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『すいません、五十嵐さん。どうしても出ていただきたいイベントが有って……』

 6畳1間の安アパートの自宅に戻ると、所属している劇団の事務から電話がかかってきた。

「あの……『鬼面ソルジャーズ』関係のイベントなら嫌ですよ」

 芸能関係の仕事をやって五十年以上。

 事務所や劇団は何回か変わったが……この事だけは言い続けてきた。

『いや……外国の映画のプロモーションに出ていただきたくて……』

「何で、俺なんですか?」

『監督が……昔の日本の特撮のファンで……』

 しかし、どの事務所も聞く耳は持ってくれなかった。

「やっぱり、『鬼面ソルジャーズ』関係じゃないですか」

 いつもこうなる。

『で……でも……あの……プロモーションには出なくてもいいので……監督が是非会いたいと』

「何が、どうなってるか知りませんけど……断わって下さい」

『い……いや……でも、今の舞台が終った後ですので……せめて……』

 どうしても嫌だ。話は終りだ。電話はこれで切る。

 そう言って話を終りに出来る性格なら、俺の人生はどんなに楽だっただろう。

 1時間近くに渡る電話の結果、俺は、その外国の映画の監督に会うだけは会うと承諾してしまった。

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