第37話 水鬼

水色の肌をした1本角の鬼がいた。阿黒羅王の手下水鬼トウタである。

阿黒羅王により封印を解かれ、衰えた力を取り戻すべく人の魂を喰らうため、人間相手に水の力を行使していた。

今日も多くの魂を喰らい徐々に力を取り戻しつつあった。

そして、多くの命を取り込みそれを完全に自分の力にするには少し時間がかかる。その間、邪魔が入らぬようにするため自分のねぐらに帰えろうと山中を移動していた。

実に上機嫌のままのんびりと移動していた。

山中にひっそりと目立たぬ場所にある湖を目指して。

そんな水鬼トウタを猛烈な速度で追いかけるものがいた。

だが、水鬼トウタは気がつかぬままのんびりと移動していた。

そんな水鬼トウタの顔面に強烈な一撃が加えられた。

由佳の右ストレートが油断し切った水鬼トウタの顔面にモロに入った。

ただの右ストレートではない。陰陽術で強化され、威力を大幅にアップした巨石をも砕く一撃。

吹き飛び巨木をへし折りながら転がる水鬼トウタ。

森に降り立つ由佳、良宣。浜田室長は完全に気を失い、子供の姿の又三郎に担がれていた。

「良宣。気を抜かないように!」

頷く良宣。

良宣は破邪の呪符を発動させ、精霊アクレピウスを呼び出す。

頭を左右に振りながら立ち上がる水鬼トウタ。

「貴様ら、何をする」

いきりたつ水鬼トウタ。

「何をだと!多くの人の命を奪った貴様にそれを言う資格は無い。風戟覇」

突風と共に巻き起こる竜巻、その風に含まれる真空の刃。

「水壁」

突如、水鬼トウタの周りを水の壁が覆った。

「そんなもので防げると思うな!」

竜巻が水壁を切り刻みぶち破り、水鬼を切り刻む。

「グォ〜・・・」

吹き飛ばされる水鬼トウタ。

「俺様を舐めんじゃねぞ、街中で溺れた奴らと同じ目に合わせてやる・・・邪水生成」

由佳、良宣、浜田の周囲で小さな黒い霧のようなものが弾けた。

「・・・何・・・」

「そんな小手先のチンケな技が通じる訳がないだろう。貴様こそ陰陽師を舐めんじゃねえぞ。雷撃破」

雷が水鬼トウタを捉え撃ち抜く。

「クッ・・・」

水鬼トウタが逃げようとした方向に雷を纏った白い虎が現れた。

母さんの式神雷虎。かなり戦闘力の高い式神らしい。

雷虎の唸り声が周囲に響きわたる。

「クソ・・・こうなれば貴様らまとめて葬ってやる・・・」

水鬼トウタの魔力が急激に高まっていく。

「くらえ、邪水奔流!」

水鬼トウタの周囲から黒い津波が発生して襲いかかってきた。

「睡蓮の陣」

足元を中心にして,直径20m程の大きさの光り輝く巨大な睡蓮の花が咲く。

細長く先端が尖った光り輝く花びらが幾重にも重なる睡蓮の花から,黒い睡蓮の花が無数に溢れて巨大な黒い睡蓮の花となり、黒い睡蓮の花は黒い津波に正面から向かっていき正面からぶち当たった。。

黒い睡蓮の花は、黒い津波をどんどん吸い込んでいく。

「フフフフ・・・・黒い津波がいつまで持ちますかね。おそらく向こうは有限。こちらはほぼ無限に吸い込みますよ・・・フフフフ」

怒涛の勢いで押し寄せてきていた黒い津波が徐々に弱くなっていく。

それでも問答無用で黒い津波をドンドン吸い込んでいく黒い睡蓮の花。

黒い津波は、黒い大河となり、やがて黒い小川となり、そして消滅した。

片膝をつき、肩で激しく息をする水鬼トウタがいた。

「どうやら、ここまでのようですね」

「舐めるな、黒霧!」

突如、黒い霧が正面を覆い始める。

黒霧の方角で何かにぶつかる音がした。

同時に黒霧が晴れていく。

水鬼トウタが透明の壁に閉じ込められていた。

「逃げようとしましたので、次元断層結界に閉じ込めてあります」

精霊アクレピウスが水鬼トウタを結界に閉じ込めていた。

「良宣様の霊力による攻撃は通しますから大丈夫です」

良宣の背後に巨大な青い炎の鳥が現れた。

「聖炎滅魔!」

巨大な青い炎の鳥から無数の青い炎の鳥が飛び立ち、結界内へ殺到する。

「ウォ〜〜〜クッソ・・・・・」

結界内は青い炎で満たされ、全てのものが燃やし尽くされ浄化された。

結界内にはチリひとつ残されていなかった。

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