(3)

「あれ? タケちゃんも来たの? めずらしいね」

 俺にそう声をかけたのは……吉村弘明。

 六〇年代末の特撮番組「アルティマ・ネクサス」の主演俳優だった。

「劇団から頼まれてさ……」

「しかし、良く出来てるね、これ……」

 案内された場所に有ったのは……。

 金と銀の体に仏像を思わせる顔の超人……吉村が演じた「アルティマ・ネクサス」。

 兵器にして鬼と云うべき姿の改造人間……俺が演じた「鬼面ソルジャー1号鬼」。

 体の各部に格闘用の棘が有る以外は、兵器にも怪人にも程遠い作業用ロボットに見える無骨な灰色の鎧……「鬼面ソルジャー」の最強の敵である「護国軍鬼・量産試作鬼」。

 そして……人命救助の象徴である鮮かなオレンジ色に塗られた鎧。

 これが、もうすぐ公開されるアメコミ映画「チタニウム・ブレイブ」の主人公らしい。

 4つとも等身大だ。

「はじめまして」

 その時、外人訛の挨拶の声。

 恰幅のいい大男。

 白人……と言いたい所だが……複数の人種の血が混っているようにも見える風貌だった。

 モジャモジャとした髭をたくわえているが、五十を超えているであろう顔は子供のように純真そうに見える。

「リカルド・ディアス・ロドリゲス監督です」

 横には通訳らしき三十前後の男。

「監督は吉村さんと五十嵐さんに会えて光栄だと言っています」

「は……はぁ……」

「タケちゃん、もう少し嬉しそうな顔しなよ」

「いや……芝居は下手なんで……」

「では、監督からお二人にサプライズが有るそうです。念の為に、そのから距離を取って下さい」

「えっ?」

 俺と吉村は同時に声をあげた。

 おい……まさか……これ……人形じゃなくて……。

 そして……。

 音もなくとは、この事だ。

 床に足が付く時の音すら……ほぼしない。

 アルティマ・ネクサスは……あのポーズを取る……。有名な必殺の光線を放つ時の……。

 そして……。

「あの……どうしました?」

「い……いや……何でもない……大丈夫だ」

 多分……俺の顔は真っ青になっているのだろう。

 まだ二十代だったあの頃……戦場のように忙しかった撮影が終った後になって……まるでアメリカのベトナム帰還兵のように……。

 だから……嫌だったんだ。

 目の前で死んでしまった親友の事を、どうしても思い出してしまう。

 かつて、俺が演じた「ヒーロー」を模した「ロボット」は……あの必殺技を放つ直前のポーズを取っていた。

 ……鬼龍トルネード……。

 「鬼面ソルジャーズ」の撮影初期に事故死した……まだ番組タイトルが「鬼面ソルジャー」だった頃に本来の主役になる筈だった俺の親友の得意技だった廻し蹴りを元にした必殺技の構え……。

 「鬼面ソルジャーズ」の主人公は空手の有段者だと云う設定だった。

 しかし……格闘技に詳しい者が見れば、確かに判るだろう。

 その構えは……空手のものじゃない。

 あいつの片親は在日韓国人だったが……テコンドーの構えでもない。

 中国拳法の事は詳しい訳じゃないが……カンフー映画でも見た覚えがない。

「これ……中に人が入ってる訳じゃないんだよね?」

 その時、吉村が通訳にそう質問した。

「はい。中は機械です。ただ、通常のモーターじゃなくて、人間の筋肉を模倣した特殊素材で動かしているので、音はほとんどしません」

「へえ……よくバランスが取れるね……」

 吉村は、左足を上げ、右足1本で爪先立ちしている鬼面ソルジャー1号鬼を見ながら、そう呟いた。

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