第26話 路地裏の恐怖

路地裏にそれはいた。赤髪を膝近くまで伸ばした女。長い髪で顔が隠れている。

その前には、恐怖のあまり声も出ないランドセルを背負った女の子がいる。

学校からの帰り道、いつものように近道をしようと路地裏に入ったら出会ってしまった。

必死に今来た道を戻って逃げようとするが、走っても走っても通りに出ることが出来ない。

通りから5mほどの距離しか無いはずなのに、走っても走っても通りに出ることが出来ない。

女はゆっくりと近づいてくる。

「・・こ・・こないで・・・」

泣きながら絞り出すように呟く。

「怖がらなくていいのよ」

そう言うと、女の髪が急激に伸びてきて女の子を包み込んでしまう。

そして、二人は闇の中へ消えていった。



「最近、子供の行方不明が頻発しているみたいなんだ。もう3人も行方不明になってるんだ」

新川君がそう話しかけてくる。

お皿のお化け事件以来、学校からの帰り道に最近やたらとついてくる。

何もした覚えはないのだが、僕がお皿を割ってしまったお姉さん以外は、何度通っても全く出会うことがなかった。

でも彼は、良宣のおかげだよと言う。

「もし、誘拐犯がいるなら、愛くるしい僕は真っ先に狙われそうで怖いよね」

「大丈夫じゃないか、考えすぎだろう」

うん、自分なら彼を狙わないな。だいたい食費がかかり過ぎる。学校には、いつもお弁当を3個持参。しかも特大サイズ。さらに時々足りないらしく購買部でパンを買っている姿を見かける。彼を誘拐したら食事の用意だけで大変だ。

「行方不明事件を聞いて、怖くなっておやつも喉を通らなくて、お母さんが心配してるんだ」

「気にしすぎだよ」

「いつもならドーナッツなら50個は行けるんだけど、今は10個しか食べられない」

いや、十分だと思いますけど。ドーナッツ10個でも多いよ。どこに入るの?

夕飯はさらにすごい量を食べるらしい。他の友人が夕飯にお呼ばれしたらしく、彼の家に行くと物凄い量の食事が用意されていて、一つのテーブルに乗り切らず別にもう一つテーブルが用意されていてそこにも料理が乗っていたそうだ。

普通なら、病気まっしぐらの生活なのに、学校の健康診断では極めて健康らしい。

そして、あの巨体で足が速い。不思議だ。

彼の存在そのもが学校の七不思議に数えられているほどだ。

こうやって街中を歩いていると、道の端々に邪気を感じる時がある。邪気は歩きながら素早く浄化するようにしている。

邪気を放っておくと大きな事件につながることと、陰陽師の練習にもなるから、最近は時々帰る道を変えながら邪気を浄化していた。

事故が頻発する魔の交差点は、邪気を浄化してから事故は起きなくなった。

新川君と歩いていると、妙な気配を放っている路地があった。

その路地に新川君が入ろうとしたので慌てて止める。

「ちょっと待って、そこに入らない方がいい」

「エッ・・・ここは近道だよ」

こんなところに路地があるなんて、今まで見たことがない。

「ここを、いつも通っているの?」

「エッ・・・通らないけど近道のはず・・・ウン?・・・通ったことないのにないのになんで近道と思ったんだろう・・・・・」

「新川君、そこの路地には近寄らないで離れてくれ」

慌てて路地の入り口から離れる。

どうする、単独でも対処できる自信はあるけど、不測の事態が起きた時が問題だ。

爺ちゃん、婆ちゃんや母さんを呼ぶと、違う意味で大事件が起きそうな予感がする。なので父さんに連絡を取ることにした。父さんはすぐ行くから路地には近づくな、他に近づく人がいたら止めるように言われた。

暫くすると2台の車がやってきた。1台はうちのワゴン車。もう1台は白いセダンで知らない車だ。

ワゴン車の助手席から父さんが降りてきた。山森神社の職員の人に運転させてて来たようだ。

「待たせたな。中に入ったりしてないだろうな」

「してないよ。自分達が来てから誰も中に入れてないし近づけてもいないよ」

「上出来だ。新川君だったね。送って行くからワゴン車に乗ってくれ」

新川君はワゴン車に乗り帰っていった。

白いセダンからは、疲れ果てた表情で目の下にクマがあり、天然パーマでくたびれたスーツ姿の男性が降りてきた。

「先輩、こんな怪しい事件で俺を呼ばないでくだいよ・・・」

「浜田!それは、無理だ。俺の後輩で警察官になった時点で呼ばれることは決定だ。それに、お前の上司や警察のお偉いさんもジャンジャン使って構わんと言ってるぞ」

「・・・公務員なのに社畜まっしぐらなのか・・・」

「これを解決できたらお前の手柄にもなるぞ」

「・・・・手柄よりも俺はただ平穏な生活が欲しい。・・交番勤務を志願しようかな・・・」

「無理だな。お前がいなくなったら、この手の事件にお前の上司が直接くることになるから上が認めないだろ。諦めろ」

浜田さんはガックリと項垂れる。

「・・・ハァ〜・・・わかりましたよ。自分はどうすればいいです」

「もう少ししたら他に警察官が来るから誰も入れないようにしてもらい、俺たち3人で中に入る」

「俺たち3人?」

「俺と浜田と俺の息子の良宣の3人」

「エッ・・・まだ、子供ですよ」

「陰陽術を使えばお前より強いぞ」

驚いた表情でこちらをマジマジと見ている。

「・・・猛獣の子は猛獣なんですね・・・」

「猛獣とは?」

「お父さんの武勇伝は聞いてないの?」

「噂話くらいは・・・」

「どんな噂か知らないが。おそらくほぼ事実に近いと思うよ。ついでに言うと、君のお母さんは更にその上を行くんだよね!息子の君を前にして悪いと思うがあの人は、怪獣か猛獣使いだよ」

「そこは否定できませんね、間違いなく自分もそう思います」

「お前ら勝手なこと言ってんじゃね。家庭のあり方や幸せははそれぞれだ。ちなみに俺には家庭での決定権は1ミリも無い」

「ドヤ顔で言わないでください。ドヤ顔で・・・それに、独身者の夢を壊さないでくださいよ」

そんなやり取りをしていたら準備ができたようだ。

「よし行くぞ。良宣はいつでも式神を出せるように準備しておけ。入ったらすぐ呼び出せ。先頭は、俺、次が良宣、最後が浜田で行くぞ」

頷くと早速路地に入って行った。

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