第43話 大地の異変
最近、土砂崩れで多くの民家が飲み込まれたり、突然地面に巨大な穴が空き、多くの人が落下して大きな被害を出していた。
大雨が降った訳でも無く、地震が起きた訳でもない。
防災の専門家や地質学の専門家は原因が分からないと言っている。
「怖いですよね、いきなり崖が崩れたり、地面に穴が空いたり物騒な世の中だよね」
「良宣君のいう通りだよね、本当、物騒な世の中だよ」
良宣と浜田室長は、冬華さんの入れたコーヒーを飲みながら寛いでいた。
「最近よくニュースで騒いでますけど、どのくらい起きてるんですか」
冬華さんの問いかけに浜田室長が待ってましたとばかりに答える。
気のせいか表情もキリッと引き締まった。
「ここ1ヶ月の間に崖崩れだけで20件。地面に穴が空いたのは8件起きています。8件の内3件はビルの倒壊に繋がり大きな被害を出しています」
「まあ、怖いわ」
「大丈夫です。冬華さんには僕がついています」
キリッと表情を決める。
「流石に自然災害に破邪の呪符・・・いや・・・疫病神の陣は効かんだろう。逆に災いを呼び寄せるぞ・・・きっと!」
呆れるように山ン本さんが呟く。
言われてみれば自然災害相手に流石に無理だな。
だが当の本人は何にでも対応できると思っている。
これはそのうち地獄の修行第三弾は確定か。
すると壁にかけてある呪いの絵達が喋り始める。
「旦那旦那・・・我が子のように可愛がって育てた娘が、どこの馬の骨とも分からん疫病神に連れて行かれますぜ・・・いいんすか・いいんすか・・・」
「・・・ヒヒヒヒッ・・いや、きっと旦那は隠れて泣くかもしれんぜ・・・」
「いや、きっと俺の可愛い娘に手を出しやがって、とか言って、奴を燃やすぜ・・・ヒヒヒヒ」
「貴様ら、俺様をからかうとはいい根性してるな。まとめて燃え尽きるか!」
一斉に黙る呪いの絵達。
外で急に大きな破壊音のようなものがした。
「・・・なんか、外が騒がしいな・・・」
山ン本さんがそう呟いて入り口のドアを開けて外を見る。
「何!〜〜〜」
山ン本さんの声に皆で外に出ると道路を挟んで向かいのビルが半分の高さしかなかった。
「エッ!・・・・何ですかこれ・・・」
「それはこっちが聞きてえ・・・」
よく見るとビルの周囲に穴がいていて、ビルがそのまま沈み込んだようになっている。
山ン本さんが周囲を探るような目つきで見渡している。
「オヤ・・・なんかいるな・・・逃がさん」
不意に山ン本さんがいなくなったと思ったら、向かいのビルの裏側で何か大きな破壊音がした。
周辺にいた野次馬たちが一斉に逃げ出す。
同時に道路に何かが落ちてきて大きな音を立てた。
茶色というか土色というかそんな色の肌をした3本角の鬼がいた。
「テメエ・・俺様の家の周囲で何やってんだ」
よろける様に立ち上がる鬼。
「・・・バカな・・・この金鬼バンコ様が人間ごときに・・・殴り飛ばされるなん・・・・」
山ン本さんの右アッパーが炸裂。
再び、金鬼バンコは殴り飛ばされる。
「物覚えの悪い野郎だ。1000年以上前に、俺様にボッコボコにタコ殴りされて、逃げ出したことを忘れたか」
金鬼バンコは怒りを露わにして山ン本を睨み付けている。
「何を言っている。貴様なんぞ・・・まさか・・・・魔・・・魔王?」
「そうだ。ようやく思い出したか。貴様、たかが1000年経ったぐらいでボケるのか・・・俺様の家の周囲を騒がし、俺様の平穏な時間を乱すとは万死に値する罪だ」
山ン本さんは、自らの指の音を鳴らして再び殴る準備万端のようだ。
「地獄に送られる準備は出来ているか!」
「エッ・・・魔王の家・・・・・周囲?」
慌てて周囲をキョロキョロと見渡す金鬼バンコ。
そしてひとつの看板を目にする。
「画・・画廊・・・山ン本・・・?」
その看板を目にして凍ったように動きを止める。
「そうだ。その看板にある通りだ。理解したか!」
「・・・・・・」
その瞬間、1000年前に自ら魔王山ン本に喧嘩を売り、ボッコボコにタコ殴りにされ、ほうほうの体で逃げ出した時のことが脳裏にフラッシュバックする。
金鬼バンコはその時のことを思い出しただけで恐怖で吐き気がしてきた。
その時、再び魔王に喧嘩を売るのはやめようと考えたのに、知らなかったとは言え、自ら地雷を踏んでしまったことにようやく気がついた。
「・・・こ・・これには・・・深いワケが・・・」
「とりあえず、地獄の底で反省しろや!」
「土石障壁」
いきなり金鬼バンコと山ン本の間の地面からに土や石の激しく吹き出してきた。
「小賢しい」
拳圧で吹き飛ばすと既に金鬼バンコは姿を消していた。
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