第4話 飴水堂生誕秘話
浴衣姿で廊下を歩く一休と、アーリン
「そういえば、洗濯してもらおうと思ったのに服を渡してなかったわね。」
「お預かりしますよ。出立はいつ頃のご予定ですか?」
「そう、じゃあお願いするわ。出発は明後日の早朝ってとこかしらね。」
そう言って白衣と腰衣を手渡す。
「早いですね。もう少しゆっくりしていかれれば良いのに。」
アーリンがそう言うので、
「あら、それはもっとお金を落としていけ。という意味かしら?」
と少し意地悪な返答をする。するとアーリンは予想通り
「そ、そんな訳ないじゃないですか。」
と、慌てて否定した。ところで、とアーリンに問う
「この宿にまつわる話とかないのかしら?」
アーリンは少し考え込んだ後
「では1つ。昔、この宿ができる少し前。そうですねもう200年程前でしょうか。この辺りに仲睦まじいことで有名な、蟲人族と樹人族の夫婦がいました。2人はとても仲良く暮らしていましたが、異種族間であるためか2人の間に子供はなかなか出来ませんでした。そこで2人はあることを始めます。そう、2人の子供とも言える飴水堂の建設です。蟲人族の女性は従業員集めを、樹人族の男性は自分の身体を少しずつ削って宿の骨組みを作っていきました。飴水堂の建設は順調に進んで行きました。ところが、異種族間では当たり前のことでありながら誰も気づか無かった、いや目を向けたくなかったのでしょうか、ある壁が2人の間に立ち塞がります。そう、寿命です。蟲人族の寿命は短ければ4時間、長くても精々100年です。それに対して樹人族は最低でも300年は生きます。蟲人族の女性はシロアリの王族でした。なので100年程は生きることができましたが、それでも樹人族と共に歩んでいくには足りませんでした。そうして飴水堂が完成してしばらくすると、蟲人族の女性は死んでしまいました。それを嘆いた樹人族の男性は、飴水堂と一体化してしまいました。樹人族は身体から蜜を出すことができるので、それ以来宿で蟲人族が頼むと、どこからか飴が湧き出てくるようになったそうです。その飴は樹人族の涙の様でもあり、降りやまぬ雨水の様でもありました。それを見て、誰が付けたのか飴水堂という名前になったとか。」
「…そんな話があったなんて(ひょっとしてあの水飴って…?)」
「そういうわけで、蟲人族の間ではこの宿は結構有名なんですよ。だから蟲人族の間では夫にするなら宿屋族、なんてことわざもあるんですよ。」
「それはまた随分とユニークなことわざね。けれど、その愛の形は私は気に入らないわね。」
「どうしてですか?」
「だって妻の死如きで生きるのをやめて、もう一度会う可能性を探そうともしない。そんな軟弱な男、私は願い下げね」
「随分と辛辣ですね…。それに死んだ人にもう一度会うなんて無理なんじゃ」
「そんなこと無いわよ。ここは妖界、
一休はキメ顔でそう言った。
「そうですね。私ここを開いた、シロアリさんに会う為に、一休さんの様に旅に出たいです。出来ると思いますか?」
「ええ、もちろん。だって…」
『ここは妖界だから』
そう言った2人の声は見事なまでに揃っていて、2人は顔を見合わせ吹き出した。
薄暗い宿の廊下には似つかわしくない、朗らかな笑い声はどこまでもこだましていった。
ここで解説
・
樹人族は、あらゆる種族の中でも屈指の寿命を持つ。身体からは蜜を出すことができ、蟲人族の間では高級嗜好品として取引されている。しかし、それを狙った盗賊たちに多くの子供達が攫われ売られている。身体能力はあまり高くなく、1番身体能力が高い時期ですら成人男性と同程度であり、1番低い時期では赤ん坊と同程度である。その代わり知能がとても高く、知識も沢山蓄えている為、森の賢者とも呼ばれる。また生殖方法がかなり特殊であり、相手の身体の1部(髪の毛や爪程度で良い)を食す事で産房と言う器官に相手の遺伝情報の塊を作りそこに自分の遺伝子を交ぜ、更に自分の知識を無差別ではあるが、2割程度引き継がせる。10年の後に産房が破裂し、子供が出てくる。樹人族の王族は、生殖の際に全ての知識を引き継げる。樹人族の王国の場所は人間道の周辺だと言われている。
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