第41話 疫病神の力
「良宣。なんで付いてくる」
画廊山ン本店主であり魔王でもある山ン本五郎左衛門は思わず呟いた。
「何を言ってるんです。山ン本さんこそ付いて来ないで下さいよ」
良宣もそっちこそついてくるなと言う。
二人は少し離れたところにいる二人の人物を尾行していた。
特殊事案課(通称:陰陽師課)浜田室長と冬華さんの二人だ。
「仕方ねえな、共同でいくぞ」
「仕方ないですね、そうしましょう」
良宣と山ン本は共同戦線を張ることにした。
二人が連れ立って歩いている後方を一定の距離を空けてついていく。
二人は和菓子屋に向かっていた。
数分前、冬華さんが甘味堂の和菓子が大好きだと言ったら、浜田室長が僕も大好きなんですと言ったら、一緒に買いに行くことになったらしい。
浜田室長が和菓子好きなんて聞いたことないが?
不意に浜田室長が振り向く。
慌てて隠れようとしたら
『慌てるな、奴らからは俺たちは見えん』
『エッ・・・』
『俺を誰だと思ってる。魔王に不可能の文字は無い。空間に歪みを作り出し、光の屈折を変え、さらに俺たちの気配を遮断している。振り向いたくらいで見つけることは不可能だ』
『でも冬華さんなら分かるのでは・・・』
『冬華でも分からんぞ。この術のことは、一切教えてないから少しの違和感を感じたとしても見破ることはできん。ついでに言っておくと、俺たちの声も周囲には聞こえんようにしてある。完璧だろ』
術を発動させている気配も動作も無く術を発動させている。
さすが魔王を名乗るだけはある。
段々と甘味堂に近づいていく、看板が見えてきた。
『なんだ、本当に甘味堂かよ。つまらん』
『どこに行くと思ってたんですか・・・』
『近くの海浜公園でボートにでも乗ろうとして、拒否され、浜田が絶望するまで予想してたんだがハズレか!』
『魔王でも未来は見えないんですね』
『見ようと思えば見れるが、未来は不確定で常に揺れ動いている。そんなもん見てもつまらん』
『・・見れるんですね・・・』
『言っただろう。魔王に不可能の文字はない』
急に周囲が騒がしくなった。周辺の通行人がいきなり周りの人々を罵り出した。
それも一人では無く次々に通行人が罵り始め、周囲の建物の中からも罵声や罵る声が聞こえ始めた。
やがて殴り合いの喧嘩に発展。
『誰か魔力で操ってやがるな』
『誰が・・・あの二人は大丈夫?』
よく見るとあの二人だけ、何ともなく。周囲の状況に戸惑っていた。
『この程度の魔力じゃあの二人はびくともしないぞ。冬華は当然として、浜田は取り付いている疫病神が強烈だ。このぐらいじゃびくともせんよ。いや〜やはり神と呼ばれるだけある。疫病神様様だな』
なんと、そんなに強いのかよ。疫病神。
『オッ。あのビルの上だな。ウ〜ン・・・どこかで見た顔だな・・・思い出せん』
しばらくするとそのビルの上から漆黒の2本角と漆黒の肌の鬼が飛び降りて、冬華さんと浜田室長の前に降り立った。
「我は怨形鬼ウラル、我術が通じんとは貴様ら何者だ」
魔王山ン本はしばし考え込んでいた。
『怨形鬼ウラル・・・あっ・・・思い出した。阿黒羅王とか名乗っていたチンケな奴の手下どもだ』
『阿黒羅王?』
『弱い癖にやたら俺たち十三人の魔王に突っかかって喧嘩を売る馬鹿共だ。いつもぼこぼこにされてたな。俺んとこにも3回喧嘩を売りにきてボコボコに返り討ちにしてやった。最後にボコボコにしてやったのは1000年ほど前か・・・』
『そんなに弱いの?』
『俺たち魔王を人間で言う大人としたら、保育園児みたいなもんだ。しかし、ただ人間から見たら脅威と呼べる強さだぞ』
ビルの上から降り立った怨形鬼ウラルに前に浜田室長が立ちはだかった。
「冬華さん、危険です。下がって」
「ハイ・・・浜田さんカッコイイです」
「カ・・カッコイイ・・カッコイイ・・・カッコイイ・・・生きててよかった」
浜田室長の目から感動の涙が流れている。
「・・・お・・お前大丈夫か・・・」
敵である怨形鬼ウラルに心配される浜田室長。
「愛と感動を胸に・・漢浜田の力を見せましょう!」
「舐めるなあ〜・・・邪心想起」
黒い煙が浜田室長を包み込もうとした時、灰色の矢が黒い煙を切り裂き、怨形鬼ウラルに命中する。一瞬身を固くするが何も起きない。
「驚かすんじゃ・・・」
殴りかかろうとしたら足を滑らせ大地で顔面を強打した。
『浜田は破邪の呪符しか使えないと聞いたが、あれは破邪の呪符か?光の色がおかしいぞ!白銀の光のはずが灰色の光だぞ?」
『自分にも灰色に見えましたよ???』
「おのれ〜邪心想起」
再び黒い煙が襲い掛かるが、灰色の光に切り裂かれ、灰色に光は再び怨形鬼ウラルを貫くがウラルは何ともない。
再び殴ろうとしてまた転び、さらに強く顔面を強打。牙が1本折れたようだ。
『良宣。あいつ本当に人間か?』
『何か分かったんですか』
『破邪の呪符の霊力に疫病神の霊力が混じり込んでいる』
『疫病神の霊力・・・』
『どうやらあの灰色の光に貫かれると、浜田が受けるはずの不運不幸の結果を倍増した形で貫かれた奴が肩代わりするようだ。結果として浜田は無傷』
『エッ・・・それって』
『ある意味最強だな。攻撃側からしたらとんでもない話だ。攻撃すればするほどすぐさま不幸が襲いかかってくる。しかも相手は無傷』
『ここまでくると破邪の呪符ではなく、疫病神の陣といったほうがいいですよね』
『そうだな・・・』
「クソ。覚えてろ・・・」
捨て台詞を残し怨形鬼ウラルは逃げていった。
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