第28話 画廊山ン本
賑やかなメイン通りには、コンビニ、カフェの全国チェーン店、フェミレスチェーン店など立ち並ぶ。その通りから1歩裏通りに入ると、営業しているのかどうか怪しい店や空き地が立ち並ぶ。その中にある1軒の画廊。模写画廊山ン本。名画の模写絵を専門に取り扱う珍しい画廊だ。
ただ単に模写した絵ではなく、必ず一部元となった絵とは違う描き方をしており、そこが面白いと根強いファンを持っていた。
そして、おそらく世界でここだけ、模写絵の他に呪われた名画も扱っていた。
特に人物画は人の思いがこもりやすい。世の思いに引き寄せられ、妖や悪霊などが絵に取り憑くことになる。似たようなことは、絵だけでは無く、人形や思い入れのある品などに同様のことが起こりやすい。絵以外であっても状況によれば、有料で引き取ることもしていた。
そんな、世にも珍しいこの画廊がひょんなことからSNSの世界で話題になっていた。
店頭に飾ってある模写絵が笑ったとか目が動いたとかという話しが投稿されるのだ。
そのせいか、店の前をスマホ片手にうろうろする連中が後を立たない。そのため、店頭に飾っていた絵は、店内に引っ込め、店頭には何もおかないようにした。
さらに、鬱陶しいので外から店内が見えないようにしていた。
「店主、どうするんですか、またスマホ片手にうろついている奴らがいますよ」
受付嬢兼接客係の冬華がうんざりした顔で呟く。
「ほっとけ、そのうち来なくなるさ。だいたい、絵の連中が暇そうだから気晴らしに店頭に飾りましょうと言って飾ったにはお前さんだぞ。俺は言ったぞ、あいつらが大人しく静かに飾られているわけが無い。必ず奴らやらかすぞと!」
画廊店主の山ン本は、スーツ姿で今では珍しいキセルをくわえて軽く吹かしていた。
「まさかここまでの騒ぎになるなんて考えもしなかったんですよ・・・いっそ通りをうろついている奴らを凍らせて・・・」
「雪女のお前さんかしたら、それが一番簡単かもしれんんが、それをやったらさらに人が来るぞ・・・SNSの世界で大盛り上がりになるな・・・日差しの中の謎の凍死事件の怪・・・とか言われるな」
「ですよね・・・・・」
「本当、本当、静かにしてるの一番やね!」
レンブランドの自画像の模写絵が喋り出した。
「あんたがじっとしてないのが原因でしょう」
「そこが一番の問題だよね。自分はじっとしてるのが苦手なのさ・・・」
「絵のくせにじっとしてることができないと・・・・・」
「そうなんだよね、僕はアクティブな絵なのさ」
冬華は引き出しからカッターを取り出した。
カチャ、カチャ、カチャ・・・
「・・・冬華ちゃん・・・それは何に使うのかな・・・・・」
「ゴミの絵を処分しようかと思いまして!」
「そのゴミの絵とは?」
「お前だよ!」
「キャ〜・・・人・・・人殺し〜」
「絵は人ではありません。切り刻めば、ただの燃えるゴミ!明日は燃えるごみの収集日ですから、すぐに処分出来ます」
「そりゃそうだ・・・証拠を隠滅する手段まで用意するとは完全犯罪を目論むか・・・・・旦那〜何とかして」
「うるさい!静かにしろ、もうすぐ予約のお客が来る!静かにしないなら俺がお前らを燃やしつくぞ」
店主の山ン本の怒りが伝わる。
「「・・すいません・・」」
その時、店のドアが開く音がした。
ドアに取り付けてある竹鈴の音が店に響く。
同時に、絵はいつも通りの姿に戻り、冬華は怒りの表情から営業スマイルに変わった。
店内に入ってきたのは70歳をかなり過ぎた印象の男性だった。ひどく疲れている表情をしている。
「いらっしゃいませ」
「3時に買取依頼をしていた遠藤と申します。店主の山ン本さんはいらっしゃるかな」
そこにゆっくりと画廊店主山ン本が出てきた。
「お待ちしておりました。私がこの画廊の店主山ン本も申します。奥へどうぞ」
ソファーへ案内する。
「いわく付きの絵を金額はいくらでもいいから処分したいと聞きましたが?」
「はい、そうです。この呪われた絵なんです」
小脇に抱えていた包みをテーブルの上に置く。
包みを解き絵を両手で持ち上げる。
人物画で若い女の絵だ。
絵の中の女の絵と目があった。絵の中の人物の表情が変わる。
『黙ってろ、この魔王山ン本五郎左衛門に喧嘩を売るなら貴様を無限地獄に叩き込んでやるぞ』
『・・・すいません。静かにしております・・・』
『この絵は、本物か贋作かどっちだ』
『本物です。本物の絵に私が取り憑いています』
『お前、この男に何をした』
『何もしてませんよ。一度だけ視線を動かしたところを見られただけで、後は人のいるところでは何もしないように気をつけていたんですけど・・・そしたら勝手に私のことを悪霊だとか、呪われているとか言い出したんですよ・・・本当に頭に来ちゃいます』
『わかった。そのまま静かにしていろ』
「ウ〜ン・・・絵は本物ですが、これですと一般の方に渡せるようになるにはかなりの刻がかかりますね」
「この絵を手に入れてから、不幸続きで最近はろくに眠れないのです。いくれでもいいです。早く手放したのです」
「では、10万円ですね。それでよろしければ引き取りますよ」
市場価格の20分の1程度の値段を提示した。
「それで結構です。その値段でお願いします」
男は逃げるように画廊を後にした。
入れ替わりに予期せぬ来訪者が訪れ、画廊は殺気に包まれた。
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