第6話 アーリンの過去

何故それを、と聞いてくるアーリン。


「ああ、やっぱり合ってたのね。」


「ま、まさかカマをかけたんですか?」


「そういう事。一応なんで分かったか聞いておく?」


「はい、お願いします。」


「大浴場までの道で話した時にも言ったと思うけれど、あなたは喋りすぎなのよ。昔話であの話を選んだり、旅に出て初代オーナーを見つけたいという夢を話したり。あそこまでのヒントがあれば、あなたをちょっと監視すればわかるわよ。まあ、極めつけはあのカマかけだけれどね。」


「監視してたんですか……。」


「ええ、悪かったわね。でも、あなた本当は昔話の樹人族の男性が生きてるって伝えたかったのでしょう。」


「そんなことは……。」


「だって、あなたその樹人族のことを愛して、いや崇拝すらしているでしょう。」


「…誤魔化しても無駄そうですね。はい、その通りです。」


そう言ったアーリンの口から語られたのは幼き日の思い出だった。


「私は幼い頃から夫にするなら宿屋族ということわざと、あの昔話を聞いて育ちました。なので会ったことも無い昔話の樹人族の男性に、強い憧れをもっていました。そんなある日、私の誕生日に両親と飴水堂へ行けることになりました。私はもちろん大喜びしました。そして実際に宿泊してみて、ずっと興奮していました。夜、厠へ行って戻ると…両親が死んでいました。とても苦しそうな、まるで溺れ死んだかのような表情でです。私は怖くなって一晩中押し入れにかくれていました。次の日、夢であることを祈りながら両親を見ましたが、やっぱり死んでいました。そんな私を当時この宿で唯一、昔話の樹人族が生きていることを知ったアリの蟲人族の女性が引き取って育ててくれました。その女性もこの宿で連れが死んでしまい、そこを引き取られたとの事です。私やその女性を引き取るように命じたのがその樹人族の男性でした。だから私はあの素晴らしい方に恩を返すためにもできる限り尽くしてあげたいと、そう思うのです。」


そうして、語り終えたアーリンの顔は恍惚としていて、まるで催眠にかかっているかの様な表情だった。


「そう、あなたの気持ちはよく分かったわ。 あなたという素晴らしい人を育てた人なのだから、その樹人族の彼はさぞ、素晴らしい人格者なのでしょうね。」


「はい、その通りです。で、直接お礼を言いたいんでしたね。本来他の人を入れるなと言われているのですが、私ととても仲良くして下さったお客様の頼みですから、特別に彼の所までご案内致します。」


そう言うとアーリンは着いてこいというようにこちらを手招きしたあと歩き出した。そして着いたのは個人従業員部屋の中のアーリンの部屋だった。アーリンの部屋のクローゼットの1番右のハンガーを3回叩くと、クローゼットの奥の面が開いた。


「こちらです。」


そうして、しばらく薄暗い道を歩くと突然視界が開け、明るくなった。そこは半径15m程の空間で、周りが全て木の皮の様な壁になっていた。しばらく待つと木の壁が老爺の顔になった。老爺が口を開いた。


「お前、これは一体どういうことだ。」


「はい、こちらのお客様が昨日話したお客様で、あなたに直接お礼をしたいとのことです。」


「アーリン、悪いけど少し他人には聞かせたくない話をこの人とする予定だから席を外してもらっていいかしら。」


「はい、では私は仕事に戻りますね。帰る時はクローゼットの内側にレバーがあるのでそれを下げるとクローゼットが開きます。」


「分かったわ。ありがとう。」


「では、失礼します。」


そう言ったアーリンが見えなくなるまで、一休は口を開かなかった。そして、アーリンが見えなくなったしばらく後。老爺が口を開こうとした瞬間、一休は老爺の顔を殴りつけた。


「何をするこの小童が。」


激昂する老爺。対して一休はあくまでも冷静に返す。


「本性をあらわしたわね、ゲス外道。これからあなたがやってきたこと、たっぷり償わせてあげるわ。」


一休はかつてないほどに怒っていた。一休は怒りのままに、ある術を唱えた。


「極小規模展開。幻霊奥義・世界幻影!」


一休の身体から深紅のもやが噴き出し、辺り一体を包み込んだ。それはまるで彼女の心中を表している様だった。

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