第8話 これからは
世界幻影が終わった。
辺りに漂っていた赤いもやはすっかり消え、先程までいた地獄の鬼達は影も形も無い。
目の前の老爺、ラフールが目を覚ました。
「ハッ、ここは?」
「お帰りなさい、ゲス外道。」
「小娘…。儂は一体…?赤いもやに包まれたと思ったら、意識が遠のき…化け物に裁きを受け…。」
「振り返りタイムは終了でいいかしら?」
「小娘、お主儂に何をした?」
「私が術を使った相手はあなたではなく、世界。世界幻影は世界を騙す幻よ。」
「世界を騙す幻…じゃと?」
「ええ、私の身体から出た赤いもや。あれを世界が認識すると世界は私が望むように騙される。今回はあなたの認識する可能性のある世界、という狭い範囲内に幻を展開したわ。今回は世界に、今はこの樹人族の死後であると誤認させた。つまりさっきまであなたが見ていたのは今のままあなたが死ぬまで過ごした場合に確実に起こる未来。死後の審判なんて、生きてるうちになかなか受けられるものでは無いわよ。感謝しなさい。」
「誰が感謝なんぞするか!隠しているようだが随分疲弊している様子、このままお前を叩き潰してやる!」
そう言って攻撃を仕掛けようとする。
だが、その攻撃の手は一休の言葉で止まる。
「そうやってあなたは、奥さんにまた罪を背負わせるのね。」
「なんじゃと!口を慎め小娘!」
「いいえ、やめないわ!あなたがそうやってすぐに殺してきた結果があのザマでしょう!あなたのワガママで多くの人を殺し、その挙句1番大事なはずの相手にも地獄の苦しみを背負わせた!せっかく未来を見せてあげたというのに学ばないなんて、呆れて何も言えないわね。」
一休の言葉を聞いて、項垂れるラフール。
「ならば…どうしろと…。お主も見ていたならわかるだろう。儂は殺しすぎた、助けてくれる者も妻1人だけだ。」
「じゃあ、これから助けてくれる人を増やせば良いじゃない。」
「……そう、じゃな。そんな当たり前のことにすら気付かぬ程に視野が狭くなっていたか。妄執のままに長生きしすぎるものでは無いのう。」
「恋は盲目、愛は妄執。幻霊族に伝わることわざの1つよ。まさにあなたにお似合いのことわざね。」
「これから色々な者を助け、恩を売り続ければなんとかなるじゃろうか?」
「さあね?許され無くてもやる事に意味があるんじゃないの?」
「それもそうか、まずはあやつに謝らんとなあ。」
「アーリンのことかしら?」
「あやつはアーリンという名前だったのか。儂は、妻の代わりをさせようとするだけでそんな事も知ろうとしていなかった。」
「あなた、人型になれるのかしら?」
「いや、無理だ。樹人族は基本的にある程度成長すれば樹木形態と人形態の切り替えは自由に出来るが、儂は飴水堂と一体化しているから、人型に戻ると飴水堂も壊れてしまう。歳を取るほど樹木形態を好む者は多くなるがな。」
「ちっ、使えないわね。じゃあアーリン連れて来てあげるから待っていなさい。」
そう言ってアーリンを呼びに行こうとする。だが、そこでラフールが止める。
「いや、その必要は無い。儂は飴水堂と一体化しておるから、飴水堂内にいる者ならすぐに連れて来る事が出来る。少し待っていろ。」
しばらくすると、壁の1部に穴が開きそこからアーリンが滑り落ちて来た。
アーリンは辺りを見回したあと、
「あなた、どうしたんですか?」
とラフールに問う。ラフールはそれを聞いて口を開く。
ここで解説
・世界幻影とは
文字通り世界を騙し幻影を見せる幻霊族の奥義である。
一休の身体から出たもやを世界が認識した瞬間、世界は騙され一休が指定した時点に強制的になる。
この技の弱点は
・妖力、体力の消費が非常に大きく、求められる情報処理量も多いため、使用中は常に激しい頭痛に苛まれ、範囲や発動時間が延びれば伸びるほど、消耗や痛みは激しくなり、次に使えるまでの時間が延びる事。
・世界幻影を相手にも使われた場合、相手の練度次第では上書きされる事。
の以上2つである。
1つ目に関しては、今回一休は上手く隠し通してはいたが、本来なら立っているのも辛く、また、妖力の7割強を消費している状況である。
2つ目に関しては、相手が幻霊族限定のときではあるが、相手の世界幻影が一休の発動した世界幻影より練度が高かった時か、より広範囲に展開した時に起こる。
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