第11話 出立

アーリンの元へと戻ってきた一休。アーリンは一休の事を見て心配したように言う。


「何かあったんですか?」


「何も…無かった。と言えれば良かったのだけれどね。1つ目、あなたにとって喜ばしいことなのか悲しいことなのかは分からないけれど、ラフールが何者かに殺されたわ。」


「……!?そんな…。」


「2つ目、死ぬ直前にラフールからこれを預かったわ。あなたを護ってくれるそうよ。あなたが本当に嫌なら棄てても良いかもしれないけれど、曲がりなりにも350年生きた樹人族の力の殆どが封じ込められているはずだから、かなり強力なお守りになるとは思うわ。」


「はい。どうするかはこれから考えます。」


「3つ目、これはあなたに関係あるかは分からないけれど、世界の目覚めに気をつけろ。だそうよ。」


「世界の目覚め?…ですか。分かりました。」


「最後に、私とあなたはずっと友達よ。」


「え?あ、はい?」


「さてと伝え終わった事だし。私は部屋に戻って寝るとしますか。じゃあ、明日の朝には出るから、準備勧めときなさいよ。」


そう言って、今にも目から涙がこぼれそうなアーリンを見た一休は、アーリンに背を向けて部屋へと戻る。


「ばい!ありがどうございまず。」


背後から聞こえてきた声がどこか濁音混じりなのは気にしないでおこう。


部屋に戻ってきた一休


「昨日今日と疲れたわね。殆ど休めた気がしないわ。それにしても世界の目覚めか…。やっぱり樹人族辺りに聞いた方が良いのかしら。それとも、里で叔父さんに聞く方が…。まあ、何はともあれ、妖都であれ買って里へは1度帰らなきゃだし、それから考えるとしますか。」


そう独り言を呟き布団に身を投げ出す。

疲れがどっと押し寄せ、あっという間に眠りへと落ちていった。


朝、目が覚める。周りを見ると木で出来た壁の部分が全てアーリンに渡した指輪と同じく結晶化している。


「これは……。(そう、これがあなたなりの愛の形ということかしら、ゲス外道。)」


と、そんなことを思っていると扉がコンコンコンとノックされる。


「お客様ー!朝ご飯の準備が出来ました。食べたら出立ですよね?お召し物の洗濯も終了したので渡しに来ましたよー?」


アーリンが朝ご飯ができたことを伝えに来たようだ。慌てて出ていき、白衣と腰衣を受け取る。


「着替えたらすぐ行くわ!少し待っていて。」


そう言って手早く着替え、荷物を持って食堂へと行く。


食堂には、10人足らずではあるが、従業員勢揃いで座っていた。従業員達は口々に、アーリンを頼むだの、アーリン泣かせたらぶっ飛ばすだの言ってきた。途中でアーリンが顔を真っ赤にして止めに入らなければ、延々と終わらなかっただろう。

しばらくして、この店の表向きのオーナーらしい、カブト虫の蟲人族が口を開いた。


「今日は、我らの家族アーリンの旅立ちを祝う会を行うため、飴水堂は昼からオープンする!アーリンの新たな旅立ちと、アーリンに友達ができたことを祝福して!乾杯!」


『かんぱーい!』


互いにグラスをぶつけるカチンカチンという音が小気味よい。昨日の質素な朝ご飯とは違いご馳走ばかりだった。とはいえ殆ど甘いものだったのだが…。食べ終わってしばらくして、一休達は荷物をまとめ外に出る。


「全く、まだ口の中が甘ったるいわね。」


「アハハ、まああれは私達にとってはご馳走ですけどお客様のように他種族の方には甘すぎますよね。」


「アーリン、もうお客様じゃなくて一緒に旅する仲間なんだから、私に対してそのお客様呼びはやめなさい。敬語もしなくていいわ。」


「はい、おきゃ…じゃなかった。うーんと、一休ちゃん!敬語もやめるね!」


「…順応早いわね。それにしてもなにか忘れてるような気が…。」


そう思っていると、何やら声が聞こえてくる。


「シェリーちゃーん待っててくれい!たった今覚悟を決めた!儂も今この川の向こう側へ!」


そう、それはチェックイン前に水飴を喰らっておかしくなっていたダンポだった。


「ああ、ダンポ。マジでどうでも良すぎて忘れてたわ。ってかまだこんな事してたの…。」


かなり引きながら一休は言う。


「水飴の幻惑効果が凄いと言うべきか、こいつの単純具合がすごいと言うべきか。はぁ、とりあえず祖霊憑依・本多忠勝。」


一休が術を唱えると、なにかが一休の体を覆う。一休の身体は紅色に発光し、手には長大な槍のような物が握られている。

一休はそれを思いっ切り振りかぶり、一気に振り下ろす!


「いい加減目を覚ませエロジジイ!」


「ギィヤアア!」


地面には大きな亀裂が入り、土煙がもうもうと立ち込めている。


「あれ?シェリーちゃんは……?」


「知るか!さっさと行くぞエロジジイ!」


「あの、よろしくお願いしますね。えーと?猫さん?」


「おぉ、見知らぬお嬢さん。儂はダンポという宜しくのう。ん?よろしく?一休、どういう事じゃ?」


「その子も一緒に妖都までいくのよ。」


「そうか。それはまた突然じゃのう。というか一休、宿は?」


「ごめん、ちょっと黙っててくれないかしらダンポ。本気でもう1発殴りたくなってきた。」


「おおこわ。老いぼれは黙ってろって?最近の若いもんは敬老精神が足りんなあ。」


「さてと、妖都目指して旅を続行よ!」


「はい!」


「いや、じゃから宿は……???」


「行くわよ!アーリン!」


「はい!」


「じゃから宿はあああ????」


そんなダンポの哀しき叫びは誰にも相手にされず、少し晴れはじめたばかりの空へと木霊して言った。




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ここで、第1章、飴水堂編は終了となります!

良ければ応援、レビュー、☆で評価の方お願いします!

物語はまだまだ続きます!

引き続き、一休ちゃんは今日も毒舌をお楽しみください。

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