第30話 夜空を駆ける魔王

雲ひとつない満月の夜。魔王山ン本五郎左衛門は夜空を走っていた。夜空を駆けているのだ。

配下の百鬼を呼び出しているより、自分が動いた方が速いそう判断して、走っていた。

夜空を走りながら逃げた3体の痕跡を追っている。

「見つけたぞ!」

山中に逃げた3体の位置を把握した。その場所に向かい一気に加速して、そして地上に降り立った。

山ン本の目の前には、四目六腕の獣身で鋼鉄の牛の頭をもつ古代中国で蚩尤しゆうと呼ばれた化け物が3体いた。

伝承では、神農の子孫だとか、石や鉄を食べるとか、同じ姿の兄弟が81人いるとも言われている。性格は極めて邪悪かつ凶暴そして貪欲と言われる。

風、雨、煙、霧を操り戦うとも言われていた。

山ン本と相対した蚩尤たちは、ほこげき、剣、刀、弩弓を構えた。

「大人しく。戻れ」

蚩尤たちから風に煽られた煙が吹き付けてくる。

周囲の植物が煙に触れると萎れ始めた。

「フン・・・毒煙か、こんなものがこの俺に効くとでも・・・舐められたもんだ」

煙の中から、刀、戟が襲いかかってきた。

刀、戟を素手で受け止める。

「こんなもんで俺が切れるとでも思ったか」

素手で受け止めた刀と戟をそのまま握りつぶし、蹴りを放つ。

山ン本の蹴りを受けた1体の蚩尤が大地を転がる。

背後からと横から蚩尤が遅いかかっくてくる。

飛んで来る弩弓を叩き落とし、剣と矛を受け止め握り潰し、蹴り飛ばす。

「どう足掻いても、俺には勝てんぞ、大人しくしな」

「ヴォー・・・・」

咆哮をあげ、3体の蚩尤が光り始める。

光る3体が重なったと思ったら、巨体となった蚩尤がいた。

「ホ〜・・・勝てないから合体するか・・・」

巨大な拳が山ン本に襲い掛かる。

吹き飛ばされる山ン本。

「少しはやるようになったか、しかし、デカくなってパワーが少し増えたくらいじゃ話にならんぞ」

立ち上がると急激に周囲の温度が上がり始める。

地面の枯れ葉が一瞬で消し炭になる。

大地からゆらゆらと陽炎が立ち上る。

そして、周囲に8個の光る玉が浮かび上がた。

「この魔王山ン本五郎左衛門様が、特別に貴様を地獄の底に送ってやろう・・・輪転八熱地獄!」

吹き飛ばされた位置から8個の光の玉が一気に距離を詰め、蚩尤に命中する。

「喜べ!貴様のために特別に地獄の門を開けてやろう。誰もが通れる訳じゃないぞ、貴様だけのVIP待遇だぞハッハハハハ・・・・・地獄の底で八熱地獄を巡るがいい」

「ヴォ〜〜〜」

突如現れた門が開き、蚩尤を吸い込んでいった。

「おや・・・1体分離して逃げたか・・・逃げられると・・・」

蚩尤を追いかけようとしたその時、蚩尤が逃げた方角から巨大な炎が立ち上がった。

「あの炎は、聖炎滅魔・・・玖珂の婿か・・・」

しばらくすると玖珂悠馬と息子の良宣がやって来た。

「久しぶりですね。山ン本さん」

「悠馬、撃ち漏らしを片付けてもらってすまなかったな」

「いえいえ、今回は息子の良宣の良い経験になりました」

「息子の経験?まさか、先ほどの聖炎滅魔は・・・」

「はい、良宣が放ちました」

マジマジと良宣を見ると昔懐かしい霊力を感じると同時に視界にある人物が出てきた。

狩衣を着て、人差し指を唇の前に立てたその人物は、玖珂鳳仙。山ン本にとって友と呼ぶべき男だった。

『このビビリ男が、てめえが守ってんなら正体を晒せばいいだろう』

『久しぶり、まだその時期じゃないよ、時期が来れば教えるさ』

『お前に似てビビりにならなきゃいいがな』

『ビビりは生き残るには大切さ』

『フン・・・まあいいさ、時間も空間も関係無い存在なんだから、俺の画廊に顔を出せや。飲めるかどうかわからんがお茶ぐらい出してやる』

『そのうち遊びにいくさ』

玖珂鳳仙が姿を消した。

「悠馬、こいつなかなかいい霊力を持ってんじゃねえか」

「将来有望ですよ。しかし、山ン本さんが相手だと相手が可哀想ですね。なんせ、地獄の底に直接送られてしまいますからね」

「俺は、敵対する奴には容赦しないからな。今回は助かった。後でうまい酒を送っておく」

「期待してますよ」

「坊主、頑張れよ」

そう言い残して山ン本はまた夜空を駆けていった。

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