第七話

 計画を開始してからあっという間に五年が過ぎ、この夏期のお休みにテロの計画が、実行される事が判明しました。


 先日その旨を記した書簡が沢山の賛同者に送られ、私達は送られた書簡と、送られた人物のリストを、昨夜の夕食で集まっている隙にクロノさんが複製し手に入れてくれました。


 これまで調べていて気が付いたのですが、公務など何一つしていなかった事や、密輸出入で富を得た事や、人身売買、麻薬の栽培、製造、販売などこの国で行われている犯罪の半数近くに手がつけられている事が分かりました。


 雇われた使用人達の多くは父、母、ペルセフォネが、少しでも気に入らなければ、いくつかある離れに連れていかれ、考えたくもない酷い仕打ちをされ、国外に放逐される者や、誤って殺してしまった者は、以前霊園に埋葬できた方以外はスライムによって消されてしまったと思います。


 前王は、そんな父の暴虐な性格を知って弟を王にした事は、凄く悩まれたの上での事だろうと予想しますが、英断だと心からそう思います。


 その暴虐な父の考えに賛同し結婚した母、その父、母に教育されたペルセフォネ、そして、魔力しかない私は戦力にも家のためにもならず、実の子、家族である私を物以下に扱う事に、何の躊躇ためらいも無く、疑うこともせず、家族の私への仕打ちはエスカレートする一方でした。


 今日中に資料をまとめ、明日私達の計画が実行されます。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「レアーお嬢様、学院に行く時間です」


 少し考え事に心を奪われていたところに、クロノさんの声が心に染み入り、私は意識を戻しました。


「クロノさん、今日もよろしくお願いします」


「はい、では鞄をお持ちしますね」


 クロノさんの先導で階段下の部屋を出て、裏口の方に停めてある馬車に向かいます。


 馬車に乗り込み、御者台側の小窓から見えるクロノさんの姿を眺め、今日もその朝日に照らされ光る髪と、ハイエルフ特有の透き通る様な白い肌、少しずつ心引かれ、もう後戻りが出来ないほど愛おしくなってしまったこの想いは、表には出さないように。


 何時もお側にいたい。


 手を繋ぎ歩きたい。


 抱き締められたい。


 抱き締めたい。


 口づけをしたい。




「レアーお嬢様、到着いたしました」


「ありがとうございます」


 学院に入り、唯一言葉を発する事が出来る場所、この想いを!


 鞄を渡され、お礼を言い教室に向かいます。


 はぁぉ、やはり言えませんよね。


 教室に入り、挨拶も出来ぬまま、会釈を、目が合った方達に、その中にはメリアス、カイト、ジルキートの三人もいますが近付く者は誰もいません。


 ケルド王子により、私には近寄るなと言われたからです。


 自分の席に着き、午前の魔法学の用意をします。


 魔法学の先生と一緒に担任、学院長のローグガオナー先生が教室に入って来ました。


 まだケルド王子様は来ておらず、安心しておりましたが、ローグガオナー先生が私を見てこう言い放ちました。


「レアー、付いてこい! ぐずぐずするな!」


 ああ、また始まるのですね······でも、後少し、明日が夏期の休暇前最後の登校日。


 明日が半日、集会と教室での連絡事項が言い渡されるだけで終わります······計画が進みますのでもう、うふふ。


 学院長先生と一緒に二階の学院長室へ向かう階段を上がります。


「何を笑っておる! 気持ちの悪いガキが!」


 私はすぐに頭を下げ顔を引き締めます。


 階段を上りきり、正面の大きな扉が開かれ、中に通されました。




 午前が終わり、午後帰る間際まで飽く事無く、殴り、蹴りが繰り返されます。


「ふう、ふう、ふう、はぁぁ、夏の休み前だ、これくらいは良かろう、ふははは、休み中には本当の王位継承者一位になる、忌々しい血の繋がりが薄い弟なんぞが、現王の実子が第一王位継承者などとほざきおって! よし帰るぞ! レアー目障りだ! さっさと出て行け!」


 なんとか立ち上がり鞄を手に学院長室を出ます。


 壁を伝い、もたれ、痛む体に鞄から出したポーションを振り掛け、二本目を飲みほします。


 まだ、辛い痛みがありますが、なんとか立って歩くことが出来ます、壁に手をつきつつ進み、後ろの扉が開かれ、ケルド王子様達が出てきました。


 私は、跪き頭を垂れます。


 こちらに向かい歩いてくるケルド王子様の靴が見えたと思った時


 ドゴッ


 蹴り飛ばされたのでしょう、脇腹に酷い痛みが走り、飛ばされた先は階段です。


 途中からは転がり落ち一階の廊下に叩き付けられ、体は止まりました。


 起き上がれず、痛みのため声が出そうになるのを必死で堪えます。


「ふん!」


 ドガッ


「ではな、よしローグガオナー、伯爵令嬢を馬車まで連れて来い、城までの間はあいつを相手にする事にしよう、急げ!」


「はっ!」


 取り残された私は、離さなかった鞄からポーションを取り出し、全身に隈無くまなく浴びせ、最後の一本を飲みほしました。


「くぅっ」


 あ、足が折れましたね、ヒビが入ったのでしょうか? なんとか歩けますが馬車までなら歩けそうです。




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