第38 話 浜田の決意
水鬼の一件があって2日後から、急遽睡蓮の陣の訓練が始まった。
イメージ力を鍛え小さな睡蓮の花を作り出す訓練が続いている。
自分が訓練している横で、なぜか特殊事案課浜田室長が陰陽師の訓練をしていた。
「良宣!集中力が落ちてますよ、花のイメージが崩れてきてます」
「ハ・・・ハイ」
「あの〜」
「良宣、周囲のことに気を取られずに集中です」
「あの〜」
「何です。浜田君」
「自分は陰陽師では無いんですが・・・」
「特殊事案課でしょ」
「ア・・ハイ・・ですが警察官であって陰陽師では・・・」
「自分の身は自分で守れなくては足手まといです。現場で死にますよ」
「そこは皆さんに守っていただければ・・・」
「ホォ〜・・・自分の今の仕事は何かしら・・・」
「・・・ただの・・・警察官です」
「特殊事案課、通称:陰陽師課でしょ。そこのトップが君だよね。相手からしたら真っ先に狙うべき一人。残念、近いうちに惜しい人を失うことになるわね」
母さんは浜田さんに向かい合掌した。
「・・・・・」
「これはもう冬華さんに嫌われること確定ね」
「エッ・・・・・」
「あの娘は、弱音を吐く奴や弱い奴が大嫌いだから・・・きっと凛々しい王子様が現れたらそっちについて行ってしまうわね・・・アッ・・・これは、私の勝手な呟きだから気にしないでね」
母の言葉に浜田室長は驚愕の表情を浮かべた。
「さあ、良宣。訓練を続けるわよ」
「待ってください」
「何かしら、訓練の邪魔だから帰ってもらっていいわよ」
「俺に修行をつけてください。やり抜いて見せます」
その瞬間、母の口角がわずかに上がった。
哀れ、浜田室長が母の術中に嵌った瞬間であった。
「弱音を吐くようじゃね・・・」
「
「本当かしら」
「漢、浜田に二言はありません」
「素晴らしい・・・フフフ・・・そんな浜田君をみたら冬華さんメロメロになっちゃうかもしれないわね」
浜田室長は目を瞑り、何度も頷いている。どんな妄想に浸っているやら。
母は冬華さんが浜田さに惚れるとは言ってないし、メロメロになるかもと可能性としてしか言ってない。
母のことだ、きっと浜田さんが絶叫するようなコースを考えているに違いない。
昔から訓練、修業となると手加減ということを完全に忘れてしまう悪癖がある。
自分もどれほどその悪癖に泣かされたことか、恐るべき修行を思い出して身震いしてしまう。
大体基準が間違っている。自分ができるから他の人もできるはずと考えている節がある。
自分の母ながら、母は特殊だ。圧倒的な身体能力に、陰陽術のセンスが合わさりとんでもない力を発揮できるのだ。それを、他の人にも同じことを求める。どうやっても無理でしょ。
しかし、ここでこんなことになるとはね。浜田室長の疫病神はい〜い仕事してますね。
さりげなく最悪の方に連れて行きますね。
心の中で思わず合掌してしまった。
大地に転がる浜田室長。
「・・ダメだ。もう限界だ。・・・寿命星がひときわ輝いて見える・・・もう無理だ」
大地に転がりながらうわ言のように呟く。
「どうしたの、まだまだよ。限界を超えなさい」
母の無情なる声。
「・・も・・もう・・無理・・・無理です・・」
「ハァ〜きっと冬華さんガッカリしちゃうわね・・・」
ピクッ。微かに浜田室長が動いた。
「こんなぐらいで弱音を吐く人は、冬華さんはきっと口も聞いてくれないわ・・・残念だわ」
ゾンビの如く、浜田室長がゆっくりと立ち上がる。
「漢、浜田に不可能の文字はありません・・・次は何ですか」
「冬華さんは、弱音を吐く人が嫌いなのよね・・・」
「漢、浜田この先弱音は吐きません。・・・次行かせていただきます」
「素晴らしいは、きっと浜田くんの姿を見たら冬華さん、感動しちゃうかもしれないわね」
「ウォ〜〜〜」
浜田室長は、叫び声を上げながら再び地獄の修行へと突入していくのであった。
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