第32話 浜田室長の悩み

特殊事案課(通称:陰陽師課)浜田室長は、特殊事案課の部屋で一人悩んでいた。

「なぜ・・・俺一人なんだ・・・なぜ部下がいない」

この特殊事案課の所属は浜田一人でスタートが決定した。

特殊事案課から逃げれないなら部下にやらせようと考えたら、その部下が一人もいない。

いや、正確に言うと人間の部下が一人もいない。

つまり人間ではない部下がいる。

「私がいるでしょう。一人じゃないでしょう!一人じゃ!!!」

風の精霊フレイが怒ったように空中に仁王立ちしていた。

主の理々姫から特殊事案課勤務を命じられてここにいる。

「何か幻覚が見える。幻聴が聞こえる・・・疲れてるに違いない。そうだ、早退しよう。そうだそうだいい考えだ」

「由佳に報告よね!」

「エッ・・・やだな、冗談ですよ。冗談」

そう言う浜田の顔は引き攣りまくっていた。

精霊フレイは完全に戦闘特化。書類は作れない。

書類関係は全て浜田室長が作成している。

仕事量は増えることはあっても減ることは無い。



先日、合コンに行く直前、由佳の姉御がご祈祷してくれるとのことでご祈祷を受け、清々しい気持ちで合コンに参加した。

その結果は、惨敗。今までの中で、もっとも酷い。

もう完全に空気です。これは完全に一人居酒屋状態。

10人いるのに、一人居酒屋です。

もしかして、ご祈祷という名の呪いなのか。悠馬の兄貴に苦情を言ったら

「絶対にそんなことを由佳に言うな・・・由佳が切れるぞ」

「・・・ちょっとした苦情じゃないですか・・・」

「なら、好きにしろ」

そう言って俺に向かい合掌した。

「浜田という勇者がいたことを俺は覚えているだろう。惜しいやつを無くした」

「いやいやいや、俺生きてますって」

「きっと、あいつの性格からして、お前に睡蓮の陣を使うかもしれん。そうなるとチリも残らんな。いや〜惜しいやつを無くした。チリも残らんから骨も拾ってやれん、許せ」

「睡蓮の陣???俺人間ですよ!!!」

「浜田、お前はきっと、夕暮れ直近の空に浮かんでるあの北斗七星の横に小さな星が見えているのかもしれん」

悠馬の兄貴は、そう言って夕暮れ空に浮かぶ北斗七星を指差した。

その動作に釣られるように夕暮れの空北斗七星を見た。

「何を言っているんですか、そんなこと・・・エッ・・・エッ〜〜〜」

「エッ・・・まさか見えるの・・・冗談だぞ・・冗談・・・本当、冗談だぞ」

「「・・・・・・」」

「浜田、お前の視力はいくつだ、アフリカのサバンナにいるマサイ族みたいに、驚異的な視力で視力10とかじゃないよな」

「・・・いたって普通ですよ・・視力1、0です・・・」

「・・・まあ、気にするな。某コミックでの話だ・・・でも日本の地方によっては寿命星と呼ぶところもあるらしいな・・・気にするなよ。俺の勝手な呟きだ・・・」

「そういえば去年、一緒に合コンに参加した人がいましたよね・・・なんか由佳の姉御の前でその人の名前を言いたくなりそうだな〜・・・僕の勝手な呟きですよ・・・」

「・・・急用を思い出した」

悠馬の兄貴は風のように去っていった。



浜田室長は息抜きにコンビニまで出かけることにした。

ちょうど玖珂良宣とバッタリ出くわした。

「オッ、良宣君」

「浜田さんお久しぶりです」

「良宣君、頼みがあるんだけどな」

「頼み?」

「書類作成管理のできる式神はいないかな」

「ハッ?」

「書類作成管理だよ、自分一人だから書類管理に困ってんだよ」

「自分で式神の術を習得して、式神に自分で教えるしかないですね。良くて数年かかるかと・・それよりも、人員を増やして貰えばどうです」

「できたばかりで、この先、海とも山ともわからん状態で人は回せんと言われたよ」

「ご愁傷様です。あとは母に相談してください。母の式神軍団なら日常的に書類作成管理してますよ。そこに至るまではかなり大変だったらしいですが」

「頼めるわけないでしょ」

そんなやり取りをしている二人に近づいてくる人がいた。

「オイ・・・良宣」

「アッ・・山ン本さん」

「どうしたこんなところで」

「コンビニに行く途中で特殊事案課の人に会ったからちょっと立ち話です」

「なんならうちの画廊に来な。コーヒーぐらい出してやるぜ」

そう言ってすぐ目の前のビルを指刺した。そこには、画廊山ン本の看板が掲げられたビルがあった。

「最近、確かこのビルの周辺で人が倒れた事件があったよな・・・・」

首を傾け考え込む浜田。

そんな浜田に構わず二人ま画廊に入っていく。

慌てて二人追いかける。

店の中は落ち着いた作りになっている。

「冬華、コーヒーを出してやっくれ。そこに座ってくれ」

来客用を思われるソファーを指差す。

「お客様ですか」

「玖珂の倅と連れの特殊事案課の方だ」

奥から二十歳ぐらいに見えるエプロン姿の女性が出てきた。

「ヘェ〜君が良宣君か・・才能あふれる逸材と、噂は聞いてるよ」

「可憐だ・・・」

声の方に良宣と山ン本が向くと、浜田の様子がおかしい。

「私、特殊事案課の浜田と申します」

そう言って冬華さんに名刺を渡す。

「素晴らしいお仕事をされているんですね。冬華と申します。よろしくお願いします」

「こんな素晴らしい日が訪れようとは!!!」

「ソファーにお座りください。今コーヒーをお持ちしますね」

「ハイ、ありがとうございます」

いつも疲れ果て、人生の終わりのような表情をしているのに、表情が一変して満面の笑顔に変わり、ソファーに座る。

「オイ、良宣・・・ありゃなんだ」

「もしかして、冬華さんに一目惚れですか・・・」

「人間と妖怪だぞ・・・」

「やっぱり、冬華さんはそうでしたか」

「あいつは自分より弱いやつ、尊敬できんやつにはなびかんぞ・・・」

「浜田さんはなぜか影が薄くて、女性に相手にされないですよね」

「当たり前だ。疫病神の一種が取り憑いてる。しかもかなり根深い。少しくらいのお祓いではどうにもならん」

「エッ・・・わかるんですか」

「俺を誰だと思ってる。魔王だぞ。妖怪や魔物の王の一人だ。だが、かなり同化してるから俺でもすぐにどうこうできん。しばらく様子見だな」

何も知らぬ浜田は幸せいっぱいの笑顔でコーヒーを飲んでいた。 

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