雑居ビルの闇 第一話
落ち続けて、どのくらい時間が経っただろうか。
スーツをなびかせる風も、肌に打ち付ける空気の壁も、いつしか感じることがなくなり、重力に引かれるまま「無重力の時ってこんな感じか」などと考えていた。
瞬間。
頭が何かに触れたと思いきや、激痛を感じる間もなく、ただ永遠に続くような苦しみを残したまま、俺は何かにブチ当たり、割れた水風船と化した。
ぶつかった何かが床だと認識したのは、まるで何事も無かったかのようにそこに自分が立っていたと気がついた時だった。
「今……死んだのか?」
拳を作り出す開いて、身体が動くことを確認する。瞳が闇の中でも僅かに残った光をかき集め、脳に「確かに身体が戻ってきた」という情報を与える。
「これだから肉体などというものは困るな。」
闇の中から声がする。
「コ、コルウスが直したのか。」
「精神という器を世界に繋ぎ止めるためには、肉体という鎖が不可欠。私が住む器が壊れるまでは、必要ゆえ仕方ない。」
「俺の精神が壊れるまで、ね……」
あんなものを何度も繰り返されたら、いつしか器も確かに壊れるな、そう考えると、先程一度死んだという事実と苦しみを思い出し、激しい吐き気に身をよじらせた。
「--ゥおッ……」
何も出ないと分かりながら、肉体として正常に動く身体と脳は現状に満足できないらしい。
闇の中で、楽しそうに、静かにコルウスが笑う声がする。
「人間が物心付き、善悪を分け始めた頃から見ているが……ふふふ……何度見てもこれは笑えるな……ふふっ。」
人間をバカにしやがって。心の内でそう語りつつ、屈した身体を持ち上げる。
力が抜けた足に、震えながら力を込め立ち上がった時、そこがよくある古いビルの廊下だと気がついた。窓もドアも無く、ただ後方も前方も無限に長い闇が広がっていた。
「さて、探索開始としようじゃないか。私と小見野君の、誰にも感謝されない初仕事だ。」
私が見た世界はこんなにも汚い きむこ(人間) @kimuko3ningen
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