第35話 疫病神

「オイ、良宣。あいつをどうにか出来んのか」

画廊山ン本の店主魔王山ン本が呆れるように呟く。

「僕に言われても困ります。僕も被害者の一人ですよ」

二人の目の前には、妖怪雪女とも知らずに熱心に冬華に話しかける特殊事案課浜田室長がいた。

浜田はちょくちょく良宣を捕まえて一緒に画廊山ン本に来ていた。

影が薄いと言って嘆いていたのが嘘のようにイキイキとして話している。

「いっそ呪いの絵でも売りつけるか」

「呪いの絵なんてあるんですか」

「ここは、その専門店だぞ。呪いや悪霊の取り憑いた本物の名画を格安で購入(弱みにつけ込み買い叩く)。たいていの絵の呪いは簡単に取り除けるし、悪霊は俺の手下にして名画から模写絵に移らせて、絵は高値で売却。呪いや悪霊の絵に困っている人は絵を処分できて助かり、俺は手下とお金が手に入り、第三者は名画が買えてハッピー。さらについでに魔術で名画の模写もすぐできて模写絵も売れても困る人は誰もいないだろう」

「まあ、言われてみれば確かにそうですね」

「店の奥に行けば、世にも珍しいしゃべる絵がゴロゴロいるぜ。手下とはいえ、奴らを相手にしてると全て燃やし尽くしてやりたくなることがある」

「すごくウザそうですね」

「機会があったら奴らと話してみるといい、魔王の俺でもイラつくほどの馬鹿どもだ。きっとお前も奴らをまとめて処分したくなるぞ。ああそうだ、その時は建物は巻き添えにしないでくれよ。一応ローンがあるんだよ」

「魔王なんでしょ・・・ローン?」

「画廊は仮の姿なんだが、一応ローンがあった方がそれらしいだろう。わざわざそんなことしなくて問題ないんだかな。その昔、悪徳領主や悪徳大名どもをぶちのめした時に、手下の百鬼どもが勝手に金塊や小判を根こそぎ持ってきたから一応腐るほど金はある」

「・・・・・」

「浜田の奴に2〜3枚タリズマニックアートとか言って店にある呪いの絵を売りつけてみるか。奴に取り憑いている疫病神と絵の呪い。マイナス×マイナスでプラスになるかもしれんぞ」

「僕は、マイナス+マイナス=マイナスの可能性が高いと思いますよ」

「そうか、やはり奴で実験してみるか。何事も実験は大切だ。呪いの絵の新たな活用法ができるかもしれんぞ。もっぱら浜田専用だと思うが。奴の疫病神のパワーはかなり強烈だ。そのパワーと対抗できる絵となると・・・」

山ン本さんはしばし考え事に集中し始めた。きっと店にある呪いの名画をセレクトしてるんだろうな。

「・・・あの絵は執念が強すぎる・・・・絵はパワーが足りん・・・いや、パワーは俺が不足分をくれてやればいいか・・・・だが・・・不足してるよな・・・あれは・・・・足りん・・」

どうやら本気でタリズマニックアートとして浜田さんに、呪いの絵を売ろうと考えているようだ。

浜田さんに取り憑いている疫病神が、疫病神としてい〜い仕事してますね。

その時、浜田さんのスマホが鳴った。緊急呼び出しのようだ。

すごく嫌そうにスマホで話してる。スマホを切った浜田さんに

「お仕事頑張ってくださいね」

冬華さんの言葉に

「任せてください。そのための特殊事案課ですから」

表情が急にキリッと凛々しくなった。いつもの疲れた顔はどこにいった。

「良宣君いくよ。出動だ」

「エッ・・・僕は民間人ですよ。特殊事案課じゃないですよ」

「由佳の姉御が現場に一緒に来いとの仰せだ。兄貴と同じく俺に拒否権は無い。文句は、由佳姉御に言ってくれ」

「つまり、僕にも拒否権は無いと言うことですね」

「嫌なら、自分で直接言ってくれ。俺には無理です」

「ハァ〜・・・!仕方ない・・・」

浜田さんの運転する車で現場に向かうのであった。

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