第3話 大浴場で大騒動
大浴場への扉を開け、中に入る。風呂場特有の熱気と湿気が一休の裸体を湿らせる。
「えーと、まずはシャワーを浴びてっと。」
迸る幾重もの水流が水飴と泥、旅の疲れまでも押し流していく。そうして身体を洗い終わった後、お湯へと足を踏み入れる。
「はぁ〜、やっぱ癒されるわ。文句を言う訳では無いけれど、もう少し風景が良かったら文句なしね。」
そうして文句を言いながらも久しぶりの風呂を楽しんでいる一休。そこへ、ペチャ…ペチャ…と不思議な音が聞こえてきた。
「……(誰か来たのかしら)」
そう思って誰か来るか待ってみるが、音だけが近づいてくるばかりで、誰の姿も見えない。また、音が反響して音源の位置がよく分からない。そうこうしているうちに、音が止まった。突如、なにかに押さえつけられたように一休の身体が水に沈んだ。一休はしばらく暴れていたが、やがて体の力が抜け、そして浮かび上がってこず、消えた。
それを離れて見ていた一休。
「何よあれ、やばいじゃない。幻影現身作っといて助かったわ。」
そう、一休は幻を作ることにかけては右に出るもののいない、幻霊族のある一族なのである。
「さてさて、こんなふざけたことやってくれたのはどこのどいつかしら。」
そう言って自分の幻影現身が消えたところを確認する。
「これは……水飴?(一体どういうことかしら。これは入る時にダンポを攻撃していた水飴と全く同じ……。)」
考え込んでいると水飴は溶けて消えてしまった。
「ちっ、証拠隠滅も完璧って訳ね……。」
少し考え、一休は思いついた。
「このまま待っていたら犯人が死体を回収しようとして現れるんじゃないかしら。幻影現身を置いて、少し待ってみましょう。」
だが一休の目論見は外れ、いくら待っても犯人は現れない。そろそろ上がるか、そう思った矢先だった。
「お客様ー、随分と長風呂ですが大丈夫ですかー?」
アーリンが大浴場にはいってきた。
「…(アーリンが犯人なのかしら。いえ心配してるからそれは無い?でも念の為、幻影現身を発見させて反応を見ましょう。)」
「お客様ー、ってキャアアア。お客様、目を覚ましてください!」
本気で心配している様に見える。これが演技だとしたらかなりの演技派ということになる。
「…(これでアーリンが犯人の可能性はほぼ0ね。)アーリン、それドッキリだから心配しなくても大丈夫よ。」
慌てて振り向くアーリン
「え?良かったあ、生きてて。本当にやめてください。」
「アハハ、ゴメンゴメン。」
「はぁ、棒読みじゃないですか。」
アーリンは呆れたように言った。
そんなことより、と一休は切り出す。
「アーリンあなた誰に言われて私の様子見に来たの?」
「え?特に誰にも言われてませんけど。」
「そう…。(どういうことかしら?アーリンに様子を見に行かせるように言って、死体を確認させようとしたやつが犯人だと思ったのに。)」
「なんでそんなこと聞くんですか?」
露骨に訝しむアーリン。
「いえ、長風呂の客に何かあったかもしれないと予想して見にこさせるのは優秀だなと思っただけよ。」
アーリンが一応は納得した様子で、
「それで、もうお上がりになられますか?」
と聞いてくるので、
「ええ、そろそろ上がらせて貰うわ。」
と答える。
「…(さてさて、ここからどうしようかしら)」
疑念は夜と共にただ深まるばかりであった。
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