第22話 捜索、ダンポ

結局、日が落ちて月が登り始めてもダンポを見つけることは出来なかった。


「完全に撒かれたわね。アーリン、とりあえず明日また探しましょう。」


一休の言葉を聞いたアーリン


「で、でもそれじゃあダンポさんが危険な目に会うんじゃ…?」


と問い返す。

その言葉を聞いた一休は頭をかきながら言う。


「まあ、多分大丈夫でしょう。」


アーリンは声音に若干の怒気をはらみながら、少し強い口調で一休に言う。


「なんでそんなこと言えるの!一休ちゃんはダンポさんが心配じゃないの!?」


しかし、一休はその問いかけに対してこう答える。


「ええ、全く心配していないわ。アーリン、あなたは私達が1年前八岐大蛇と戦った時のことを覚えているかしら?」

「うん。でも私はあの時は足でまといだったから、そんなに詳しくは知らないんだけどね。」

「そうだったわね。それなら教えてあげるわ。アーリン、あの八岐大蛇はとても強い。正直全力の私でも攻撃を1発食らっただけでも致命傷になりかねないわ。」


アーリンはここ1年間の旅を通して妖界についての見聞を広め、一休の通常時での強さをある程度分かっている。そのことから、一休が妖界でも屈指の実力者であることも承知していた。しかし、一休に匹敵する実力者と一休が戦うことは殆どない為、アーリンは未だに一休が全力を出しているのは見たことが無かった。


「え!?そんなに強かったの!?」

「ええ。そして私が八岐大蛇と戦っている間に、ずっと私の事を文字通り身体を張って護ってくれてたのもダンポよ。これが何を意味するか、分かるかしら?」


そう問いかける一休に対し、少し考えた様子のアーリンだったがすぐに答える。


「…ダンポさんは守る力に関しては全力の一休ちゃんのはるか上を行く。って事だよね?」


自尊心を傷つけられたのか、少しムッとした顔で答える一休。


「ま、まあそういう事よ。だから、心配しなくても大丈夫。それにここだと少し危ないから使わないけれど、一応奥の手もあるのよ。」

「奥の手?」

「ええ。明日には使えると思うからとりあえず今日は寝ましょう。」

「うーん…。」

「しょうがないわね。追獣召喚!追獣、ダンポを夜の間探しておきなさい。これで良いわよね?」


術を唱え追獣を放つ一休。


「うん、ごめんね。我儘言って」

「良いわよ。別に。」


そうして、簡単に結界を張ってその場で寝ることにした一休達。



夜が明け、次の日の朝。いつも通りアーリンに起こされる一休。


「一休ちゃん、起きて。」

「うーん。あと500年。」

「いや、長すぎでしょ…。追獣さん帰ってきたよ。」

「追獣?あぁ、そうだったわね。で、どうだったのかしら?」

「キュウ…。」


追獣はうなだれながら首を横に振る。


「まあ、しょうがないわね。お疲れ様。帰っていいわよ。」

「キュウ。」


追獣は空気に溶け込むようにして消えていった。


「さて、じゃあ昨日言った奥の手を使うとしますか。1度、世捨街の外に出るわよ。」


そう言って世捨街からかなり離れたところまで歩いて来た一休とアーリン。


「いまからなにをするの?」

「ダンポを召喚するわ。」

「召喚?でもそれなら世捨街でも良くない?」

「ええ、普通の召喚ならね。今からするのは特殊な召喚よ。私の全妖力を使ってダンポを強化と巨大化させた状態でダンポがどんな状況であろうと召喚するわ。」

「そっか。世捨街だと治安が悪いから、妖力が尽きた状態だと襲われかねないし、巨大化は目立つもんね。」

「そういうことよ。じゃあ初めますか。」


そう言って一休は集中し妖力を練り始める。

だんだんと青いもやが一休の周囲を漂い始める。


「守護獣召喚!」


一休が術を唱えると空間が歪み初め、やがて穴が空く。しばらく待つが何も出てこない。それを見た一休がそこに手を入れ何かを掴むようにして自分の方に引き寄せようとする。


「くっ。ぁああ゛あぁああ!」


叫びながら全力で掴み取ろうとするが、やはり何も持ってくることは出来ない。

そうして、力を使い果たしてしまったのか一休は倒れ込む。

一休が倒れ込むと同時に穴は消えてしまった。そこにアーリンが駆け寄ってくる。


「一休ちゃん!大丈夫!?」

「ごめんなさいアーリン。あれだけ自信満々に言っておきながら召喚できなかったわ。」

「そっか…。でもどうして召喚出来なかったんだろう?」

「今、召喚しようとしてみて穴が空いた時点で何も出てこなかったでしょう?その時点で本来有り得ない筈なの。それであの穴の中から直接持って来ようと思ったのだけれど、そしたら岩に阻まれたわ。」

「岩?」

「そう、でも本来この術はダンポだけを直接引き寄せる。だから岩に阻まれるなんてことは有り得ない筈なの。もしかしたら私を上回る妖術使いが、ダンポを監禁しているか、未知の術の使い手の可能性が有るわね。」

「一休ちゃん以上の強さって…。」

「まあ…心配しても…しょうが…ない…。」


そういうと一休は静かに寝息をたてて寝始めた。


「あれ?一休ちゃん?……一休ちゃん寝ちゃった?まあ全妖力使うって言ってたし、消耗も激しいよね。ダンポさんがいない今は私が守ってるから、ゆっくり休んでね。」


そうしてダンポは見つからないまま、緩やかにだが確実に時間は過ぎていく。

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