

「しかし……特撮と言えばCGの時代になっちまった、と思ってたら……」

「CGの技術も流用されているそうです。この『アニマトロニクス・ドロイド』に人間の動きを取り込む際は、モーション・キャプチャー用に開発された技術やソフトウェアも使われている、と」

 吉村の感想に対して、通訳はそう説明した。

「ですが、例えば……あ、ちょっと鬼面ソルジャーから離れて下さい」

 通訳がそう言った瞬間……。

 轟……。

 旋風が起きた。

 鬼面ソルジャーの得意技である廻し蹴り「鬼龍トルネード」が放たれる。

「このように、一度取り込んだ動きをそのまま実行するのではなく、ある程度の応用も効きます」

「応用?」

「例えば、今の廻し蹴りでしたら、床や地面の状態が少々違ってもバランスを崩さずに廻し蹴りを放てます」

「へえ……どうやってんだ?」

「簡単に言えばAIによる補正です」

「なるほど……」

「あと、相手に本当に当てるのと、寸止めの使い分けも出来ます。と言っても……安全上の理由から人間との近接アクションは、まだ行なわれていませんが……」

「でもさ……これ、どう考えてもCGより予算かからないか?」

 俺は説明を聞いた後、当然の疑問を口にした。

 通訳が、俺の言った事を監督に伝えた瞬間……監督の目に子供のような輝きが宿り、続いて身振り手振りを交えて何かを早口で説明し始めた。

 今、気付いたが……英語じゃない。

「監督は……特撮の撮影についての映画界全体の風潮を変えたい、と言っています」

「へっ?」

「監督によれば……監督が子供の頃……一九八〇年代には、特撮映画のファンにとって、特撮スタッフも監督や俳優と並ぶスターだったと……」

 ああ……そうだ。

 確かに、そう云う時代も有った。

「監督が子供の頃、映画の主演俳優や監督の名前と同じく、特撮スタッフの名前も広く知られていて……ファンは、その名前を覚えていたものだった……と。しかし、CG全盛の時代になって、状況は一変した……そう言っています」

「これが……それを変える事が出来るもの……なのか?」

「はい……CG全盛の時代になって特撮は『工業製品』になりました。工業製品であれば、設計者も生産ラインの人員も……誰も名前を知らない。そんな状況を変える試みの1つがこれだそうです」

 いや……待て……これも「工業製品」じゃないのか?

「CGじゃなくてもそうです。カーアクションの中には、ほんの少しのミスが大事故を引き起しかねない状況で撮影されたものも、未だに沢山有る。でも……そんな難しい撮影を無事故で成功させた人達の名前を誰も知らず……誰も尊敬リスペクトしていない。その状況を変えないと……特撮に未来は無い。監督は……そう言っています」

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