第20話 出立
「一休ちゃん、そろそろ起きて。」
朝エプロン姿のアーリンにゆり起こされる一休。
一休は少し眠そうに目を擦って伸びをする。
「んぅー。おはようアーリン。」
「おはよう、一休ちゃん。もう朝ごはんできてるよ。」
「あら、そうなの?私も手伝った方が良かったわよね?」
「一休ちゃんは病み上がり?なんだから無理しなくていいよ。」
「ふふ、じゃあお言葉に甘えておきます。」
そう軽口を叩きながら、食卓の方へと移動する一休とアーリン。
食事を置いて、既に机を囲む様に座っているゴウダイ、リーペ、ダンポ。ダンポは子供用のものなのか少し高めの椅子に座っている。
「おう、嬢ちゃんおはよう!いや、おそようかな?」
「一休、身体は大丈夫かのう?」
「私が直したのよ?私の腕を疑うというの?」
ダンポは慌てて謝る。
「す、すまんすまん。」
それを見ていたゴウダイが言う。
「ほら、嬢ちゃん達も座って。朝飯食べようぜ?」
ガタガタと椅子を鳴らして座る一休達。
全員座り終えたことを確認してゴウダイが音頭を取る。
「それじゃあ皆様手を合わせて、嬢ちゃんの回復を祝ってせーのっ、」
「「「「「いただきます!」」」」」
朝飯は白飯に、青い皮をした焼き魚だった。
「これがサカナですか、飴水堂に来た人から聞いたことはありましたけど、実際に食べるのは初めてです!」
「お、蟻の嬢ちゃんは魚を食べるのは初めてか。魚は美味いぞぉ!」
そう言ってゴウダイが魚を勧めてくる。
勧められるがままに箸を使い口へと魚を運ぶアーリン。
「…!美味しい!」
アーリンは目を見開き、その味を賞賛する。
一休もそれを見て魚を口へと運ぶ。
「確かに美味しいわね。私が食べたことのある魚の中でも1,2を争う程の味よ。」
それを聞いてゴウダイが自慢げに言う。
「そりゃあそうだろうな。ここの魚はいつも採れたてだから他の所の魚とは鮮度が違う。」
「なるほどね。アーリン、多分この後これだけの味の魚を食べれることはほぼ無いでしょうから、沢山食べておきなさい。」
「…(モギュモギュ。)」
口いっぱいに魚を入れて無言で頷くアーリン。
ゴウダイはそれを見て豪快に笑う。その後、ダンポが喉を詰まらせたりと多少の騒ぎはあったものの、一同は暫く楽しい時間を過ごしていった。
とはいえ、楽しい時間というのはすぐに終わってしまうもので、あっという間に旅立ちの時間が来てしまった。
ゴウダイの船で運ばれ水戯郷に存在する東西南北の4つの門のうちの北門に到着する。
「ゴウダイさん、そしてリーペさん。一休ちゃんのことを治してくれたり、ご飯もご馳走してもらったり、本当にありがとうございました。」
アーリンが頭を深々と下げ、礼をする。
「対価は貰ったわ。感謝の必要は無いわよ。」
「また、いつでも遊びに来てくれ。その時はまた美味しい魚をご馳走するぞ。」
リーペは思い出した様に布包みを取り出す。
「危ない危ない、忘れてたわ。折角依頼を引き受けておいて申し訳ないのだけれど、この剣は私では直せなかったわ。お金は返すわ。」
そう言って、お金と一緒に布包みを渡してくる。それを受け取り一休は聞く。
「それはどうしてですか?」
リーペは少し落ち込んだような顔をする。
「私の力量不足と言ってしまえばそれまでだけれど、この剣は何故か妖術を受け付けないわ。私の術が効かないだけかとも思って、妖力を流したり、他の人の妖力も流してみたけれど、これは妖力自体を弾くわ。」
「そうだったんですか。まあ、治らなかったのはしょうが無いですね。」
「本当にごめんなさい。それで、ダンポさんから聞いて、貴方が闘ったという八岐大蛇?の素材を使って代用品を作ろうと思っていたのだけれど、そこでこの剣が地面に突き刺さっているのを見つけたわ。」
そう言ってリーペは、凄まじいながらも清冽な気配を放つ剣を渡してくる。
一休はそれを受け取り、独り言をつぶやく。
「これは…八握剣より明らかに上位の剣。八岐大蛇のいたところから…これを知って私に?…いや、だとしたら?」
アーリンが一休に問う。
「一休ちゃん?どうかしたの?」
そこで一休はハッと我に返る。
「いえ、なんでもないわ。アーリン。リーペさん、ありがとうございます。この剣はきっと役に立ちます。」
「そう、まあ気をつけなさいよ。その剣はきっととても強力。でも、それ故に色々厄介な事になるかもしれないわ。それと、もしまた怪我したら私の所に来なさい。金さえ払えば直してあげるわ。」
「はい。なるべく怪我しない様にはしますが、もしもの時はよろしくお願いします。アーリンそろそろ行くわよ。」
「うん!」
そうして世捨街への道を歩き出す一休とアーリン、そしてダンポ。
彼女達の旅路の果てにどんな事が待っているのか。それはまだ、誰も知らない。
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これにて第2章完結となります。
少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです
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この旅はまだまだ続きます!
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