第六話

 お休みに入り、父達は早々に出発して行き、そして屋敷の来て下さっている使用人の方々も、帰る前まで来るなと命じられ、馬車の出発後すぐに屋敷から出て行きました。


「旦那様は戻る数日前に来て、掃除をしておけと、それまでは私とレアーお嬢様だけでございます、昨年同様屋敷中の捜査をしてしまいましょうか、私はまず一番大きな離れから行って参ります。レアーお嬢様は今日一日は部屋でお休み下さい」


 私としてはクロノさんと一緒に居たいのですが、私が居ると気をお使いになりますから、私は屋敷の中で無理せずやっておきましょう。


「分かりましたわ、屋敷に戻りますわね」


 まだ重い体を動かし、テラスにまずは向かい、リスさん達にパンを手からあげたいのですが、今日はお皿を置きその上にパンを小さく砕いて入れておきます。


「明日の楽しみに取っておきましょう」


 そして、テラスから屋敷に入り書斎に向かいます。


「あっ、その前に鍵はいつものところに隠してあるでしょうか?」


 ダイニングの暖炉、その上に飾られている煌びやかな装飾が施された剣、その帯剣用の帯にいつもなら挟まれていますが、ありました。


 “チャラ”


「あら、違う鍵も挟まっていました、一体どこの鍵でしょうか? 一応持っていきましょう」


 もう一度、さらに無いかと手探りしてみましたが、無いようですね。


 二つの鍵を持ち、書斎へ。


 “カチャ” 鍵が開き中に入りました、すぐに目に入った机に向かいます、すると机の上に、沢山の方のお名前が書かれた紙の束が置かれていました。


「存じ上げない方ばかりですわね、別邸の名も書かれてありますからもしや、集まって来ているテロのリストでしょうか? クロノさんに確認して貰いましょう」


 手は触れずに、部屋の中を見渡し、以前に見た記憶と異なる所を見て回ります。


 壁の絵が少し傾いていることに気付き、そっと裏を覗いてみると、壁ではない物が見えます。


 そっと、絵を持ち上げ裏を見ると小さな鍵付きの扉がありました。


「うふふ、これはクロノさんをお呼びした方が良さそうですわね」


 体の重さも、少し軽くなった様に感じます。


 テラスに出ると、お皿にはいつものリスさんがやってきておりました。


 少し体の小さな子が三匹います、今年の子供がついに巣から出てきたのでしょう。


「うふふ、取り合いは駄目ですよ、まだ少しありますから、入れておきますね」


 私は膝をつき、ハンカチを取り出します。


 すると親リスさんが、私の体を登って来てくれたのです。


 それに続き、子リス達も、よじ登ってきて、私の手に乗り、直接食べてくれました。


「うふふ、ごめんなさいね、もうこれだけしか用意出来てませんの、夕刻に少し多めにご用意いたしますわね」


「レアーお嬢様、こちらを、追加のパンでございます」


 クロノさんは私の両手のひらに、砕いたパンを乗せてくれました。


 リスさん達は少し驚いたようですが、今は増えたパンに夢中になっています。


「うふふ、あたたかいですわ、クロノさん、書斎で、沢山の名が記されたリストの様な物と、隠し扉を見付けました、一緒に見ていただけますか?」


「ほう、分かりました、私の方は、また遺体が、先週辞めたと聴かされていました若いメイドでございます、スライムが放たれておりましたので、数日で吸収されていたことでしょう、服を脱がせその場から服だけを残し移動させました、その書斎を見た後霊園に埋葬してきます」


「まあ、また犠牲者が······あの方は確か近隣の村から出稼ぎに来た方だったのでは? ご家族は······早くこの計画を進めませんと、更なる犠牲が出てしまいます」


「はい、一刻も早く、あの御当主様の暴力性は王子にも、ペルセフォネ様にも遺伝していますので」


 そうなのですね、似通ったところがあると言われれば、その通りだと私も思います。


「では私もあのように!」


「大丈夫です、レアーお嬢様は先王の気質と似ております、穏やかで、民や、国をおもんぱかる、賢王様とです、あの方も動物にも好かれておりました」


 リスさん達が手から下り、木に戻って行きました、私はクロノさんの手で支えられながら立ち上がり書斎に向かいます。


「これは、以前の物と照らし合わせてみなければ確実な事は言えませんが、別邸に集まってきている者達でしょう、この辺りの者は見覚えのある名ばかりですので」


 クロノさんは書斎の机の上にあった紙束を見て、指差しながらそう言います。


「それと間に挟まっていた、この奴隷の腕輪の発注書ですが、この国では許可された者しか装着前の物の所持は認められてはおりません、これは良いものが見つかりましたね、しっかりとサインと印まで押されています」


「王子様と連名ですわ、これを出せば」


「はい、後一歩でございます、明らかな犯罪行為の証拠ですので、ではこちらは複製の魔法を、ではもう一つを確認いたしましょう」


 壁の額縁を慎重に調べてから外すクロノさん、外した裏側まで調べ何度も取り外しされた形跡があり、裏蓋を取り外すと一枚の紙が出てきました。


「レアーお嬢様、テロの計画書です、まだ決行日やサインはされていませんので、このままでは証拠には弱すぎますが、これはこのまま複製だけして戻しておきましょう、細かな計画内容が書かれていませんので、確実とは言いませんが後数年、三年以内には決行される事でしょうね」


 そう言うと、元に戻し、裏蓋を閉め、床に一旦下ろしておきます。


「では鍵をお借りしますね」


 私はこの部屋の鍵ではない方の鍵を手渡します。


「この扉の鍵で間違いなさそうですね、開けますので、レアーお嬢様は少しお下がり下さい」


 私が数歩下がった事を確認してから鍵穴に挿入し捻ると、“ガチャ” 鍵の開く音が聞こえ、扉を開けました。


「レアーお嬢様、公爵家の資産が押さえられます、ふふっ、なんともまぁ、溜め込んだものです、商人ギルドが大半の様子ですが、別邸、離れにまで、この隠し場所のリストの総計、これだけの額、脱税だけでここまで溜め込む事は厳しいでしょう、私が掴んだ情報だけでも厳しいでしょうから、まだ何かやっていると見て間違いないでしょうね」


「お役に立ちますか?」


「はい、これもこのまま複製して戻しておきましょう、その時がくるまで、ふふっ」


 クロノさんが、声を出しお笑いになるほどですね、それは楽しみにしておきましょう。


 その場を元の状態に戻し、書斎を後にしました。




 クロノさんが殺された使用人を墓地へ連れて行きました、収納と言うスキルだそうです。


 沢山の物が入れられ、時が経たず入れた時のまま保存が出来るそうです、クロノさんの収納には、潰された私の目が保存されているそうです。


 大聖女様のモリーナ様なら私の目を治せるかも知れないとの事で、そうなれば嬉しく思います。


 私は、母の部屋、ペルセフォネの部屋を調べましたが、特にこれと言ったものが見つかりませんでした。



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