第18話 修理屋リーペ

ダンポ達が戻ってくると一休の姿が消えていた。


「ありゃ?一休はどこに行ったんじゃ?さっきまでは確かにこのあたりにいたはずなんじゃが…。むむ?何じゃ?」


ダンポが見えない何かに足をぶつけると、光の粒子がふわふわとほどけ、倒れ伏した一休が姿を現した。2人は一休に駆け寄る。


「一休ちゃん!?」


「どうしたんじゃ!?一休!」


一休は何も答えずピクリとも動かない。


「治療をしなくちゃ…。」


「じゃが、どうやって…。あ、そういえば。」


「何かあるんですか?」


「一休の懐から笛を取り出すんじゃ!」


「あ、なるほど。」


アーリンは一休の懐を探り笛を見つけ、思いっきり吹く。


「お願い、早く来て!」


その願いが通じたのか、昨日今日と一休達を運んでくれたおっちゃんが現れる。


「おう!さっきすごい音がしたが、大丈夫だったか?次はどこまで連れて…?ってそこの別嬪な姉ちゃんどうしたんだ!?」


「今すぐこの街で1番の医者の所まで連れてって下さい!お金に糸目はつけません!」


凄まじい剣幕で詰寄るアーリン。さしものおっちゃんもその剣幕にたじたじだ。


「お、おう。よし、乗せな!」


一行は船に乗り、走り出す。

そうして着いたのは少し古ぼけた建物で、外壁には蔦がかなりの数巻きついている。

外には立て看板が置いてあり、『リペ屋、御用の方は修理室まで。』と書いてある。

おっちゃんは一休を抱き上げ、リペ屋の中へと運んでいく。その後を慌ててついて行くアーリンとダンポ。アーリンはおっちゃんに問いかける。


「ここにいるのはどんな方なんですか?」


「ああ、あいつは…少し気難しいが腕は確かだ。今までに治せなかった患者は1人しかいないしな。」


「1人…ですか。」


「ああ。10数年前ここに液人族の少年が来たんだが、その子は身体が他の液人族とは少し違くてな。」


それを聞いてダンポは聞く。



「どんなふうに違ったんじゃ?」


「ああ、そいつは…っと。」


おっちゃんが言いかけて、ある部屋の前で足を止める。

その部屋の扉の上には修理室と書かれた看板が付いている。

おっちゃんが扉を開けて


「急ぎの依頼だ!直してやってくれ!」


と言うと、床に布団1枚で寝転がっていた女が起き上がって言う。


「突然なに?今日は夜まで仕事の予定だったんじゃないの?」


「ああ、そうだったんだが。色々あってな、お休みだった所悪いが、この姉ちゃんを直してやってくれ。」


はぁ、と女は大きなため息を1つ。


「しょうがないわね。修理屋リーペの誇りにかけて、直せないとは言えないしね。ほらそこの修理台にさっさと乗せなさい。」


「おう!」


指示通りに一休を台に乗せるおっちゃん。

それを確認したリーペは術を発動する。


「生変物成


すると驚くべき事に、一休の身体が布のようになる。


「今回は布ね。あなた、そこの裁縫道具一式取ってちょうだい。」


「あいよ!」


おっちゃんが裁縫道具を手渡す。


「あなた達、これから私は集中するからこの部屋から出ていって」


そう言ってアーリン達は部屋の外に追い出された。

閉ざされた修理室の扉の上で青白いランプが灯った。おっちゃんはそれを見て説明してくれる。


「このランプが消えたら修理完了だ。まあ今回はあいつの様子的に4,5時間ってとこだな。」


「一休ちゃん、ちゃんと治るんですか?!」


「ああ、大丈夫だ!絶対にな。」


それを聞きダンポが問う。


「随分とあの女性を信頼してるようじゃのう?」


おっちゃんは答える。


「おう!なんてったってあいつは俺の自慢の嫁だからな!」


「ほう、そうじゃったのか。それでそんな彼女が助けられなかったというのは、どんな子なのかのう?」


「ああ、その子はある日この修理屋に来て、泣きながら僕の身体を治して欲しい、と言ったんだ。」


「身体を?」


「ああ、その子は液人族だったんだが身体が油で出来ていたんだ。」


「身体が油で…じゃと?」


ダンポはアーリンの方を見る。


「それってまさか…?」


「ああ、十中八九オイリーの事じゃな。そう言えばあやつ何処に行ったんじゃ…。」


その反応を見ておっちゃんは少々困惑した様子だったが、話を続ける。


「それで身体が油で出来ていると、液人族にとって重要な親愛表現である他人との1部の体液交換が出来ないんだ。」


「文字通り水と油って訳じゃな。」


「そう、それでこの街でも随分と迫害されたらしくてな。自分の身体を普通の液人族と同じにして欲しいと言ってきたんだ。」


ダンポは難しい顔で頷く。遠い目をして言う。


「確かに周りと同じ存在になりたいというのは人の性。まあ、一休はそんなこともなかったんじゃが…。」


「一休ちゃんも仲間外れにされてたんですか?」


「まあ、そんなところじゃ。詳しくは目覚めたあとの本人に聞いてくれ。もっとも答えてくれるかは分からんがのう。」


「はい、そうします。」


「それで、その子はどうなったんじゃ?」


「結論から言うと、リーペでも直せなかった。リーペの力はあくまでも修復であって根本を変えるものでは無いから、という理屈らしいが、俺はあれは嘘だと思っている。」


「嘘?」


「ああ、リーペの力では直せなかったというのは恐らく本当。そしてリーペの力が根本から変えるものでは無いという部分自体もおそらく本当。だが、直せなかった理由は多分そこじゃない。」


「ほう、なぜそう思う?」


「1つ、あいつの性格的に能力の性質上直せないものにそこまで気を悩ますとは思えない。2つ、その少年、確かオイリーだったか?が、今までの漠然と世界を憎んでいるようだった目から特定の誰かを憎む目に変わっていたから。それもリーペではない誰かをだ。3つ、夫の勘。」


「なるほど、3つ目はともかく、他2つはある程度筋は通っとる様に感じるのう。問題は誰を憎んでいるか、という所じゃが。」


「正直な所その辺はさっぱり分からん。なにせもう10年以上前の話だ。」


「そうか…。」


そうして、それ以上の会話も無いまま一同は唯時間が過ぎるのを待つのだった。


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