第29話 魔王の嘆き
画廊山ン本に一人の男が入ってきた。
黒いハンチング帽を深く被りサングラスをしていた。
「いらっしゃ・・・・」
男から強烈な殺気が放たれた。
雪女はへたり込み、悪霊や怨霊の取り憑いている絵は、自ら奥へと逃げた。
画廊店主山ン本は動じることなく、キセルを吹かしていた。
「おい、商売の邪魔をしにきたのか、神野悪五郎。喧嘩ならいつでも買うぞ」
「ハッハハハハ・・・近くにきたから寄ったまでさ。その昔、僕らを含めた十三人の魔王達で誰が大魔王にふさわしいか競いあった中じゃないか。でも、結局は決着が付かなかったが、今更山ン本とことを構えるつもりはないよ」
「フン・・200年ぶりかと思えば、とんだ挨拶をしてくれるぜ。お前にここを教えた覚えはねえぞ・・・」
「ここの画廊は、人間達のSNSの世界で結構有名になりつつあるよ」
「チッ・・・だから言わんこっちゃねぇ・・・」
不機嫌そうにキセルを吹かしている。
「SNSに映ったここの画像から山ン本の気配を感じたから、試しに覗いてみるかと思ったのさ」
「フン・・・」
「久しぶりに山ン本の顔も見たし帰るとするさ。その前に、一つ謝ることがある」
「なんだ」
「先ほどの殺気のせいで、店の前でたくさんの人が巻き込まれて倒れちゃったかもしれない。きっと夕方の全国ニュースやSNSで話題沸騰かもね。ハッハハハハ・・・じゃあね」
神野悪五郎はそう言い残し、一瞬で姿を消した。
「あの野郎・・・冬華、立てるか」
「は・はい・・」
「外を覗いてみてくれ」
雪女の冬華は画廊のドアを少し開いて外を見る。
そこには、通行人が折り重なるように倒れている姿があった。少なくとも二十人はいるように見えた。
「通行人がたくさん倒れてます・・・」
「仕方ない。救急車を呼んでやれ」
渋い表情の山ン本だった。
「やれやれ、やっと片付いたか」
神野悪五郎の放った殺気で多くの人が倒れ、画廊の前は救急車、警察、報道陣、野次馬でごった返し、警察の事情聴取や報道陣の質問に会いうんざりしていた。
まさか、神野悪五郎が放った殺気により倒れたとわ言えず、店内にいて外の様子がおかしいと思い外を見たら人が倒れていたと繰り返すしか無かった。
報道陣は店の前に陣取り放送をする。
通行人は次から次とスマホ片手に動画撮影してSNSにアップする。
まさにお祭り騒ぎのような喧騒ぶりだ。
深夜遅くまで騒ぎは続き日付が変わる頃には、やっと静かになった。
だが、せせら笑っている神野悪五郎の姿が想像できて怒りが収まらない。
「悪五郎め、次にあったら覚えてろ・・・」
「大変です!」
奥から冬華が慌ててきた。
「・・・今度は何だ・・・」
「絵が3体いません」
「どうゆうことだ。逃げ出せないように障壁が張ってあるはずだぞ!」
「障壁の一部に綻びが見られます」
「チッ・・・悪五郎の殺気に当てられて障壁の綻びから逃げ出したか。逃げ出したのはどれだ!」
「1週間前に買い取った3本の巻物に取り憑いている3体です」
「あれか・・・全くと言っていいほどに話が通じねえ・・・凶暴なだけの馬鹿野郎どもか」
山ン本は腕を組んで目を閉じて集中する。自らの魔力を薄く広く周囲に飛ばし気配を探る。
障壁の綻び部分に微かに神野悪太郎の魔力があった。
「あの野郎〜、障壁に穴を開けたのは悪太郎だ。野郎〜許せん」
「山ン本様、悪太郎より逃げ出した連中を探しましょう。放っておくと何をするかわかりません」
気を取り直し、再びレーダーのように自らの魔力を飛ばして反応を探る。
だが、反応する気配は無い。微かに奴らの足跡を感じるのみだった。
「逃げ出してから時間が経ちすぎてる、周囲にはいねえな。微かに残る奴らの足跡を追うしかないか・・・業腹だが陰陽師の玖珂に連絡を入れておけ。奴らはここから南西方向に逃げている。俺は奴らを追う」
「承知しました。ですが借りを作ることになりますよ」
「仕方あるまい、放っておけば大事件になり、さらに大騒ぎになる。奴らとは500年前の鳳仙の頃からの古い付き合いだ、よろしく頼むと言っておいてくれ」
「承知しました」
山ン本は夜の街に飛び出して行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます