第7話 世界幻影

《樹人族の老爺視点》


「極小規模展開。幻霊奥義・世界幻影!」


そう、目の前の小娘が呟いた。次の瞬間、目の前の憎たらしい小娘の身体から紅いもやが溢れ出したかと思うと、それが一気に儂の視界を遮った。


そして儂の意識は深く、深く、落ちていった。


目を覚ますと、目の前にはおどろおどろしいながらも立派で巨大な門がそびえていた。門には窓口が有り、そこには巨大な3匹の化け物が座していた。何れもその醜悪な見た目とは裏腹に、豪奢な服を身にまとっている。


「貴様ら、何者じゃ!」


そう言って攻撃を仕掛けようとした瞬間、儂の身体に何処からか焼けた巨大な楔が打ち込まれ、身動きを封じられた。


「ぐああああああ!」


ジュウジュウと身体の焼ける音がする。痛みのあまり思考は途切れ途切れになる。


おもむろに右に座っている化け物が口を開き、感情の籠っていない無機質な声で喋り始めた。


「咎人。

種族・樹人族

個体名・ラフール

享年齢500

罪状

大量殺害及び洗脳

内容

1つ、蟻の蟲人族のメスを自らの欲望の為に手に入れる為、宿に来た蟻の蟲人族の同伴者を自らの体液を用いて殺害。

1つ、表向きには蟻の蟲人族を保護したように見せかけ洗脳を繰り返し、自身の欲望のために利用した。

1つ、自身が経営している宿屋の悪口を言った者を体液を用いて殺害した。」


「な、何故それを!?」


儂の問いには答えず、今度は左に座っている化け物が術を唱える。


「霊魂召喚」


しばらくするとどこからともなく光が集まり、何かを形作っていく。

そうして出来上がったのは儂の殺した者達の姿と、洗脳した蟻の蟲人族の姿だった。

奴らは手に燃え盛る焼きごてを持っていた。


「き、貴様ら!何をする気だ!」


儂の叫びを気にもとめず奴らは近付いてくる。そして儂の皮膚に焼きごてを押し付けた。奴らは何も言わない。だが、その怒りは伝わってきた。


「ぎぃゃああああ。」


最初に刺された楔よりひとつ辺りの痛みは小さい。だがいつ終わるか分からない程の数が焼き付けられていく為、心身共に疲弊していき、身体が重くなっていく。だが、何故か気を失うことは出来ない。


どれ程の時間が経っただろうか。

いつの間にか奴らは消え、再び化け物3匹と儂だけになった。


霊魂を呼び出した化け物が口を開く。


「咎人よ、弁解はあるか?」


「儂は、儂は儂は儂はァ!ただ彼女と、妻と共に死にたかった!だが、彼女は儂を置いて先に逝ってしまった!逝ってしまったんじゃ。だから!たまに来る蟻の蟲人族を見つけ、彼女の代わりをさせた!彼女の愛した飴水堂を守るためにも、馬鹿にしたやつは全て殺した!愛する者と愛する者が愛した物と永遠に居たい!それの何が悪い!」


「今の弁解を聞いてこの男の関わった全てのものに問う!許すものがいれば出てきて、咎人に触れよ!焼き印は触れたものの許した分だけ触れたものに移り、咎人の罪の重さも移る!」


誰も出てこないだろうと思っていた。

全て自分の為にやった事、自分以外の誰の為にもなっていないのだから。

だが、1人の女が歩み寄ってきた。


死に別れた妻だった。


目が潤み、ぼやけ。久しぶりの妻の顔すらまともに見ることができない


「お前は許して、くれるのか。」


妻は何も言わず顔をゆっくりと横に振った。そして儂の頬を思いっ切り平手打ちしてきた。

妻が何を言っているか、何も聞こえないがそれでも怒っていることはわかった。

そしてひとしきり怒った後に少し優しい顔になり、何かを言った。何を言っているのか、言葉では分からなかった。だが、その心は伝わってきた。


「そうか、すまなかったな。恐らくこの後儂は何か裁きを受けるのじゃろう。お前は離れていなさい。」


だが、妻は離れない。それどころかくっついてくる。妻の身体はどんどん焼けただれていく。


「馬鹿者!そんなことをしたらお前も罪を背負う事に…!今すぐ離れるんじゃ!」


そう言って妻に触れ、遠ざけようとしたが、妻の身体に伸ばした手はすり抜ける。


「触れることすら……許されんのか……。」


そうして儂の身体から焼き印の半分ほどが消える頃、妻はようやく手を離した。


「ばか…ものが……。」


とめどなく溢れる涙のせいでもう前が見えない。しばらくすると中央の化け物が口を開くいた。


「咎人ラフールよ。この天秤に乗れ!」


そう言って中央の化け物が取り出したのは巨大な天秤だった。いつの間にか身体と地面を縫いつけていた楔は消えている。

指示に従い天秤に乗ると儂の乗っている方が大きく傾く。

中央の化け物は反対側に、『無限焼きごて』と書かれた宝玉を載せる。今度は、向こう側に大きく傾いた。それを見た中央の化け物は秤から宝玉を取り、半分に割った。割れた宝玉に書かれていた内容は『生きた時間分の焼きごて地獄』だった。

その宝玉を秤に乗せると今度は儂の重みと釣りあった。化け物はそれを確認した後、宝玉を乗せたまま儂と妻を変えて同じことをした。それらが終わると口を開き告げる。


「咎人ラフール及びその妻ディーラに償いを言い渡す!償いの内容は、生きた時間分焼きごてをされ続ける。である!全てが終わった後には輪廻の輪に戻される!咎人ラフールそしてその妻ディーラよ、しっかりと償え!」


門が開き、そのまま凄まじい勢いで灼熱地獄へと運ばれていく。


着いた先で拘束され、焼き印を押され続けること500年。

遂に罪を償い終わり、輪廻の輪へと戻る。


あぁ、意識が光に飲み込まれていく……。

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